ムツゴロウ動物王国の体当たりレポート(正しくは犬が向こうから体当たりしてくるレポート)も今回でラスト。

どうせなら馬にも体当たり、ということで動物王国の馬が集まっている「馬の丘」で人生初の乗馬に挑戦してみた。ここの馬たちは道産子と道産子のハーフばかり。確かに小柄で足も太め。きっとご先祖様は、北海道の開拓時代に荷物を運んで活躍していたことだろう。ここではもちろん柵で囲ってはいるが、足腰は丈夫で動物王国の裏山ぐらいなら平気で登れてしまうらしい。

動物王国の一番奥にある「馬の丘」。時間は限られているが、毎日乗馬を体験させてもらえる

動物王国の一番奥にある「馬の丘」。時間は限られているが、毎日乗馬を体験させてもらえる

食事中の馬たちと、うらやましそうに近づく犬。馬の丘にも犬はウロウロしているので、乗馬クラブというより牧場っぽい

ガイドの高橋さんの指示に従ってヘルメットを被り、鐙(あぶみ)の長さを調節してもらって、ついに乗馬! で、乗った感想はと言うと、乗るだけならそんなに難しくない。というか馬のほうも毎日人を乗せているので、黙っていればいつものコースを歩いてくれる。とは言えこちらでしっかり手綱を引いて柵に沿って歩かせないと、馬がコースの内側を歩いて手を抜いたりすることもあるという。なんとセコ……いや、頭のいい奴。

お世話になった馬のリュウ(左)と高橋さん(中央)、石井さん(右)。石井さんは帽子を取るのは恥ずかしいとのことでした。きっといま流行りのツンデレですね(違うと思う)

安全のための参加同意書に記入し、料金1,000円を払っていざ乗馬。平日にもかかわらず、この日も10人以上の人が並んでいました

ヘタレ、馬に乗る。なんでこんなに斜めに傾いているのか、自分でもさっぱりわからない。後ろの石井さんがあきれている……ような気がする

ともかく無事に乗馬を終えてホッとしていると、ここにも結構犬がうろついている。先ほどガイドしてくださった高橋さんは、王国でソリ用の犬を育ててきたベテラン職人とのことなので、ちょっと疑問をぶつけてみた。

――ここの犬が怖くないのはわかったんですが、これだけいてケンカになりませんかね?

「うーん、ならないね」

――なりせんか。

「つないでないからね」

――??

「つないでなけりゃケンカになる前に犬が自分で逃げられるでしょ」

――ああ!

「普通の犬がケンカになるのはお互い逃げ場がないからね。それに飼い主の緊張感もリードから犬に伝わっちゃう。小型犬を飼ってる人は、よその犬から吠えられたときに思わず自分の犬を抱えちゃったりするけど、あれはもっとよくない。人間もそうだけど、犬っていうのは足が地面から離れることに慣れてないから。だから怖がってますます吠えちゃう。そりゃここの犬も縄張りはあるから吠えることはあるよ。でもケンカにまではならないね」

……深い。めちゃめちゃ深い。物を言わない動物でも、そうした習性をきちんと理解できると、人間とたいして変わらないことがわかってくる。北海道での犬との生活で培われた高橋さんの知恵を聞かされて思わずうなってしまった。

馬の丘の奥で轟音がしたので見てみると、ショベルカーを使って馬糞を処理していた。良質の堆肥としてマッシュルーム農家が静岡からわざわざ買い付けに来るのだとか

ここには桑の木が植えられており、子供たちも積んで食べていた。この桑の実は王国内の売店でも食べることができる

馬の丘から広場に戻ってくると、売店で桑の実が売っていた。馬の丘のまわりに植わっていた桑の木から取られたものだ。売店ではじゃがいもを使った"いももち"が人気とのこと。初めて食べたが、どちらもおいしかった。ちなみに桑の実もいももちも300円。かたや食堂付近で売られていたお弁当は1,200円とちょっと高めだった。こういうチグハグな感じはやっぱりところどころにある。

こちらが王国内で取れた桑の実とイチゴ。桑の実は素朴な酸っぱさと独特の食感がおいしゅうございました

じゃがいもを使ったいももちは揚げたてを出してもられる。北海道の動物王国がある町の名物とのこと

振り返ってみると、楽しめる人とそうでない人が分かれる施設だとは思う。動物たちも遊園地の乗り物ではないから、お客さんが来すぎても対応しきれないし、逆にガラガラでは運営にならない。北海道の大自然で築かれてきたノウハウを東京の郊外と馴染ませるために、こなさなければならない課題はまだまだあるようだ。一般のお客さんの感覚と動物王国の特殊な環境の橋渡しができる、調整役の活躍は急務だろう。そしてそれはムツゴロウさんのような個性あふれるカリスマの仕事ではなくて、ごく普通の人が担う役目のように思う。

この日は「エキゾチックアニマルの世界」と題して都内の爬虫類ショップ、バーデンと協力した展示も行われていた

こちらはフェレット。後ろにはリスザルも。動物王国では今後もこうしたコラボレーションを増やしていきたいとのこと

王国を辞して、帰りのバスに乗る。バスに揺られながらまた考える――。

私見だが、動物王国の田舎の部分を開き直るほど出してもいいのではないかと感じた。東京圏には都会的なレジャー施設はいくらでもある。そういった部分を真似したとしても、動物王国ならではの良さはなかなか出せないだろう。王国内で育てられた桑の実が食べられたり、馬糞を静岡の農家がわざわざ買いに来るということも、田舎の人からすれば珍しくないのかもしれないが、都内から取材に来た身にとっては「東京でそんな場所があるんだ?」という新鮮な驚きがある。当たり前の話だが、都会に欠けている成分は田舎にこそあるのだ。それを活用しない手はない。

スタッフの山本さんは犬に囲まれながら、「できたら子供たちには泥んこになって遊んでほしいね」と語っていた。それならペットショップ的な清潔感で勝負するのではなくて、例えばジャージなどを貸し出して、お客さんに汚れてもらいながら、思う存分動物たちと触れ合ってもらってはどうだろう? 大きな予算がかけられないのなら、フリーマーケットのようなものと協力したって構わないと思う。動物王国にはそうした草の根的な解決方法が似合う気がする。現に地元小学校の周辺では、毎朝王国の犬を連れたパトロールがスタッフによって行われ、介護施設への訪問なども好評を得ている。すでにアクションは行われているのだ。

受付で犬が昼寝するレジャー施設がほかにあるだろうか!? いや、ない! 王国の動物とそれを支える人々に末永く幸あれ……

一見するとダサい部分はあるし、ものすごく便利でお得なわけでもない。客商売の不慣れさもところどころに見られる。ムツゴロウさんが毎日いるわけでもない。しかし、動物王国にはそうした部分を軽く埋められるだけの「ここにしかないもの」がたくさんある。

何千年も続いてきた人間と動物の暮らしを見つめ直す、かわいいだけではない動物の生々しさを丸ごと体験してもらう、動物王国の目指すものは、既存の動物園などではなかなかフォローできない部分だ。我々が持っている動物への先入観をガラリと変えられるだけのポテンシャルがあるにもかかわらず、仮にこの先、運営が途絶えてしまったとしたら、それはあまりにももったいない。

まだまだ誤解されているムツゴロウ動物王国は、本当はそんな施設なのだ――。