この世代は子供もそろそろ独立する年代で、教育費や生活費が大幅に少なくなる世代です。一方まだ現役であれば比較的余裕がある年代で、リタイア後の生活のための準備を行っているときでしょう。そろそろローンの借り入れは難しくなる年齢ですが、まだまだ不可能というわけではありません。すでに住まいを取得しているケースが多いと思いますが、第2の人生に向けて、自分らしく生きるための住まいを考える年代でもあります。

この年代の住まいの取得の動機は?

60歳前後というと、もう住まいを新規に取得する年代ではないと考えるかもしれません。しかし、現在の平均余命からするとまだ女性は30年程度の人生が残っています。第2の人生のための住まいを考えて何らおかしくない年齢なのです。この年代の人が新たな住まいを考える動機をいくつか考えてみましょう。

■ 自分らしく生きたい

まだ先が長いとは言え、子供も育ち、残りの人生お金をどう使うか見通しもつきます。今までは仕事や子育ての都合で住まいを考えてきても、これからの人生は思い通りの住まいを実現したいと思っても不思議ではありません。

■ 起業したい

長く組織の中で働いてきたら、一度は一国一城の主になってみたいと考えて起業するケースは少なくないでしょう。お店を開きたいと思えば、店舗付きの住まいを考える場合もあるでしょう。

■ 社宅暮らしだったので、マイホームに住みたい

海外勤務なども多くなってきた現状を考えれば、住まいを取得する機会がなかったケースも少なくないかもしれません。先日も定年前の社宅住まいが長かったご夫婦の相談を行ったばかりです。

■ いずれ田舎に帰りたい

田舎に住む家の確保が必要となります。

■ 老後は自然に囲まれて暮らしたい

Iターンへの潜在ニーズや都会にも拠点を残す2地域居住ニーズも意外に多くあります。

■ 子供世帯と同居したい

少なくなりつつありますが、相談業務をしていると、戸建て住宅の所有者の2世帯住宅への建て替え要望はまだまだあります。

■ 介護・親を引き取る

私の周りの同世代はほぼ介護を経験しています。年賀状の文言が判を押したように「介護の日々です」が数年続きました。しかしこれからの時代、晩婚化と共働きでないと生計を維持できない経済環境からすれば、親の介護は実質難しくなると思いますが、このケースも一定程度あるでしょう。

■ 戸建てからマンションへの住み替え

これからの生活を考えて維持管理が簡単でバリアフリーのマンションに住み替えるケースはよくあります。

■ マンションから戸建てへ

Uターン、Iターンのニーズからわかるように、あえて庭付きの住まいで老後を過ごしたいというニーズもまた当然あります。

健康寿命と住まい

これから30年、終の住み家にと考えて住まいを取得しても、それが生涯続くとは限りません。厚生労働省が平成29年7月27日に発表した平成28年の日本人の平均寿命はと健康寿命は下記のとおりです。男性は約10年間、女性は12年間の不健康期間があるとされています。

■ 平均寿命と健康寿命
男性 女性
平均寿命 80.95歳 87.14歳
健康寿命 71.11歳 75.56歳
不健康期間 9.84歳 11.58歳

当然健康状態と住まいの在り方は密接な関係にあります。上記の項目で思い描いた暮らしが、そのまま永久に続くかどうかは誰もわからないのです。55歳の女性であれば20年後には暮らしの変化が起きるかもしれないのです。残りの12年間を別の住まい方を余儀なくされないとも限りません。この年代の住まいの取得は、そのリスクを考えて購入する必要があります。

老後の貧困リスクに備えよ!

問題はこれからの人生、ある意味では人生の中で最も不確実性の高い期間と言える点です。いつ、どんな病気になるか、いつ寿命を迎えるか誰にもわかりません。なんとなく平均寿命を見据えていると思いますが、それは平均であって、振れ幅は大きいのです。誰もが平均寿命前後に密集して寿命を迎えるのではないのです。したがって、この時期の住宅取得は、この不確実で振れ幅の大きいこれからの人生に対応するものでなくてはなりません。もう一度新たな住まいに転居する可能性は少なくないのです。

したがって住まいの取得は相当の余裕を残した金額で考えるのが賢明です。何らかの変化があっても新たに収入を増やしての軌道修正が難しい年齢です。老後に貧困になるケースが問題になっていますが、こんなはずではなかったと、老後になってお金に困るケースをいくつか挙げておきます。

■ 老々介護が貧困を生む

親の介護のために早期退職するケースはよく耳にします。施設に空きがなかったり、入居費が高く断念したりすると、家族で対処せざるを得ません。夫婦ともどもそれぞれ親の介護を抱えているケースもあり、男性も自分の親は自分で介護する傾向にあります。収入が激減しますので、将来の生活設計が大幅にくるってしまいます。

■ 起業したけど失敗

新しく事業を起こして成功する確率はあまり高くありません。「退職金と貯金をはたいて、念願のお店を開いた」という話はよく聞きますが、成功して話題になるケースの背後には多くの失敗事例が存在するはずです。

■ 予想外の病気やけがなどで出費が増大した

健康保険が充実し、高額医療費制度もある日本で、なぜ医療費が高額になるのかと思うかもしれませんが、保険のきかない治療もあり、介護や看護の個別負担なども考えれば、夫婦二人とも病気などに罹患する場合も考えておかなければなりません。

■ 災害

仮設住宅に最後まで残らざるを得ないのは高齢者が多い現実は考えておかなければなりません。

先々、生活の立て直しが難しい年代となるので、「計画はゆとりをもって」がポイントです。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

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