【コラム】

趣味的第一種接近遭遇

40 女ま館! 少女まんがのオアシスとハクビシンを奥多摩に訪ねるの巻(後編)

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東京都日の出町にある、不思議な私設図書館、少女まんが館。後編の今回は管理人である中野さんご夫妻に、成り立ちから聞いてみた。

もともとは純粋に少女まんがファンだったというご夫妻。しかし新古書店も少なかった時代、少女まんがは買い取りも受け付けてくれず、ゴミ同然に捨てるしかなかったという。そんな様子を前に、ご主人はあるときハタと「なんてことをしてしまったんだ!」と強く後悔。以来、少女まんが図書館の構想を持つようになったという。そして10年ほど前に当時のパソコン通信にその希望を書き込んでみたところ、「うちの実家が空いてますよ」と声をかけてくれる人がおり、こちらの家屋を借り受けた。

もともと村の小学校の校長先生のお宅だったというこの家屋、当初はかなり荒れ果てており、シロアリ駆除や雨漏り対策などはなかなか大変だったらしい。最初は修繕しつつ倉庫として利用していたが、都心から遠いこともあって6年ほど前に中野さんたちは移り住み、2002年の8月から図書館として一般開放をスタート。ネットの普及や、マンガ文化の評価なども追い風となって、以前に比べればずいぶん運営しやすくなったとか。「長く続けるためにも無理はしない」という方針なので、いまのところ木曜のみの開館だが「週末にも開放してほしい」という声はやはり多いので、将来的にはなんとかしていきたいという。

大多数の蔵書は離れにある閉架図書に閉まってあるそうなので、見せていただいた。閉架と言え、子どもたちが入らないようにしているだけなので、一般の来館者でも閉架を見たい方は気軽に声をかけてほしいとのこと。

書庫になっている北向きの離れは、まさか奥多摩だからということもないだろうが、結構な底冷えがする。おまけに床も歩くたびにギシギシ鳴るので、こちらの足取りもついおっかなびっくりになってしまう。最低限の通路だけ残して何列も何列も並べられた本棚には、門外漢でも知っている有名どころの名前もあるが、むしろすごいのは雑誌や、あまり知られてない作家の単行本もまとめて保管されていることだろう。見る人が見ればここの蔵書の貴重さがより際立つに違いない。今回ばかりは少女まんがへの不見識を後悔させられた。

書庫に案内していただきます。書庫というかまあ、民家の離れとでも申しましょうか……

このように奥までぎっしり。まだ古くない作品は自前で所有している人が多いからなのか、意外にも70年代より80年代のほうが少ないとか

未整理のものもまだまだ多い。さすがに管理人のおふたりだけでは整理も追いつかないという

天井付近まで赤白の背表紙が並ぶ。写真に写っているのは太刀掛秀子、谷川史子、萩岩睦美、柊あおい、水沢めぐみなど

動画
書庫の手前から奥までを動画撮影。狭いので抜き足差し足でかなり怪しげですが

しかも、これらはすべて古本、つまり何らかの形で人の手を渡ってきたものなのだ。図書館や資料室によくある無機質なロッカー群という光景にも物言わぬ本たちの凄みがあるが、この少女まんが館では、少女たちの思い出の品々が、何代も続いた古い木造家屋の奥でひっそり眠っているという収まり方が妙にしっくりくる。雰囲気を言葉ではなかなかうまく説明できないが、春でもひんやりするこの空間には、いかにも和服を着た小さな座敷童がどこかに住んでいそうだ。

最初に中野さんが所有していた少女まんがは500冊ほどだったが、全国からの寄贈を受け入れ続けて、蔵書は現在では3万冊ほどにまでなったという。「事情があって少女まんがを手放さざるを得ない。でも売ったり捨てたりするのは忍びない」という人にとっての、少女まんが館の存在は中野さんたちが予想していた以上に大きかったようだ。まだ少女まんが館に足を運んだことがない遠方の人も、メールなどで熱心に気にかけてくれるという。少女まんがの駆け込み寺と言うか、ともかく全国の少女の心を持つ人たちの善意に支えられて少女まんが館は現在に至る。なんとなく畏れ多い気持ちで撮影を行い、離れを後にした。

弓月光が初連載をしていた1970年当時の『りぼん』。「グンバツ」「ヤング」「チャオ」など声に出して読みたい見出しがいい味

別冊ふろくの『一条ゆかり全集』などなど。こういうものが平気で出てくる少女まんが館もすごいが、いまでもバリバリ現役の一条先生もすごい

最近の作品はあまり置いてないそうだが、それでも『NANA』のようなメジャーどころはある。下段はTVアニメ化や実写映画化され、焼きそばマンガとしても(?)メジャーな『伊賀野カバ丸』

こちらは1974年の『別冊マーガレット』。表紙には『ガラスの仮面』で知られる美内すずえや、『スケバン刑事』を代表作に持つ和田慎二などの名前も

1973年創刊の『別冊セブンティーン』。この金髪の女性、最近どこかで見たような気がする……と思ったら美輪さんにそっくり

中野さんのお気に入りという神奈幸子、上原きみこの単行本。「ファン以外への知名度は高くないですが、当時の雑誌には必ず載っていた人たちです」

どう見ても難易度が高そうな『ベルサイユのばら』ぬりえ(左)。右は『ポーの一族』カレンダー。『ポーの一族』だけに200年分載ってるのだろうか……

少女まんが関連の同人誌もある。市場には流通してないだけに貴重な資料の数々。こういうのを畳の上に広げてしまうのもここならでは

送られてきた段ボールに入っていた『風の谷のナウシカ』の英語版マンガ。『アニメージュ』の別冊付録らしい

少女まんが雑誌と言えば、忘れてはならないのが付録の数々。こちらはマグカップだが、バッグやレターセットなども保管してあるとか

「少女まんが以外にも、もっとこういう場所が全国に増えてほしいですよね。文化保存の意味でもいいことだし、単純に楽しいですしね」とご主人。今年は祝日となる4月29日にも開放するそうなので、興味を持った方はぜひとも時間をゆるめに取って、足を運んでみてはいかがだろうか。

3月の東京国際アニメフェアに貸し出していた物品が戻ってきたので、さっそく床の間に並べてお手製の企画展を開催。桜が風流

貸し出していた展示品はこんな感じ。右の緑の冊子は、里中満智子の少女まんがを読者が雑誌から切り抜いて、手作りの表紙をつけたもの。愛です

こちらは1981年の同人誌『らっぽり合体任侠号 兄弟仁義』。「やおい」という言葉を初めて公の場で用いたといわれる伝説的同人誌

ご主人の本業は、実は文筆業。また夜道を歩くナイトハイクのイベントなども行っている。近著『東京サイハテ観光』は、交通新聞社から絶賛発売中

夜になったら看板を閉まって閉館。「ゲストハウスとか作って、泊まれるようにもしたいですねえ」とご主人

<お知らせ>
少女まんが館では、少女まんがとその関連書籍の寄贈を受け付けています。詳しくは少女まんが館までメールでお問い合わせください。
また少女まんが館では、保管場所に空きスペースを作るためと、散逸のリスクを分散させる目的で、重複分の蔵書を譲り受けてくれる人・団体を探しています。少女まんが館と同じく、蔵書を共有物として活用してくれる人・団体に限りますので、私的な目的での申し込みはご遠慮ください。こちらも詳しくは少女まんが館までメールでお問い合わせください。

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インデックス

連載目次
第67回 イスラエル・オタクレポート(7) - イスラエルには日本語クラスもある
第66回 イスラエル・オタクレポート(6) - イスラエルにはアニメ翻訳グループもいる
第65回 イスラエル・オタクレポート(5) - イスラエルにはオタクイベントもある
第64回 イスラエル・オタクレポート(4) - イスラエルには美少女コスプレイヤーもいる
第63回 イスラエル・オタクレポート(3) - イスラエルには戦車博物館もある
第62回 イスラエル・オタクレポート(2) - イスラエルにはニコ動歌手もいる
第61回 イスラエル・オタクレポート(1) - イスラエルにはニコ厨がいる
第60回 幻聴妄想かるた! 床をゆらす謎の集団、若松組の秘密を追えの巻
第59回 新・少女まんが館! 隣町に引っ越したあの図書館は青かったの巻(後編)
第58回 新・少女まんが館! 隣町に引っ越したあの図書館は青かったの巻(前編)
第57回 トトロのバス停! あのへんな生き物は大分にいるのです、たぶんの巻(後編)
第56回 トトロのバス停! あのへんな生き物は大分にいるのです、たぶんの巻(前編)
第55回 年末お蔵出し! 豪華ゲスト陣が顔を揃えたデジハリ学園祭をレポート
第54回 アイドル撮影会! ファン同士のチームワークが肝心なのだの巻(後編)
第53回 アイドル撮影会! ファン同士のチームワークが肝心なのだの巻(前編)
第52回 ラジオ体操! 早朝の東京ビッグサイトでなにが起こったかの巻(後編)
第51回 ラジオ体操! 早朝の東京ビッグサイトでなにが起こったかの巻(前編)
第50回 昆虫食! タガメもゴキブリもみんなで食べれば怖くないの巻(後編)
第49回 昆虫食! タガメもゴキブリもみんなで食べれば怖くないの巻(前編)
第48回 東大ゲーム研! 公開リアルタイムアタックを完遂せよの巻(後編)
第47回 東大ゲーム研! 公開リアルタイムアタックを完遂せよの巻(前編)
第46回 抱き枕工場! 彼女たちは栃木の爽やかな一室で生まれていたの巻(後編)
第45回 抱き枕工場! 彼女たちは栃木の爽やかな一室で生まれていたの巻(前編)
第44回 痛車ミィティング! 富士スピードウェイに300台集まりましたの巻(後編)
第43回 痛車ミィティング! 富士スピードウェイに300台集まりましたの巻(前編)
第42回 続・レトロゲーム! あの神社も近い菖蒲町にゲーム倉庫が移転完了の巻(後編)
第41回 続・レトロゲーム! あの神社も近い菖蒲町にゲーム倉庫が移転完了の巻(前編)
第40回 女ま館! 少女まんがのオアシスとハクビシンを奥多摩に訪ねるの巻(後編)
第39回 女ま館! 少女まんがのオアシスとハクビシンを奥多摩に訪ねるの巻(前編)
第38回 模型塾! 土曜の午後のフィギュア教室は女性が多かったの巻(後編)
第37回 模型塾! 土曜の午後のフィギュア教室は女性が多かったの巻(前編)
第36回 秋葉原の猫喫茶! 我々オタクは猫耳も好きだが猫も大好きだの巻
第35回 ボツキャラ展! コレジャナイロボ作者が送る、ゆるすぎキャラの宴の巻
第34回 剥製! 博物館好きには見逃せない秋葉原裏のインドア動物園の巻
第33回 もう一度レトロゲーム! 『ギャラクシアン3』その他諸々解体せよの巻(後編)
第32回 もう一度レトロゲーム! 『ギャラクシアン3』その他諸々解体せよの巻(前編)
第31回 忘年会という名の総集編! 2007年アクセスランキングベスト5発表の巻
第30回 レトロゲーム! 幻の『ギャラクシアン3』もある謎の地下倉庫とは!?(後編)
第29回 レトロゲーム! 幻の『ギャラクシアン3』もある謎の地下倉庫とは!?(前編)
第28回 おそうじボランティア! 秋葉原でゴミ拾いをする戦士を探せの巻
第27回 勝鬨橋! 最近あの番組でもやってた橋の内部を探検してきましたの巻
第26回 メイドさんといっしょ! 萌えが苦手な人間に萌えを与えてみるの巻(後編)
第25回 メイドさんといっしょ! 萌えが苦手な人間に萌えを与えてみるの巻(前編)
第24回 団地! ALWAYSで三丁目の夕日な博物館は松戸にあったの巻
第23回 ふろくのミリョク☆展! ガスマスクから松島トモ子まで? の巻(男子編)
第22回 ふろくのミリョク☆展! ガスマスクから松島トモ子まで? の巻(女子編)
第21回 感覚ミュージアム! 宮城の新名所は癒されたり爆発したりするの巻(後編)
第20回 感覚ミュージアム! 宮城の新名所は癒されたり爆発したりするの巻(中編)
第19回 感覚ミュージアム! 宮城の新名所は癒されたり爆発したりするの巻(前編)
第18回 オタク外国人! 山谷に集う外国人旅行者と話してきましたの巻(後編)
第17回 オタク外国人! 山谷に集う外国人旅行者と話してきましたの巻(前編)
第16回 武器屋! 鎌倉大仏前で逆刃刀を抜くおばちゃんに出会うの巻
第15回 うさぎカフェ! 鎌倉のうさぎに向ひて言ふことなしの巻
第14回 地下探検! 山手通りがずーっと工事してたのはこれだったのかの巻(後編)
第13回 地下探検! 山手通りがずーっと工事してたのはこれだったのかの巻(前編)
第12回 電王! 東急線スタンプラリーに俺、鉄ちゃんと参上の巻(後編)
第11回 電王! 東急線スタンプラリーに俺、鉄ちゃんと参上の巻(前編)
第10回 宇宙食! 野口さんが食べた宇宙ラーメンを食べる私も野口さんの巻(後編)
第9回 宇宙食! 野口さんが食べた宇宙ラーメンを食べる私も野口さんの巻(前編)
第8回 ふれあい下水道! 地下25mの別世界に伝説のワニはいるかの巻
第7回 絵日記! カナダ人先生と奥様たちに囲まれてナイスな壁画を描くの巻
第6回 ムツゴロウ! あの動物王国の本当の魅力を教えますの巻(後編)
第5回 ムツゴロウ! あの動物王国の本当の魅力を教えますの巻(中編)
第4回 ムツゴロウ! あの動物王国の本当の魅力を教えますの巻(前編)
第3回 猫喫茶! 雨の午後に萌え萌えなヤツらは寝ているゼの巻
第2回 豆本! 卸商センターに集うファンシーな本の世界の巻
第1回 DS! 「正しい日本語」で、今日から僕も名誉教授の巻

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