ボツ。

世のクリエイターたちにとってこれほど恐ろしい2文字はない。しかしそのボツを恐れず、むしろ積極的に前面に押し出した豪気な企画展が都心の一角でこのほど開催となった。その名もずばり「ボツキャラ展」。ネットで話題のコレジャナイロボや自爆ボタンを世に送り出した、かのザリガニワークスの主催ということで、これはかなりハイレベルなボツキャラが集まっているはず。会場となっている新宿のミニギャラリーにお邪魔した。

会場の「FEWMANY」は普段からトイショップとしてオープンしており、店内にはポップなフィギュアやポストカードなど、カラフルな商品がところ狭しと並べられている。この日も女子高生らしきお客さんが何組が訪れていた。しかしその奥にはその真逆である男子高生のような華のない一角が! これは確かにボツキャラだ! なんとも言えない「いまいち」「微妙」「惜しい」という消極的なオーラを漂わせている。……これはダメっぽい。ダメなんだけど、でもそのダメさがなんかいい! 誰が言ったか知らないが、コンテンツ大国日本と呼ばれる昨今、単に完成度が高いだけのキャラクターならわんさといる。しかし日本人ならこうした風情のあるボツキャラこそ、わび・さびの精神で愛でたいものだ。

「ボツキャラ展」は新宿伊勢丹裏の「FEWMANY」にて2月24日まで開催されている。オープン時間は12時から20時まで。入場無料

ボツキャラ展らしいこぢんまりとした展示風景。色味も少なめで目に優しい

ボツキャラを語っていただいたザリガニワークスの武笠さん。装着したメガネは変身ヒーロー気分のグッズを、ということで開発中のもの。近日発売予定

今回展示されているボツキャラは「実際にメーカーにプレゼンしたけどボツになった」という正真正銘のボツキャラたち。自主的にボツにしました、というなんちゃってボツキャラではない。いわば折り紙つきのボツキャラである。生みの親であるザリガニワークスとしても思い入れがあるキャラは多く、せめてそいつらにも日の目を見させてあげよう、できればこれを機会に敗者復活をさせてやろうというそんな省エネな……もとい、クリエイターの母性愛にあふれたイベントである。それでは以下、ボツキャラのごく一部を紹介していこう。

通販サイトの案内キャラとして提案した「マグナム本多」。「トッポイな」という口癖を考える際、ザリガニワークスのふたりは激論を行ったが結果的にキャラ自体がボツ

日常の小さな不満をつぶやくという設定の「ヤギ沢くん」。テレビ番組のミニコーナー用として考案されたが、コーナー自体がなくなりボツ

「日本人のエビ消費量が世界一だから」というだけの理由でエビをテーマに依頼され、なぜかお風呂用おもちゃとしてデザインしてしまった「エビ戦」。案の定ボツ

同じくエビをテーマに考え出した「えび父」。エビのむき身にそのまま顔をつけたデザインは先方に「シュールだね」とあっさり評されボツ

10年来暖めてきたという歴史あるボツキャラ「火星レスラー」。今回の展示のためにわざわざ立体化。せっかくなので、いかレスラーやえびボクサーと戦っていただきたい

しかしこれだけのボツキャラ、きっと頭の堅いおじさん連中に難しい顔でダメ出しをされたのでは? ボツの経緯をおそるおそるザリガニワークスの武笠さんに聞いてみたが、意外にもそういう劇的な対立は少ないらしい。依頼する側もザリガニワークスの作風を了解した上で「脱力系で」「ひねった感じで」とオーダーを出してくるので、シャレがわからない担当者にボツにされる、ということはあまりないのだとか。

それよりもプレゼンの席では担当者に「いいっすねえ!」とウケたにもかかわらず、その担当者が会社に持ち帰ったあとで上層部からボツにされたり、そもそもの企画自体がボツになったり、といった「しょうがないよね……」的なボツが多いという。大人の世界では誰が悪いわけでもないがなんとなくボツ、ということが往々にしてあるものだ。

もはやボツキャラというか落書きというか、なんだかよくわからないものも会場には展示されている。この無防備さはある意味プロ

おみやげにはボツキャラストラップをどうぞ。どれもたいへん貴重です。だって世に出てませんから。ちなみに一番人気は「えび父」

こちらはボツキャラ展カンバッヂ。全20種類と過剰に豊富なラインナップ。違いのわかる趣味人にこそコンプリートを目指していただきたい

会場のFEWMANYではコレジャナイロボなど、ザリガニワークスのグッズも常時販売中。コレジャナイロボは一発ネタどころかいまだに人気で、まだまだ絶賛手作り中だとか

会場のボツキャラたちはとにかくボケっぱなしなので、鑑賞者のツッコミスキルが問われる展示と言えるだろう。キャラのゆるさも相当ゆるいので「地方のマスコット程度では満足できない!」というハードコアなゆるキャラファンにもおすすめだ。ザリガニワークスでは今後もボツを恐れず、こうしたボツキャラ展を第2弾、第3弾と行っていきたいという。ツッコミ入れ放題の会場だが「ボツキャラ展をするためにボツキャラを考える」というザリガニワークスの今後のプランにツッコミを入れてはいけない。