連載コラム『知らないと損をする「お金と法律」の話』では、アディーレ法律事務所の法律専門家が、具体的な相談事例をもとに、「お金」が絡む法的問題について解説します。


【相談内容】
私の友人の話なのですが、勤めている会社が昨年度から業績が悪化し、先日急にリストラにあったようです。前々からリストラが伝えられていた訳ではなく、本当に突然明日から来なくてよいと言われたそうです。そこで、友人の変わりに聞きたいのですが、リストラとはいえ急に解雇を言い渡されることがあるのでしょうか。また、退職を迫られたら断る事はできるのでしょうか。友人は退職の際に業績悪化を理由に退職金も出なかったそうなのですが、それって違法にならないのでしょうか。

【プロからの回答です】

リストラが不当解雇にあたるのであれば当然断ることができます。今回は十分な説明もなく急に「解雇」と言われているようなので、少なくとも「解雇のための適正な手続きがなされていない」として不当解雇にあたる可能性が高いでしょう。仮に、正当な解雇と判断された場合であっても、予告のない解雇については手当が支給されるべきことになっていますし、既に、会社の退職金規定により退職金を受給する権利を得ていたのであれば、退職金も請求することができます。

そもそも「リストラ」ってなに?

リストラとは、会社側が、経営上の理由により人員整理のために労働者を解雇することをいいます。リストラは、労働者側に原因があって解雇を言い渡されるケースと異なり、あくまで労働者側の事情によって一方的に労働者を職場から退かせることになるので、相当に合理的な理由が必要とされます。

最近の裁判例に従えば、

  • (1)業績悪化等、人員を削減せざるを得ない必要性があるかどうか、またその程度

  • (2)一時休業や希望退職など、解雇以外の方法を講じる努力をしたかどうか

  • (3)労働者を解雇する必要性があるとしても、誰を解雇するかについて基準を設定して公正な選定をしたかどうか

  • (4)解雇にあたり、労働者側にその必要性と解雇時期や人員削減の規模、方法等について

以上4点をふまえ、十分な説明を行い、労働者にとっても適正な手続きが与えられたと言えるかどうかなどを考慮して、正当な解雇かどうか厳しく判断されることになります。いくら業績が悪化したとはいえ、企業として何ら努力せず、安易な選択肢として「リストラ・解雇」となったのであれば、このようなリストラは不当解雇として許されないことになります。

解雇とリストラ、希望退職との違いは

解雇とは、会社側が労働者との雇用契約を一方的に解除することです。要は、会社が労働者をクビにするということです。リストラも解雇のうちの1つといえますが、人員整理の必要がない場合に、特定の個人を解雇する場合は、何らかの解雇理由があるのが通常です。例えば、会社の規律に関して重大違反があった場合や、無断欠勤が続く、といった場合は正当な解雇理由に当たる可能性があります。

ただ、「解雇」というのは、労働者にとって職を失うという重大な結果を伴うため、使用者が労働者を解雇する場合には、就業規則に規定された解雇事由がなければならないほか、(1)30日以上前に予告するか、30日分以上の手当を支払う必要がある(労働者に相当の落ち度があった場合は別)、(2)解雇には相当な合理的理由が必要、など、相当厳しい制限がかけられています。これらの要件を満たさない限り、解雇は不当解雇として無効になります。

希望退職募集制度とは、業績悪化などで人員削減が必要となる場合に、退職金の上乗せ支給を行うなどの動機付けを図ることで退職希望者を募り、自発的な退職を促す制度のことをいいます。労働者にとっても、「今後会社の将来が期待できないのであれば、再就職のためにむしろ資金調達をしよう」と考えて自発的に退職をするといった選択肢が生まれることになります。希望退職募集制度は、自発的に退職の意思表明をしているものの、あくまでその根底の理由は、「会社側の都合で人員削減をする必要がある」ということにあることから、あくまで「自身の都合によって自発的に会社を辞める」という自主退職とは、趣旨が異なります。

失業手当への影響について(自己都合になるのか、会社都合になるのか)

失業手当は、自己都合退職の場合と会社都合退職の場合で、受給できる給付日数・金額や時期が大きく異なってきます。したがって、「会社を退職する」にあたり、「自己都合」となるか「会社都合」となるかどうかは、失業手当を受けるうえで大きな影響があるということになります。「会社都合」の離職者としての地位を得た方は「特定受給資格者」といって、雇用期間等に応じて、離職後まもなくして失業手当を受けることができます。一方、自己都合の離職者は、受給できる給付日数や金額が少なく、離職後3カ月間は受給できないという制限もついてしまいます。

リストラの一環として「自発的な退職を促した場合(希望退職)」が自主都合となるのか会社都合となるのか、問題となります。ただ、通常は、希望退職の場合に、「会社都合による退職」という処理はしてくれていないはずです。離職票の離職理由欄が「労働者の個人的な事情による退職」にチェックが入ったまま、失業手当の手続きを踏めば、当然そのまま「自己都合退職」として処理されてしまうことになります。

ここで知っておいていただきたいのが、特定理由離職者という制度です。例えば、「会社の人員整理などで、希望退職の募集に応じた」という場合などには、自己都合退職のかたちをとっていても、実質は会社都合と同視できる、ということから、「特定理由離職者」=「正当な理由のある自己都合退職」として、会社都合退職と同じ扱いとしてもらえる可能性があります。希望退職をした場合には、失業手当の手続きの際に、必ず、この特定理由離職者にあたる旨の説明を行うようにしましょう。

今検討されている金銭解雇制度って労働者にとってメリット? デメリット?

現在検討されている「金銭解雇制度」とは、裁判で、会社による解雇が「不当解雇」と認められた場合に、会社から補償金を受けとることによって職場を離れることができる制度のことをいいます。

現在の裁判では、「不当解雇」が認められた場合には、「解雇は無効なのだからいまだ会社との雇用契約が継続している」という地位が確認されることになるため、慰謝料のほか、これまでの賃金相当分と、「職場に戻れる地位」を獲得することができることになります。ただし、実際には「解雇騒動」で揉めた労働者は、職場に戻っても働きづらい環境におかれる可能性が高いです。ですので、実際には職場に戻らず、結局お金で解決して会社を辞めるという選択肢を選ぶ方も少なくありません。

こういった経緯と照らし合わせ、解雇された人の選択によって、「職場に戻る代わりに会社から補償金を受け取ることで、会社を退職できるようにする」という制度が金銭解雇制度として検討されているということです。

現在検討されている金銭解雇制度は、あくまで、「不当解雇」が認定された場合の事後的な制度であって、いわゆる「労働者に金銭を払えば正当に解雇することができる」という事前型の制度ではないようです。事前型の金銭解雇制度を導入してしまうと、不当解雇を誘発するおそれがあるため、現実的に見ても導入の可能性はほぼないといえるでしょう。実際に事後型の金銭解雇制度であれば、アメリカ、フランス等の主要国で利用されているようです。

制度が仮に制定されたらどうなる?

金銭解雇制度が実際に導入された場合、同制度が労働者にとって優しい制度になるか否かは、その中身によるといわざるを得ません。実際に支払われる「補償金」が、あまりに低いということであれば、裁判をして現実に回収するという現在の制度にのっかっていたほうが経済的メリットは高いということになるでしょう。

たとえば、厚生労働省発表による不当解雇の場合の2012年~2013年の会社の支払額の平均を見てみましょう。労働局のあっせんによる解決は、申し立て~合意成立まで1.4カ月(中央値)で、会社から支払われる額(中央値)は15.6万円となっています。労働審判は申立日から審判の終了まで2.1カ月かかり、支払額は110万円となっています。さらに、民事裁判の場合は、民事裁判の和解で終結した事案では、解決まで平均9.3カ月かかり、和解の場合に支払われる額は230万円となっています。そうであれば、あえて簡潔に表現するのであれば、裁判をした場合には、少なくとも230万円程度の補償金を受け取ることができるような制度でなければ納得できない、ということになります。実際には、「不当解雇されてから解決までの期間」も基準とせざるを得ないように思います。

今回金銭解雇制度が検討されるのが「裁判」のみか「審判」も含むか、労働局のあっせんにも何らかの変更が加わるのかを含め、「労働者に正当な補償をしたうえで労働者の納得のもと職を離れることができる」制度になることが期待されます。ただ、実際には、さほど高額の補償金を払う制度にはならないのではという懸念の声も聞こえます。

「裁判」や「審判」後、会社から金銭を回収する労力や金額との関係で、金銭解雇制度を利用した方が簡便でかつ経済的メリットが高いということであれば金銭解雇制度を利用した方がいいですし、逆に労力をかけてでもしっかり交渉した方がメリットは大きいということであれば、この制度を利用せず、金銭の回収を図るほうがよいともいえます。金銭解雇制度が労働者に優しい適正な内容になることを、今は見守るばかりというところでしょう。

まとめ(メッセージ)

金銭解雇制度は、いまだ制度の構築中であり、その内容がどのようなものになるかは不明です。ただ、仮に同制度の運用が始まったとしても、リストラや希望退職に応じるべきか否か、また、裁判所に訴えるかどうか、同制度を利用するか否かは、裁判の見込みやこれによって得られるメリットデメリット等複雑な問題をはらんでいると言わざるを得ません。当然、職場に復帰すべきか離職すべきかの判断もケースバイケースと言わざるを得ません。

「退職」というのは、人生の上でも極めて大きな問題といえます。「退職」問題に直面した場合は、今後の見通しやメリットデメリットを総合的に検討する必要がありますので、やはり、専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

<著者プロフィール>

篠田 恵里香(しのだ えりか)

東京弁護士会所属。東京を拠点に活動。債務整理をはじめ、男女トラブル、交通事故問題などを得意分野として多く扱う。また、離婚等に関する豊富な知識を持つことを証明する夫婦カウンセラー(JADP認定)の資格も保有している。外資系ホテル勤務を経て、新司法試験に合格した経験から、独自に考案した勉強法をまとめた『ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた夢がかなう勉強法』(あさ出版)が発売中。『Kis-My-Ft2 presentsOLくらぶ』(テレビ朝日)や『ロンドンブーツ1号2号田村淳のNewsCLUB』(文化放送)ほか、多数のメディア番組に出演中。 ブログ「弁護士篠田恵里香の弁護道