「メイドさんと秋葉原でデートしてこい」というムチャぶり取材の後編。前回、担当編集の千葉さんから下された「俺の出演番組のCDをメイドさんと買ってこい」という任務をとりあえず果たした私は、秋葉原の路上で一息ついて気持ちを切り替える。

今回協力していただいたお店、「メイドさんといっしょ」ではサービスの体裁が「メイドさんとデート」ということになっている。が、しかし見方を変えて、私の隣にいるのはメイドさんではなくて制服を着た女性ガイドさんと思えば、「メイド」や「デート」といった特殊な単語に不必要に取り乱すこともないのではないか?

メイドさんじゃなくてガイドさん、メイドさんじゃなくてガイドさん、メイドさんじゃなくてガイドさん……何度も自分にそう言い聞かせて冷静さを取り戻した私は、今回ご一緒していただいたメイド、じゃなくてガイドのせらさんとメイド喫茶に行ってみることにした。まだメイド喫茶に行ったことがなかったので、どうせならついでに行ってしまおうという思いつきなのだが、せらさんによればデート、じゃなくてガイドではわりとポピュラーなコースらしい。メイドさんはメイド喫茶にくわしい方が多いので、案内してもらうのは意外と理にかなっているのだ。おすすめのメイド喫茶の席につき、落ち着いたところであらためてメイドのお仕事についてうかがった。

せらさん行きつけのメイド喫茶へ。メイドさんがメイド喫茶に通うのは、板前さんが修行で名店を食べ歩くようなものかもしれん

メイド喫茶でお茶を飲むメイドさんの図。周囲は撮影NGなので、この写真ではわかりませんが、周りはもちろん全員メイドさんです

「私はちょうど『電車男』の時期にメイド喫茶で働いてて、勉強のためにほかのメイド喫茶もいっぱい回ってました。メイドさんとお客さんとの間に一線を引いてるお店はちゃんとしてるんですけど、逆にメイドさんとお客さんが触れ合いすぎるお店はグダグダになってあまり続かないみたいです。『メイドさん』と『メイド』って結構違うんですよ。本当にオタクな人って『メイドさん』より、ちゃんとした『メイド』がよかったりするんです。『メイドさん』が好きなのは、結構一般の人なので。

あとは秋葉原という場所だからメイドっていうものが通用していると思うんです。普通の繁華街でメイドのお店をやっていると風俗っぽい目で見る人もいますし、オタクの人はあまり来ないですから。オタクの人には『メイド=踏み入れられない領域』みたいなものがあるので、だから秋葉原のメイドが守られている感じはありますね。単純に流行ってるから、ということで来る人とはたまにトラブルもあるようです。メイド狩りとかも去年ありましたし」

――メイド狩りってこの辺だったんですか?

「そうみたいです。駅前でチラシ配りをしてた帰りに『お店どこですか?』みたいなことを言われてつけられて、お店の階段のところで襲われたそうです」

――怖いですね。マンガでよくある戦うメイドさんって、じつは意外と現実味のある話なのかも。

「お店にひとりかふたり、護身術ができるメイドさんがいたほうがいいかもしれないですね(笑)」

――チラシ配りのお話が出ましたが、空き時間に行くものなんですか?

「私たちは出かけた時間でお給料がもらえるので、誰も来ていない時間はお給料にならないんですね。ただ、チラシ配りは金額は違いますけど時給が出るので、空き時間を使って行くようにしています。基本的に空き時間は自由なので、ほかにもブログを更新したり食事を取ったりしてますね」

――印象的なご主人様は?

「よく来てくれるご主人様で、逆に『じいや』って呼んで、っていう方とかいらっしゃいますよ。お金を出すのはご主人様なので、メイドさんを雇うというよりは、お嬢様に仕えたい感じになるそうです。そういう遊び方ができる場所でもあるんですよ。お友達感覚の方もいますし、利用の仕方は人それぞれですね。原宿でご主人様のお洋服をコーディネートしたこともあります。あとクルーザーにも乗りました」

――クルーザー!?

「本当にその方は遊び慣れていて、ご主人様っていう感じでしたね。メイド服で行けるのは秋葉原だけなので、そのときは私服だったんですけど『今日は船乗ろうか?』って言われて。うちのお店のご主人様は優しい方ばかりなので、変な要求をしてくる方はまったくいないですね」

メイド喫茶を出て、せらさんがご主人様とよく行くという穴場の海老料理のお店に。道すがらオタク話をうかがう

さて、メイドさんと言えば「メイドさんはどのぐらいオタクなのか?」という長年の疑問がある。メイド喫茶から出て秋葉原を歩きつつ、そこのところをせらさんに聞いててみた。

「お店にはライトな人もいますけど、私は濃いほうでオタク歴は12年になります。誕生日に『ストIIターボ』(ストリートファイターII TURBO)をもらったのがきっかけですね。オタク的には恵まれていて、小学校のときは『りぼん』『なかよし』『ちゃお』と3誌も買ってもらってました。男の子っぽいものも好きなんで、アニメでは『爆走兄弟レッツ&ゴー』が大好きです」

――フリーペーパーではマンガ家の丸尾末広さんについて書かれてましたね。

「ずっと語ろうと思ったんですけどブログには携帯から書き込むので、長文を書く機会があまりなくて。ゲームも好きで、いまさらですけど携帯で『ひぐらしのなく頃に』をやってます。とくに好きなのはシューティングで、私は縦シューティング専門ですね。ゲーム会社のケイブのコンパニオンをさせていただいたことがあるんですけど、イベントの空き時間に『ピンクスゥイーツ(~鋳薔薇それから~)』っていう作品を遊ばせてもらったらハマっちゃって。それからケイブの家庭用シューティングをやり込んで、『リアルアーケードPro.』っていう重さが2キロぐらいあるアーケード用のコントローラーまで買っちゃいました(笑)」

お店が出しているフリーペーパー「メイしょ瓦版」。秋葉原マップも載っているので散策に便利

フリーペーパーのせらさんのコラム。いくらなんでも、第1回目から丸尾末広を紹介するメイドさんは普通いません

何の話かよくわからない人もいるかもしれないが、ともかくせらさんが十分濃いオタクであることはわかっていただけたかと思う。もっとも個人的には一点だけ引っかかるところがあった。

――ところでケイブのイベントってもしかして「AMショー」(アミューズメントマシンショー)ですか?

「AMショーです。『虫姫さま ふたり』とか出てました」

――そうですか……。

「どうかしましたか?」

――俺、そのイベント取材してるわ……。

「本当ですか!? 私、メダルゲームのブースでブレザー着てました」

――俺、その写真撮ってるわ……。

本来なら喜ぶべきところなのだが、個人的には若干ヘコむ。もちろんうれしくなくはないのだが、縁というよりお互いのオタクとしての業の深さを痛感してしまうエピソードだと言えよう。まあ、そんなことはともかく「メイドさんはどのぐらいオタクなの?」という世間からの質問に対しては、丸尾末広と『爆走兄弟レッツ&ゴー』とケイブの縦シューティングが好きで、ちょっとAiko似の素敵なメイドさんなら現実にいる、と断言しておきたい。

こちらがせらさんおすすめの「海老専科」。時間の都合で食べずに写真だけ撮って引き返しました。甲斐性なしで大変申し訳ない

というわけで、AMショーでブレザーを着ているせらさんの写真をお蔵出し。なんでも撮っておくもんですね……

ちょうど時間となったので取材はここまで。メイド服ではなく、私服でも案内してもらえるし、事前に希望を伝えておけば好みに合ったメイドさんを選んでもらえるそうなので、男女問わず、まだメイドさんと秋葉原を歩いたことがない人も気軽に試してみてはいかがだろうか?……なお本来ならここで筆を置くのだが、後日編集の千葉さんから電話があり、

「メイドさんと握手してきたか?」「はあ?」「握手はOKなんやろが!」「取材でそんなことするか!」「メイドさんとお前が握手してる写真が見どころやろが!」「アホか! 大体、カメラマンのお前が病欠したんやろが!」「俺は重病だったんじゃ!」「ホンマに握手したかったらプライベートで行くわ!」「お前メイドが苦手とちゃうんか!」「じゃかあしい!」

という激しい罵倒合戦が行われたことを、この記事のオチとして報告しておく。