連載コラム『知らないと損をする「お金と法律」の話』では、アディーレ法律事務所の法律専門家が、具体的な相談事例をもとに、「お金」が絡む法的問題について解説します。


【相談内容】
最近、軽減税率導入に関して少し気になったので、色々とニュースを見てみると、マイナンバーカードを活用する還付金案は撤回され、軽減対象の商品に印をつけ、税率ごとに計算をするという話を見つけました。軽減税率を導入する場合、2017年4月の消費税増税までに間に合うようにするための立法スケジュールというものはどのようになるのでしょうか。「税制大綱」という名前を聞きますが、そもそも税に関する法律はどのように決まっていくのでしょうか?

【プロからの回答です】

軽減税率って何? 国民のメリットは?

最近、ニュースで耳にする「軽減税率」という言葉ですが、「イメージはなんとなく湧くけれど、いまひとつ制度の詳細は不明」という方も多いのではないでしょうか。

「軽減税率」とは、一般的に課される税率とは別枠として特定の物についてのみ低率で課される税率のことです。2017年4月に、消費税が現在の8%から10%に引き上げられる予定ですが、特に、低所得者層の生活費関連の負担が増大することが懸念されています。そのため、低所得者層の負担を軽減化するため、生活必需品等の特定の物品について軽減税率を適用し、税負担のバランスを図っていこうというのがその目的です。

そもそも消費税は、「消費」にかかる税となります。高所得者層は、所得を投資等の消費以外の出費に充てることが多く、所得に占める消費の割合が少ないとされていますので、消費税アップの影響がさほど大きくないと考えられています。低所得者層はその逆で、所得に占める消費の割合が多く、その分、消費税率アップの影響が直接的に及んでしまうと考えられているのです。

消費税率の与える影響がそのような性質のものである以上、軽減税率は、低所得者層の生活が圧迫されるのを未然に防ごうとする趣旨のものといえます。消費税率が一律に10%に増税されるよりは、一部の商品が8%に据え置かれるだけでも負担減といえますし、特に、「購入せねば生活できないような品目」について税率8%に据え置かれれば、消費者に効果的な減税効果が望まれます。

しかし、高所得層が購入する必需品の額はそもそも高いのでは? 軽減される税金の額でいえば高所得層のほうが多額になるのでは? など一概には割り切れない疑問点もあり、はたして真に低所得者層に優しい政策になるのか否か、議論が分かれるところです。

2017年4月までの立法スケジュールはどうなる?

現在においてもいまだ制度設計について混迷し続けている軽減税率ですが、先月、自民党の宮沢洋一税制調査会長が、軽減税率を導入する以上は、2017年4月の消費税と同時に導入を目指すというよりも、導入すると明言をしていました。

それでは、軽減税率導入を消費税増税に間に合うようにするためにはどのような立法スケジュールになるのでしょうか。

軽減税率導入には、対象品目をどこまで広げるか、どの品目を対象とするかについて、自民党と公明党でもいまだ議論が続いており、波紋を呼んでいます。大きな論点として、自民党は対象品目を「生鮮食品」のみに限定したいのに対して、「加工食品」まで加えるべきというのが公明党の立場であり、与党の間でも議論が交わされています。

商品ごとに異なる税率と税額を記した請求書(インボイス)の導入についても、当然、経済界からの強い反発があり、この点も何らかの手立てが必要になるかもしれません。軽減税率導入とひとことでいっても、解決すべき課題は山積みです。

これらの話し合いが平行線をたどれば、本来慎重な検討の上で細目まで決定すべき法案が、中身が熟さないまま外枠だけ定めた法案として通ってしまい、制度開始の時点で社会が混乱してしまう懸念もあります。

当初は、平成27年11月20日頃までに、軽減税率の制度設計に関する大筋合意を成立させる予定でしたが、現在、目標は12月中旬に先送りされた模様です。平成28年度税制改正大綱の取りまとめも12月中旬~下旬頃には決定し、平成28年1月の通常国会に関連法案を提出する流れになります。平成28年中に関連法を成立させなければ、平成29年の消費税率10%引き上げと同時に軽減税率を導入することは困難となります。非常にタイトなスケジュールといえます。一分一秒を争い、真剣な議論と決断が要求されているということになります。

そもそも、税に関する法律ってどのように決まるの?

先ほど出てきた税制大綱という言葉ですが、税制大綱とは、翌年度の税制改正法案を決定するのに先立ち、与党や政府が発表する税制改正の原案です。これは政府が国会に提出する税制改正法案の元になるもので、税法改正のたたき台のようなものです。

税制改正については、4月頃に「政府税制調査会(政府税調)総会」が開催されることとなります。内閣総理大臣が示した次年度の税制改正に対する基本的な考え方に基づいて審議が進められ、この審議は、秋まで継続されます。9月・10月・11月には自民党税制調査会(自民税調)から検討案が提示され、政府税調において具体的な検討がされるという段取りを踏みます。そして、12月中旬に政府税調の答申の発表と、与党税調の税制大綱の発表がなされます。12月下旬には税制大綱と予算原案の発表がされ、12月末に政府が予算案を国会へ提出し、翌年の1月から税制改正案・予算案が審議修正され、可決成立します。このように、税に関する法律は1年かけて作られるわけです。2017年4月から制度運用開始とするためには、ぎりぎりのスケジュールではないでしょうか。

まとめ

軽減税率がどのような制度になるかについては、国民にとっても、経済界にとっても、多数の事業者にとっても、死活問題といえるほど重要な問題です。しかしながらそのスケジュールの厳しさから、本来議論されるべき事項が議論を尽くさないままに決まっていく懸念が払しょくできません。政府内でも税収減の問題から軽減税率に慎重な自民党と生活者目線から対象品目の拡大に積極的な公明党との間で意見の食い違いがあり難航しています。さらに、消費者にとっても、結局、軽減税率の対象品目が分かりづらく不透明なまま意見も言えないといった問題があります。

今回の消費税増税についてももちろんですが、さらなる消費税増税があれば、再度軽減税率に関する重要な議論は繰り返されることが予想されます。このトピックに関する知識をしっかりと備えておくこと、さらには、国民の意見を反映する選挙という場面においても政策をしっかり見定めることが、われわれにとっても重要課題といえそうです。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

篠田 恵里香(しのだ えりか)

東京弁護士会所属。東京を拠点に活動。債務整理をはじめ、男女トラブル、交通事故問題などを得意分野として多く扱う。また、離婚等に関する豊富な知識を持つことを証明する夫婦カウンセラー(JADP認定)の資格も保有している。外資系ホテル勤務を経て、新司法試験に合格した経験から、独自に考案した勉強法をまとめた『ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた夢がかなう勉強法』(あさ出版)が発売中。『Kis-My-Ft2 presentsOLくらぶ』(テレビ朝日)や『ロンドンブーツ1号2号田村淳のNewsCLUB』(文化放送)ほか、多数のメディア番組に出演中。 ブログ「弁護士篠田恵里香の弁護道