東京・文京区の弥生美術館で10月4日から始まった「ふろくのミリョク☆展」の模様をお届けするレポートの後編。前回、少女雑誌のふろくを紹介したところ、奇しくもこの一週間で『あんみつ姫』の実写ドラマ化が発表、さらには内藤ルネ先生が亡くなるという関連ニュースが連続して飛び込む事態となってしまった。あまり迷信は信じないほうだが、今回はなるべくいいニュースだけ起きるように祈りつつ、少年雑誌のふろくをまとめて紹介していきたい。

12月24日まで開催される「ふろくのミリョク☆展」。開館時間は10時から17時(入館は16時30分まで)。月曜休館(祝日の場合は火曜休館)で、入館料は一般が800円、大・高生が700円、中・小生は400円

ふろくの元祖として、古くは江戸時代から富山の薬売りが配る売薬版画が存在した。展示されているのは、明治期の「義経千本桜」「福神大漁」など

ふろくのもうひとつの源流となった西洋の古いペーパークラフトも展示。当時の少年雑誌の草分け『少年倶楽部』の編集長も参考にしたという

連載小説の優美な挿絵も一枚絵として人気に。高畠華宵、山口将吉郎といった画家が活躍した。いまならアニメのポスターといったところ?

いまならトリビア? な『少年倶楽部』の「新案物識りかるた」(1930年)。戦前は娯楽よりも教育のためのふろくが多く作られている

そのまま絵にしたら妙にいい味を醸し出してしまった2枚。「苔は寒さに一番強い」「平熱子供は三十七度」

『少年倶楽部』の「世界珍奇動物集」(1931年)から。「ばか」です。いや、かばです

「にわ」(逆読み)です。当時の子供たちにこういう白くて丸い動物だと誤解されなかったかと心配

「陽気に元気に生き生きと」と書かれている「立身出世ポスター」(1931年)。ポスターじゃなくて標語やん、とツッコミを入れてはいけない

乃木希典大将による「教育勅語」(1930年)。当時の少年雑誌は子供が気軽に買える値段ではないので、親の心証をよくするためのふろくも多かったとか

題名から迫力満点の「痛快冒険事宝物語 豪勇荒鷲艦長」(1937年)。荒鷲艦長、ダンディーすぎます。若いときの岡田真澄さんにちょっと似ている

天才とうたわれたふろく考案者、中村星果(なかむら せいか)が設計した「軍艦三笠の大模型」(1932年)

現代のふろくと比較しても破格と言える巨大なサイズ。パーツが印刷された台紙を並べただけでもこれだけの大きさに

船体の傷まで細かく再現。しかもこれらは、すべてのりを使わない差し込み式で組み立てられるというから驚き

巨大なエンパイアステートビルの紙製模型(1932年)も星果が考案。ただしビルを知らない田舎の子供たちは、説明書を見ても作り方がわからなかったとか

こちらも中村星果が手がけた「空中軍艦大模型」(1933年)。当時の子供でなくても思わず見惚れてしまうデキ栄え。かっこいい!

「空中軍艦大模型」は、宮崎アニメの戦艦を彷彿とさせるシルエット。『未来少年コナン』とか『風の谷のナウシカ』にこういうやつが出てきました

こちらも宮崎アニメっぽい「超弩級大型戦車譚海号」(1936年)。ただし大型のふろくは物資が不足するにつれ、徐々に衰退することに

うつろな目をした「動き出す人造人間」は、どう見てもカタカナでしゃべりそう。ほかの雑誌も競ってふろくを出したが、やはり中村星果の完成度には至らなかったとか

なんと紙製の「ガスマスク」(1933年)。とりあえず紙で作れそうなものはどんどんふろくにしちゃえ、という投げっぱなし感が最高です

戦後はふろくも軍事ものから一転して科学ものの時代へ。蓄音機、テレビジョン、扇風機、望遠鏡といった当時の高値の花をふろくで再現

子供たちのヒーローも軍人からプロ野球選手へ。長嶋さん以外、ほとんどわからないのは選手が古いからなのか、絵がイマイチだからなのか……

1960年代の『少年ブック』のふろく。変装めがね、変装用テープ、暗号解読器、指紋検出薬など。こんなメガネをかけたら一発で怪しまれます

まんがの別冊ふろくも登場。展示では『鉄腕アトム』『鉄人28号』など、いまでも有名な作品の当時の姿を見ることができる

ふろくは徐々にテレビキャラクターの時代に。黎明期にはこんなキワモノも。ウルトラマンの唇ってこんなに青かったっけ……

本当はもっと紹介したいのだが、残りは会場で見てほしいのでこの辺で。誤解を恐れずに言えば、男子のふろくは総じてバカっぽい。もちろん中村星果のふろくなどはいま見てもすばらしいデキなのだが、そうした完成度とはべつに「でっかいふろくはいいふろく」「強そうなふろくはいいふろく」といった強烈なイズムが時代を超えて貫かれている。戦車が巨大ロボットに、かるたがカードゲームに変わっただけで根本の部分は何も変わっていないのだ。今後ふろくはどんどんハイテクになるかもしれないが、きっと100年後も男子のふろくは「変なメガネをかけたやつは怪しい」「トゲがいっぱいあると強い」という素敵なバカさにあふれているに違いない。もっとも、変わらないのは女子も同じなので、22世紀の女子もピンクでキラキラしたものに目を奪われていることだろう。

今回展示されたような雑誌が1930年ごろからあるということは、仮に1920年生まれの子供が10歳のときに買っていたと計算して、今年でなんと87歳。すでに日本人のほとんどがふろく大好きな少年少女なのだ。思い出のふろくを懐かしむもよし、変わり種のふろくにツッコミを入れて楽しむもよし、というわけで老若男女誰でも楽しめる、おすすめの企画展だ。