ここにきて、子どもたちの携帯電話やインターネット利用におけるネットの安全性が問われている。個人情報の扱いやウイルス、有害サイトの問題など、大人の社会で徐々に大きくなってきたネット上の問題が、ひとりに一台ずつ携帯電話を持ち、小さい頃からパソコンを含むデジタル機器を使いこなす子どもの世界にも、同じように起こってしまう。

教育現場でのICT活用を考える時、「情報活用能力」とセットで「情報モラル」を子どもたちには身に付けさせる必要がある。「ネットの安全性」は、デジタルネイティブな子どもたちのIT/ICTリテラシーについての大きな課題のひとつと言える。

しかし、専門的な知識も含め、子どもたちが理解できるようどのようにして伝えるのか、実際にそれを指導するのは誰なのか、といった問題がある。学校にすべてを任せるのは不可能だろう。政府や自治体が独自で取り組むとなると、何か新しい仕組みや制度を作るまでに時間やコストが掛かる。一方で、利用者に対するインターネット利用に関する啓蒙・啓発活動に取り組むIT企業では、とりわけ教育現場に対して力を入れる様子が伺え始めている。こうした企業活動が役に立つのであれば、どんどん取り入れ、協力して対処していくべきと考える。

マイクロソフトと地元シニアNPOの協力で「ネット安全利用教室」

この1月より、マイクロソフトとNPO法人「シニアSOHO普及サロン・三鷹」とが連携して、東京都三鷹市内の各小学校の授業において「インターネット安全教室」を実施していくことになった。

マイクロソフトとNPO法人「シニアSOHO普及サロン・三鷹」は連携して、東京都三鷹市内の各小学校の授業において「インターネット安全教室」を実施していく

同社は、以前よりオンラインサービス事業部(当時)が主体となって『親子で学ぶインターネット安全教室』などを開催してきているが、NPO法人と連携して開催するのは初めてとなる。その背景について、同社プラットフォーム戦略本部 セキュリティ戦略 エグゼクティブマーケティングスペシャリストの瀬川正博氏は、「全国で2万校以上ある小学校に対して活動していくには、社内リソースではまったく追い付かない。子どもたちにネットの安全性を学ばせる大切さに共感していただけるNPO法人の方たちとコラボレーションすることで、活動を有効に広げることができないかと考えた」と説明する。

マイクロソフトは、情報モラル教育用の素材を提供し、これを教材とした「インターネット安全教室」の講師を、同NPOのメンバーが担うという形態を取る。シニアたちの地域ビジネス参加のプラットフォームとして活動する「シニアSOHO普及サロン・三鷹」のメンバーたちには、もともとパソコン好きが多く、その中からパソコン教室のインストラクターなどの経験を持つメンバーが3~4人ずつチームとなり、市内の小学校を3月までに回っていく予定だ。

やるのとやらないのでは違う

三鷹市では、子どもを狙う悪質な犯罪が増えたことに伴い、2006年から市立小学校全15校に「みたかスクールエンジェルス(学校安全推進員)」を配置しているが、「地域の子どもたちは、地域で守り育てる」というコミュニティ・スクールの考えから、同NPO法人にその活動を委託している。朝夕、登下校の子どもたちの安全を見守る同NPOは、もともと学校と自治体との信頼関係もあり、子どもたちにも馴染みがあるわけだから、話は早い。

マイクロソフトからの声掛けで2008年11月に話し合いを開始し、同NPOが市の校長会で説明を行ったところ、今期は15校中5校の実施が決定し、残りの学校も来期以降の導入を検討している。

巡回一番目となる小学校での授業が、1月13日、同市の連雀学園三鷹市立南浦小学校において小学4年生を対象に行われた。授業を終えた子どもたちの感想は「ウイルスって聞いたことがあるけれど、どんなことが起きるのかは初めて知った」、「最初は難しいと思って緊張したけれど楽しかった。危なくないようにちゃんと使おうと思った」、「お父さんが知っているか、早速聞いてみようと思った」といったものだ。家庭で子どもと親がネットの危険性とは何かを話すきっかけになるかも知れない。

連雀学園三鷹市立南浦小学校で開催された「インターネット安全教室」の様子。シニアNPOのメンバーが講師を勤めた。その他に2~3人のメンバーが付き、講師の補助を行う

「個人情報」「いじめ(誹謗中傷)」「ダウンロード」「有害サイト」「コンピューターウィルス」の5つをテーマにそれぞれの言葉の意味と実際にはどんな危険性があるのか、どのように対処したらよいのかなどをマイクロソフトの教材を使って説明していく

たった一回でもやるとやらないのとでは、やはり違う。もちろん"情報モラルを噛み砕いて教えること"も大切なのだが、参加した子どもたちの反応を見ていて強く感じたことは、身近な大人たちが"君たちの安全を普通の生活でもネットの上でも気にしているよ"というメッセージを丁寧に伝えていくこと、その積み重ねが重要なのだろうということだ。

説明の後には、ゲーム式のクイズが用意されており、その日の学習内容を確認していく

授業終了後に「修了書」が渡された

授業終了後、NPOのメンバーたちが責任を持ち教材CDの片付けも行う

「ネットモラルの授業は中学生では遅すぎる」と校長即断

今回の取り組みは、教育委員会からの強制的な導入決定ではなく、実際に授業枠を取って行うか否かは、各学校の判断に任されている。年度内の単元スケジュールがすでにいっぱいといった理由もあって、現在は5校のみの参加表明となったわけだが、南浦小の松原邦宜校長は、校長会での説明を受けて、即座に「我が校でぜひやって欲しい」と手を上げたという。

その理由を、「先学期、地元警察が体育館を使って、一般の生活環境の中での『安全教室』を行ったが、その際、話題になっている携帯電話についても、所有率を聞いておこうと子どもたちに尋ねたところ、高学年のほとんど全員が持っていると手を上げた。そこまで来ていたとは、衝撃だった。これは今すぐに情報モラルや安全面の教育も行っていかなければ間に合わないと思っていたところに、今回の話をいただいた」と語る。

インターネットの安全教室と聞くとパソコンのイメージを持ちがちだが、現代っ子たちにとっては、携帯電話やゲーム機器などネットの窓口となるツールはひとつではない。同校長は「塾に通うようになる4年生からの携帯所有率が高くなるため、その時期に情報モラルをきちんと教えることが必要だと感じている。今まで、こうした教育は中学で、といった傾向があったが、それでは遅すぎる」と話している。

IT企業の情報セキュリティ啓蒙、啓発支援を利用しよう

マイクロソフトは、「インターネット安全教室」のWebサイトを2008年8月に一新。教師、教育関係のNPO、PTAなどの指導者向けに情報モラルの教育ができるようなコンテンツを提供している。今回教材として使用されたコンテンツも、同サイトからダウンロードまたは、CD-ROM郵送の申し込みが可能となっている。

マイクロソフトが制作した子ども向けのインターネット安全教室用教材「どうして、インターネットで○○してはいけないの?」。CDと絵本が用意されている 教育関係者など希望者には配布している

難しい言葉の意味の解釈など子ども向けに説明するには、多少の要領がいるようだ。子どもたちが集中して話を聞いている様子を見ると、楽しく学べる教材があるかないかは効果として大きい

また、「インターネット安全教室」の実施や「子ども向けコンテンツ」の提供など、子どもや親、教師に向けたネットの正しい使い方を教える啓蒙活動や支援を行っているIT企業の事例は他にもある。

例えばNTT東日本では、CSR(Corporate Social Responsibility)活動の一環として、デジタル時代のコミュニケーションの仕方、マナーをテーマにした小学生向け出張授業「ネット安全教室」を実施している。小学4~6年を対象にした授業枠計3コマのコースで、シチュエーション別に「メール」と「対面」での対話を使い分け、コミュニケーショントラブルを未然に防ぐコミュニケーション術を伝える内容となっている。(詳細は、「スーパーメディアキッズ」を参照)。

こうした企業が進める活動を、学校や自治体などの教育関係者、あるいは子どもの安全に取り組む地元有志やNPOの人たちに、積極的に利用していただきたいと思う。

マイクロソフト、TBS、ヤフーは2月7・8日、「情報セキュリティの日(※)」の関連行事として、共同で親子向けの情報セキュリティワークショップ「知っとく!親子トクトク情報セキュリティ・ワークショップ」を開催する。NPO法人CNAVASの協力のもと、TBS本社で開催され、講師は各社から登壇する。参加費は無料、先着順受付で小学4~6年生とその保護者が対象となる。詳細、申し込みは、「TBSブーブ★キッズ」サイトにて。

※情報セキュリティの日(2月2日)は情報セキュリティ政策会議(議長:内閣官房長官)にて制定された日となっている。