連載コラム『知らないと損をする「お金と法律」の話』では、アディーレ法律事務所の法律専門家が、具体的な相談事例をもとに、「お金」が絡む法的問題について解説します。


【相談内容】
私は結婚10年目の専業主婦です。会社員の夫と7歳になる息子と3年前に購入したマイホームで仲良く暮らしていました。しかし、先日、夫の携帯電話を見てしまい、不倫相手と思われる女性と仲良さそうに写っている写真やデートの約束をしているメールを発見してしまいました。夫が不倫していることがショックで、離婚を考えていますが、専業主婦のわたしは子供を食べさせていける経済力もなく、まずは仕事を探してから離婚しようと思っています。

ただ、仕事が見つかったとしても女手一つで子供を育てていくのは無理があると思います。主人に不倫に対する慰謝料を出来るだけ多く支払ってもらってから離婚したいのですが、不倫の慰謝料って大体どれくらいなんでしょうか?

また、財産分与や子供の養育費についても教えてください。

【プロからの回答です】

離婚して、女手ひとりでお子さんを育てていく…という場合、やはり一番気がかりなのが今後の生活ですよね。引っ越しが必要な場合もありますし、生活ができなければ元も子もありませんので、ある程度まとまったお金を準備しておくこと、今後の収入を確保することはしっかり考えておくべきといえます。その意味では、離婚の際の「慰謝料」や「財産分与」、将来の「養育費」について、離婚の際にしっかり検討しておくことはとても重要な視点です。

今回はその中でも「慰謝料」についてお話したいと思います。

不倫の「慰謝料」って法的には何に基づくの?

離婚の際、「あなた不倫したんだから慰謝料払ってよ」という話はよく聞きますね。不倫の慰謝料とは、法的には、民法709条の不法行為(=故意または過失によって人に損害を与えた者は、その賠償責任を負いなさいというもの)に基づくものです。「不倫によって円満な夫婦関係を壊し、これによって精神的苦痛(損害)を与えたので、それを金銭で賠償しなさい」というのが慰謝料請求の中身ということになります。

不倫の慰謝料は、精神的苦痛が大きければ大きいほど金額も大きくなる…ということですが、つらさ・苦しさは人それぞれですから、本来、「このケースであればいくら」と決めるのは難しい話のはずです。実際には、裁判所でこれまで認められてきた金額を基準に、およそ「このケースはいくら」と見通しをつけることになりますが、100万円~300万円が一応相場となっています。

慰謝料算定の要素として大事なのは、子供の有無、婚姻期間の長さ、不倫の内容(期間・回数等)といわれていますが、その他、相手方の不誠実な対応等も含め一切の事情を考慮して金額が決まります。今回のように婚姻期間10年間ということであれば、比較的婚期が長いケースになりますので、少なくとも200万円以上の慰謝料獲得を目指すべきといえるでしょう。

今回のケースは、証拠が足りないのでは? と思う方もいるかもしれませんね。「ラブホテルに入る写真」や「肉体関係を表すメールのやり取り」等、法律上の不貞行為(配偶者以外の異性と肉体関係を持つこと)をストレートに証明する証拠があれば話が早いのですが、確実な証拠がないと請求が難しいというイメージもあるようです。しかしながら、証拠がなくとも、相手が不倫の事実を認めるのであれば、請求することは十分可能ですし、少なくとも裁判にしてほしくないと思っている相手方は、訴訟提起される前に自白することが多いのが現状です。

なお、不倫は、夫と不倫相手が共同して行った以上、両方に対して、慰謝料を請求することができます。ですので、配偶者の不倫の相手に経済力があるのであれば、その相手から慰謝料をしっかり払ってもらうことが得策です。この場合、「夫と不倫相手合わせていくら」というのが慰謝料額の考え方となりますので、2重取りをして倍額を受け取ることはできないのが原則です。

「泣き寝入り」しないためには?

離婚の話し合いの場で、「俺には貯金がない」と言われ、慰謝料を諦めてしまう方もいるようです。ただ、貯金がないといいながら「不倫相手のためにお金をつかった」ケースであれば、「泣き寝入り」は悔しいですね。ですので、「お金がない」と言われても、しっかりと慰謝料を獲得する方法を考えましょう。

不倫相手に請求することはもちろんですが、夫からも、分割で払ってもらう方法があります。たとえば月々5万円ずつでも3年4カ月(40回払い)の分割であれば、総額200万円になります。合意の内容を公正証書にしておけば、分割払いが滞った場合でも、相手の給料を差し押さえるなどの強制執行が可能となります。

実際の事例では?

  • (1)芸能人の慰謝料ってなんであんなに高いの?

よく、芸能人の離婚のニュースで「慰謝料○億円」といった話を聞きますよね。そのためか、「夫が高収入の離婚のケースは慰謝料も相当高い」というイメージがあるようですが、これは誤解です。財産分与を含んだ金額で報道されるので、「慰謝料高い!!」と判断されがちになっているだけです。あくまで「精神的苦痛の大小」の話でいけば、芸能人の離婚のケースでもやはり慰謝料は数百万円にとどまるはずで、実際は、稼いでいる分、財産分与が相当高額となっているのです。

ですので、芸能人の離婚では、「貯めていた財産がたくさんあったので、分与された金額も大きかった」というのが正しい理解です。

  • (2)慰謝料ってどんなに多くとも300万円くらいなの?

裁判を起こしたケースでは、どんなにがんばっても相場に落ち着くことが多いので、500万円程度が獲得できるようなケースは極めて稀といわざるを得ません。過去の裁判例では、「数人の女性と不倫に走り、そのうちの一人と子供をもうけたケース(東京高裁昭和55年9月29日)」がありましたが、この場合でも裁判所が認定したのは300万円です。やはり、裁判所の認定は、一般的には「低い」というイメージが大きいように思います。

ただ、慰謝料の相場というのは、あくまで、「裁判所に持ち込んだときの相場」ということです。裁判所に持ち込まず、話合いで解決する場合には、相場より相当高額になるケースもあります。

最終的に納得のいく解決とするためには、むしろ裁判まで持ち込まない方がよいといえるケースも多そうですね。

慰謝料は原則として離婚後3年で時効

今回は離婚に向けて考えていらっしゃる段階で安心ですが、離婚を急いでしまったケースでは、慰謝料や財産分与について、「どうしようかな」と迷っているうちに時間が経過してしまうことも多いです。慰謝料は原則として離婚後3年で時効にかかってしまいます。時効になれば請求自体できなくなりますし、そもそも「離婚に先立って慰謝料等の取り決めをする」方が、有利な条件を引き出せることも多いのです。弁護士へのご相談は、離婚をする前にしていただくことをお勧めします。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

篠田 恵里香(しのだ えりか)

東京弁護士会所属。東京を拠点に活動。債務整理をはじめ、男女トラブル、交通事故問題などを得意分野として多く扱う。また、離婚等に関する豊富な知識を持つことを証明する夫婦カウンセラー(JADP認定)の資格も保有している。外資系ホテル勤務を経て、新司法試験に合格した経験から、独自に考案した勉強法をまとめた『ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた夢がかなう勉強法』(あさ出版)が発売中。『Kis-My-Ft2 presentsOLくらぶ』(テレビ朝日)や『ロンドンブーツ1号2号田村淳のNewsCLUB』(文化放送)ほか、多数のメディア番組に出演中。 ブログ「弁護士篠田恵里香の弁護道