連載コラム『知らないと損をする「お金と法律」の話』では、アディーレ法律事務所の法律専門家が、具体的な相談事例をもとに、「お金」が絡む法的問題について解説します。


【相談内容】
友達が車を運転していた時、赤信号のため停車をしていると、後ろにいた車がブレーキとアクセルを間違えて踏んでしまったようで、いきなり突っ込んできました。病院で診断してもらったところ、手首の骨折と鞭打ちと診断され、1カ月間入院することになってしまったのですが、半年後、治療が完了して加害者側の保険会社から示談金額の提示がありました。友達は提示された金額が妥当なものか判断できず、このまま示談していいのかを悩んでいるのですが、このケースの場合、どれくらいの金額が妥当なのか教えてもらえないでしょうか?

【プロからの回答です】

交通事故の発生から「示談」の流れは?

交通事故でケガをした場合、必ず、「人身事故」として警察に届けましょう。仮に「物損事故」処理にしてしまうと、必要な治療費が支払われないなどのトラブルになりかねません。そして、事故後は速やかに病院に行ってください。忙しいからなどと、通院を先延ばしにすると、「事故による怪我ではない」などと判断されるおそれもあり、慰謝料はおろか治療費まで自費負担となる可能性が出てきます。

また、適切な治療をうけ、事故による怪我の補償をしっかり受けるためには、必要な検査やそのタイミング、病院への通院状況等も重要な意義を持ってきます。ですので、なるべく早く、これらの点に関して、専門家に相談し法的アドバイスを受けることが大切です。

通院が終了となるタイミングを「症状固定(これ以上通院を継続しても症状が変わらない状態)」といいます。症状固定時に治りきらなかった痛みや症状が残った場合には、後遺障害の等級認定を受けることが必要です。一番低い等級である14級の認定でも、裁判所基準の慰謝料が110万円です。後遺障害の等級認定が下りるかどうかは、示談金の額を大きく左右するといえますので、 後遺障害が残っている場合には、「後遺障害診断書」を医師に記載してもらいましょう。等級認定が下りれば、以下の基準に基づく後遺障害慰謝料が支払われるべきことになります。

裁判所基準(赤い本ベースの場合)

(※この基準額は一応の目安であり、事案ごとの個別的な事情に応じて、適宜慰謝料額の調整がなされます。)

この基準はあくまでも裁判を起こした場合に認められるべき金額ですので、任意交渉で示談する場合には若干譲歩することが通常です。なるべく裁判所基準の金額に近づけるように増額の交渉をしていくことになります。

等級認定の方法は、保険会社任せにする「事前認定」と、被害者側から手続きを踏む「被害者請求」があります。被害者請求の方が、等級認定のために必要な資料の精査や主張の吟味ができますので、等級認定のためにふさわしいといえます。被害者請求の申請内容や資料についても、相当な法的知識が必要になりますので、弁護士を頼っていただくことがベストでしょう。

通院が完了した場合や、後遺障害の等級が確定した場合には、保険会社から「示談金額」が提示されます。ただ、この提示額は相当低い金額であることが多く、正当な金額に増額してもらうために交渉が必要となります。

保険会社と交渉の結果、「正当な金額」に増額された場合、最終示談となります。交渉を重ねても保険会社が妥当な提案をしてくれない場合には、裁判を起こすことも視野に入ります。ただ、多くの場合は、任意交渉により示談成立に至れることとなり、裁判まで必要となるケースは非常に少ないです。

示談金とは?

交通事故の被害にあった場合、補償されるべき損害項目は多数にのぼります。治療費や、通院のための交通費はもちろん、けがをしたことに対する慰謝料などは必須の項目といえるでしょう。会社を休んだ場合の休業損害、入院した場合の入院諸雑費や、付添費用、その他もろもろ事故によって生じた損害は原則全て支払われるべきというのが法的な考え方です。

また、後遺障害が残った場合には、それ自体に対する「後遺症慰謝料」や、将来の仕事等に影響が出るであろうという意味での「後遺症逸失利益」も示談金として支払われます。後遺障害の内容によっては将来治療費や自宅改造費用等、将来必要になるべき費用等も計上する場合があります。

不幸にも死亡事故となった場合には、死亡慰謝料や葬儀費用、将来稼げたはずの給与相当額なども示談金の内容になります。

示談金が正当な金額かどうかについては、 下記2つの視点が必要です。

  • (1)必要な損害項目が全て計上されているか

  • (2)その各金額が妥当な金額か

たとえば、専業主婦には「休業損害」が支払われないと思われがちですが、「家事従事者」として女性の平均賃金を基礎に支払われるべき場合があります。また、少なからず、慰謝料については本来の金額より相当低額の提示になっていることが多いです。

示談金については、「請求すべき項目はしっかり請求する」「金額が低い場合は正当な金額を主張する」という増額のための交渉がいわば必須となっています。

慰謝料はどうなる?

交通事故でけがをした場合の慰謝料は、「けがをして辛かった」「通院が大変だった」等の精神的苦痛に対する補償という意味合いを持ちます。個々の事例につき、「どれだけつらかったのか」を金額で算定することは困難です。なので、一般に「入通院慰謝料(別表I・別表II)」という表を用いて金額を算定します。

裁判所基準(『赤い本』による場合)

「けがの内容」により「別表I」と「別表II」を使い分けます。むち打ち症で他覚症状がない場合には別表IIを用い、それ以外の場合は原則別表Iを用います。入院と通院の長さ・通院状況により、交差する部分の額を算定します。傷害の部位・程度により、20~30%増額調整する場合もありますが、基本的には表の額が基準となります。

たとえば、今回のケースでは、骨折までしていますので、別表Iを用います。1か月の入院と5か月の通院なので、入院1月と通院5月の交差する部分=141万円が慰謝料の基準ということになります。

【事例】

家事への影響を正当に評価してもらい大幅な増額!

歩行者対自動車の事故により、200日の入通院を続けた結果、膝に痛みが残ってしまいました。後遺障害12級の認定に至ったものの、保険会社からは「専業主婦」であることを理由に、休業損害や後遺症逸失利益をさほど認定してもらうことができず、当初合計630万円の示談金を提示されていました。

しかし、弁護士を介して、「事故による怪我・後遺症が家事へ影響すること」を主張し、休業損害と後遺症逸失利益の増額交渉、また慰謝料の増額交渉を行った結果、示談金が1100万円以上という大幅な増額となりました。

後遺症逸失利益0円と言われたのにもらえた!

バイクで交差点の信号待ち中、後続車に衝突された事案で、医師には後遺障害14級9号が認定される可能性があると説明されていましたが、弁護士が資料や症状を精査した結果、医師の説明よりも上位の等級が認定される可能性が高いと判断しました。診断書には自覚症状欄を詳細かつ的確に書いてもらい、資料をそろえ申請したところ、12級13号が認定されました。

当初保険会社は、事故後も仕事を継続していたことを理由に後遺症逸失利益は0円で、さらに後遺症慰謝料もわずかしか支払わないという主張でした。弁護士が過去の裁判例を駆使することにより、最終的には「身体の痛みが今後の仕事に影響が出ること」「後遺症は今後も甚大な精神的苦痛を残すこと」を認めてもらうことに成功し、約160万円の逸失利益、260万円超える後遺症慰謝料を認めてもらうことができました。示談金の総額も当初想定していた金額をはるかに超える710万円超となりました。

交通事故でケガをした場合、不利な条件で示談に応じてしまっているのが現状

交通事故でケガをした場合に、極めて不利な条件で示談に応じてしまっているのが被害者の方々の現状です。交通事故はある日突然起こり、その人の人生さえも変えてしまうことがある一大事です。正当な対応及び補償を受けることは被害者の方の当然の権利といえます。

にもかかわらず、けがの痛みに加え、保険会社との煩雑なやり取りを強いられるのは、いわば二次被害と言っても過言ではありません。

弁護士費用特約(弁護士費用を原則300万円まで任意保険の特約でまかなえる制度)などを利用できるケースも多くありますので、交通事故の被害に遭われた場合は、弁護士に相談することが大切だということも、覚えておいてくださいね。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

篠田 恵里香(しのだ えりか)

東京弁護士会所属。東京を拠点に活動。債務整理をはじめ、男女トラブル、交通事故問題などを得意分野として多く扱う。また、離婚等に関する豊富な知識を持つことを証明する夫婦カウンセラー(JADP認定)の資格も保有している。外資系ホテル勤務を経て、新司法試験に合格した経験から、独自に考案した勉強法をまとめた『ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた夢がかなう勉強法』(あさ出版)が発売中。『Kis-My-Ft2 presentsOLくらぶ』(テレビ朝日)や『ロンドンブーツ1号2号田村淳のNewsCLUB』(文化放送)ほか、多数のメディア番組に出演中。 ブログ「弁護士篠田恵里香の弁護道