連載コラム『知らないと損をする「お金と法律」の話』では、アディーレ法律事務所の法律専門家が、具体的な相談事例をもとに、「お金」が絡む法的問題について解説します。


【相談内容】
私は結婚10年目の専業主婦です。会社員の夫と7歳になる息子と3年前に購入したマイホームで仲良く暮らしていました。しかし、先日、夫の携帯電話を見てしまい、不倫相手と思われる女性と仲良さそうに写っている写真やデートの約束をしているメールを発見してしまいました。夫が不倫していることがショックで、離婚を考えていますが、専業主婦のわたしは子供を食べさせていける経済力もなく、まずは仕事を探してから離婚しようと思っています。

ただ、仕事が見つかったとしても女手一つで子供を育てていくのは無理があると思います。主人に不倫に対する慰謝料を出来るだけ多く支払ってもらってから離婚したいのですが、不倫の慰謝料って大体どれくらいなんでしょうか?

また、財産分与や子供の養育費についても教えてください。

【プロからの回答です】

3回に渡ってお伝えする「離婚」にまつわるマネーの話、「慰謝料」・「財産分与」・「養育費」の中で、今回は「財産分与」について取り上げてみたいと思います。前回の「慰謝料」同様、この「財産分与」に関する知識もしっかり身に着けていた方が離婚の際には有利に働きます。

「財産分与」とは?

財産分与とは、離婚の際に、「夫婦間で築いてきた財産を分けよう」という手続きのことです。結婚後に購入したマイホームや車などが典型ですが、ふたりで貯めてきた貯金、家具・家電など、夫婦で協力して築いた財産と認められれば、名義にかかわらず財産分与の対象となります。

財産分与の対象となるのは、あくまで、「夫婦の協力あってこそ」の財産です。逆に、夫婦の一方が単独で得た財産は、「特有財産」といい、財産分与の対象になりません。特有財産の例としては、結婚前から貯めていた貯金や、親から相続した遺産などがあげられます。

請求できる項目・金額をしっかり知っておくことが重要

財産分与について、「夫婦間にめぼしい財産がない」という理由で、何も取決めずに離婚してしまう方がまだまだ多いようです。ただ、見落としが多いのも現状です。離婚で損をしないために、財産分与において請求できる項目・金額をしっかり知っておくことが重要です。基本的には妻の寄与ありと判断される財産すべてが対象です。生命保険の解約返戻金、将来支払われる可能性が高い退職金などもすべて、財産分与の対象となります。

財産分与で損をしないためには、不動産・車や高価なモノ、家具家電・預金のほか、夫の持っている有価証券、へそくり、生命保険の加入実績、会社の退職金規定等、対象財産の内容をしっかり把握することが前提となります。

「稼いできたのは夫で、私は専業主婦だし」と財産分与で弱気になってしまう方もいますが、日本の法律ではあくまで、「専業主婦もしっかり働いている。財産分与では2分の1の持ち分を主張できる」のが原則です。弱気にならず、夫の財布は二人の財布というくらいの気持ちで、財産もしっかり把握し、自己にとって最も有利な取り決めを行いましょう。

実際の事例はどうなっている?

財産分与の統計を見てみましょう。

(平成25年 司法統計より)

平成25年の司法統計によれば、財産分与は"夫から妻へ"行われるケースが8.5割超。いまだ、貯金や不動産等の財産が夫の名義となっていることが多いことを示しています。なので、妻は財産分与の請求をしないままで離婚すると相当に損をする可能性が高いといえます。

また、財産分与というと、今ある財産を分けるだけというイメージがあるかもしれません。しかし、急な離婚により今後の生活が難しい…という場合には、将来の支払いが命じられるケースもあります。離婚後の生活を支える名目で、定期的な支払いをしなさいという内容の「扶養的財産分与」についても知っておいていただければと思います。

財産分与の金額は?

財産分与の金額についても見てみましょう。

(平成25年 司法統計より)

平成25年司法統計によると、婚姻期間が長ければ長いほど、財産分与の金額は高くなることが明らかに見てとれます。婚姻期間が1年以上~5年未満では100万円以下が6割以上で、600万円超が1割以下となっています。一方、婚姻期間が25年以上の場合では、100万円以下が1割以下で、600万円超が5割となっており、1000万円を超えるケースも1割を超えていることが分かります。

婚姻期間が長ければそれだけ財産が増えることと、年齢が上がればそれだけ収入も増えることが統計の理由づけとなりそうです。女性からしてみれば、熟年離婚であればあるほど、「財産分与の取り決めはしたほうがいい」ということがいえそうですね。

財産分与の対象となるものが「何もない」と思って取り決めしないのはご法度

財産分与の対象となるものが「何もない」と思って取り決めしないのはご法度。請求できるものがこぼれている可能性は大ですので、しっかり調査することが大切です。離婚の話し合いが泥沼化するケースでは、夫が自分の財産を隠していることも多いです。離婚が視野に入ったときには、夫にばれないうちに、どの銀行のどの支店に口座があるか、有価証券をどれくらい持っているか、生命保険の加入状況がどうなっているか、などを把握しておく必要があります。

夫宛に届いた封書を正当な理由なく勝手に開封してしまうと、「信書開封罪」となる可能性もありますが、開封せずとも送り主を知っておくことが重要です。退職金や将来の年金の分配など(現在は年金分割という制度になっています)も、権利主張が可能な場合がありますので、おひとりで判断せず、弁護士に相談をしてくださいね。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

篠田 恵里香(しのだ えりか)

東京弁護士会所属。東京を拠点に活動。債務整理をはじめ、男女トラブル、交通事故問題などを得意分野として多く扱う。また、離婚等に関する豊富な知識を持つことを証明する夫婦カウンセラー(JADP認定)の資格も保有している。外資系ホテル勤務を経て、新司法試験に合格した経験から、独自に考案した勉強法をまとめた『ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた夢がかなう勉強法』(あさ出版)が発売中。『Kis-My-Ft2 presentsOLくらぶ』(テレビ朝日)や『ロンドンブーツ1号2号田村淳のNewsCLUB』(文化放送)ほか、多数のメディア番組に出演中。 ブログ「弁護士篠田恵里香の弁護道