「松戸の博物館は結構すごいらしい」

という噂は前々から耳にしていた。松戸の博物館と言ってもガンダムミュージアムのことではない(※松戸のガンダムミュージアムは2006年に閉館しました)。松戸の博物館と言えば、もちろん松戸市立博物館のことである。なんでも博物館のなかには、1960年代の公団住宅がそのまま再現されているらしい。ちょうど折良く11月3日からは、1961年(昭和34年)を舞台にした映画『続・ALWAYS 三丁目の夕日』も公開される。ならばこれを期に行ってみるしか! ということで、今回は松戸市立博物館にお邪魔してみた。

松戸までやって来ました。最寄りの新八柱駅からは歩いて15分ほど。入館料は大人300円と大変リーズナブル

入り口付近は土器が置かれたりして、ごく普通の郷土資料館のような雰囲気です

実は松戸生まれだった二十世紀梨の原樹。まあ、この辺も比較的よくある特産品の展示です

団地を見学する前にビデオで予習。本当に何もないところに団地が建てられたのがよくわかります

あの映画っぽい! 団地への引越し風景の映像。でもよく見ると、どの車も車線を守ってないっすね……

松戸市立博物館のオープンは1993年。市内の常盤平団地が全国のなかでも最初期に建てられた大規模な公団住宅だったことから、展示のひとつとして1960年代の団地の一室がそのまま再現されることになった。開館当時はいまほど昭和を懐古する企画は一般的ではなかったため、「なぜわざわざ団地を博物館で展示するのか」という懐疑的な声もあったらしいが、あまりの再現ぶりに雑誌やテレビに取り上げられることも多くなり、そうした声はすっかり影を潜めたという。さて、それでは早速お邪魔してみたい。

出ました! こちらが館内に再現された常盤平団地。屋内にいきなり団地が建っているのは衝撃のひと言

当時の案内図も。畑と林が広がるだけだった団地の近くも、いまでは住宅の密集地に

団地の前にはレトロな原付バイクも置かれている。スズキのスズモペットか?

博物館所蔵のオート三輪(資料より)。『続・ALWAYS 三丁目の夕日』の撮影用に貸し出したとのことなので、映画のどこかに出てくるはず

どう見ても普通の団地です。他人の家に無断で入るのには妙なドキドキ感が。それではお邪魔します……

こちらが居間。あまりの再現度に1960年代にタイムスリップしたような錯覚すら覚えてしまう

電話はもちろん黒電話。見たことない人も結構いるのでは? これでネットにつなぐには、おそらく音響カプラを使うしか……

こちらが寝室。四畳半なのでベビーベッドを置いてしまうとキツキツです

こちらがダイニングキッチン。オーブントースターやミキサーのほか、当時のカレンダーも貼られている

流しの下の戸棚にも懐かしい品々が。冷蔵庫、タンス、玄関の靴箱など見えない場所にもちゃんと家財道具が入っている

ダイニングキッチンに置かれた子供用の椅子には、いまではほとんど見かけなくなった情緒ある絵柄が。萌えます

トイレはこんな感じ。1960年代には水洗トイレや洋式便器の使い方がわからない人も多かったとか。まさか壁に向かって逆にまたいだのか!?

風呂場の浴槽はなんと木製。かなり狭いとは言え、いまでは逆にこちらのほうが贅沢かも

風呂場になにげなく置かれた石鹸もミツワ石鹸という凝り様。「ワ、ワ、ワ、輪がみっつ」というCMソングで当時有名に

ベランダに置かれた洗濯機。脱水機は手回し式。干された靴下にそこはかとなく哀愁が漂う

動画
2DK全体の様子を撮影してみました。狭いながらも夢が詰まってます

こりゃすごい。筆者は1960年代を知らない人間だが、それでも「親戚の家に遊びに行ったときの懐かしいあの感じ」が濃厚に再現されている。さらになんと、この2DKに住んでいる一家の細かい設定まで存在するという! ちょっと長いが資料から引用してみたい。

「昭和35年(1960年)4月に結婚し、そのまま常盤平団地に入居した兼二郎(夫・29才)、陽子(妻・27才)の2人には、翌年4月に真理子(長女・1才)が誕生しました。兼二郎は地方都市の商家の次男として生まれ、地元の高校から東京にある大学へ進学、現在は品川にある家電メーカーに勤務しています。趣味は映画と音楽鑑賞、特にフランス映画とモダンジャズを好んでいます。陽子は東京の勤め人の家庭の末娘として生まれ、都内の高校を卒業して兼二郎と同じ家電メーカーに勤めていました。社内のサークル活動で知り合った2人は昭和34年の秋に婚約し、翌年の春に予定した結婚後の新居を探し始めていました。当時話題となっていた公団住宅の入居募集を新聞で知り、陽子の母の実家が松戸だったこともあって、池袋の丸物デパートに設けられた公団住宅の入居受け付けで常盤平団地の2DKを申し込み、幸運にも入居の資格を得ました。」

いかがだろうか? まあ、兼二郎さんと陽子さんの馴れ初めに至っては、どうでもいいと言えばどうでもいいのだが、やはりこういう細かな裏設定にまでこだわってこそ、再現にも説得力が加わるというものだろう。感心しながら団地の展示を出て、奥へ進んでいくと遠くのほうに着物姿の怪しい像が立っている。学芸員の方に聞いてみると、

「虚無僧です」

との答えが返ってきた。近づいてみると確かに虚無僧だ。団地と虚無僧。虚無僧と団地。かつて松戸に虚無僧のお寺があったから、という展示の理由は非常にもっともなのだが、団地から虚無僧への飛躍があまりにも唐突なので、まるでケーキにお刺身を乗せてみました、とでも言わんばかりの妙な迫力を漂わせている。ほのぼのとした『三丁目の夕日』の世界の隣に、まさか吉田戦車ばりのシュールな世界が広がっているとは。そのあまりの雰囲気に当てられて、うっかりおみやげに虚無僧ストラップまで買ってしまった私は、「松戸の名物は団地と虚無僧」といういささか誤った認識を抱きつつ、帰路についたのだった。

博物館のもうひとつの名物、それは虚無僧。団地との食い合わせは正直あまりよくない

これが噂の虚無僧ストラップ(価格750円)。虚無僧ストラップが買えるのは松戸市立博物館だけ!