「萌えが足りません」

編集C氏から電話がかかってきた。過去2回のコラムで萌えが足りなかったのが不満らしい。
野口「日本語トレーニングと豆本祭りでどうやって萌やせっちゅうんですか!?」
C「それをなんとかするのが野口さんの仕事です。メイド喫茶とか行けばいいでしょう」
野口「……わかりました。じゃあ今回は萌え萌えなコラムにしてやりますよ!」

啖呵を切った私にはそれなりの秘策があった。元来、アニメやマンガの萌えキャラの表情は目の比率が大きく、成人女性よりも幼児や小動物の顔立ちに近い。ならば、そうした萌えに迫る取材のほうが、原理的には萌え成分は高まるはず。そんな都合のいい場所があるのか? あるのだ、じつは。ということで今回は「猫喫茶」に行ってみる。今回お邪魔したのは、都内吉祥寺駅南口そばにある「猫の喫茶店 きゃりこ」。私はあえて雨が降る平日の午後に取材に訪れた。雨でお客さんが少ないほうが取材もしやすいし、店内の猫からの寵愛も受けやすかろうという算段である。嗚呼、猫のハーレムが私を待っている。

こちらが猫の喫茶店きゃりこ。営業時間は10時~22時(最終入店21時30分)。料金はワンドリンク付きで30分まで500円。延長10分ごとに120円

野口「あっはっは。いやあ店長、姑息にもお客さんの少なそうな雨を狙って取材にうかがいましたよ。早速ですが子猫ちゃんたちはどこですかな?」
店長「雨なので猫は寝てます」
野口「なんですと!?」

店内を見回すと確かにそこかしこで猫が寝ている。メイド喫茶のメイドさんは勤務中でも寝ないが、猫喫茶の猫は勤務中でも寝るのだった。うっかり園児のお昼寝タイムに保育園を取材してしまったかのような罰の悪さが辺りを覆う。

店内は猫が寝まくりです

こちらもすごい勢いで寝ています。俺には起こせねえ……

もうひとつの計算違い(?)は、雨でもそれほど客足が落ちていないこと。吉祥寺駅からすぐ、という立地が効果を発揮しているようだ。井の頭公園への行き帰りの道に店が構えられていることもあって、休日はかなりのお客さんが訪れるのだという。家族連れやカップルのほかに、単独の男性客や女性客も意外に多い。男女比はおよそ2:3といったところ。店内の猫の数は現在11頭で、1匹以外はすべてメスなのだとか。べつに女の子のほうが萌えるからというわけではなくて、メスのほうが気性がおとなしく、去勢の必要もないので不特定多数の人と会う場所に向いているという。

猫喫茶はまだ全国に12店ほどしかないため、おそるおそる入ってくるお客さんも多いのだとか。そこで初めての人が猫喫茶に訪れる際のポイントを店長に教えていただいた。

店長「基本的には猫の嫌がることでなければご自由に過ごしていただいて結構です。猫と遊ばずにゆったり過ごされるお客さんもいらっしゃいますね。猫は疲れるとどうしても寝てしまうので、午前中に来ていただけると元気な猫たちと遊ぶことができます。それと夜行性なので、夜8時ごろから閉店の10時までというのもオススメですね。遊び方で気をつけるといいのは、できるだけ猫の気を引いてあげることです。例えばおもちゃを目の前にただぶら下げるよりは、隠れたところから出してあげたほうが喜びますね」

なるほど。いろいろわかったが、個人的にはもうひとつわかったことがあった。お店を出てからくしゃみがなぜか多発する。私は猫が大好きなのに、どうも軽度の猫アレルギーらしいのである……。そんなことはともかく、お近くに猫喫茶がある方は気軽に遊びに行ってみてください。できれば猫が寝ていないときに。

店内は喫茶店というより託児所とリビングルームをミックスさせたような印象。猫喫茶としてはかなり広い店舗という

作家の福井晴敏さんにちょっと似ている店長の福井さん(ご親戚ではないそうです)。抱いているのはベンガルの葉月

レジにもフサフサのモフモフが! これを萌えと言わずしてなんと言う。メインクーンのミミはここがお気に入りとか

店内唯一の犬であるトイプードルのモカは店長のペット。お約束でも言ってしまおう。……お人形さんみたい!

この日お店に入ったばかりというエキゾチックの新人(新猫)さん。名前はまだない、そうです

思ったより猫が少なめ?……と思ったらこんなところにいました。メインクーンのレトロ

隠れた猫を探し中の店長。一般のお客さんはソファの下などに手を入れないでほしいとのこと

隅には猫用トイレも。粗相はしないよう、きちんとしつけられているのでご安心を

本棚に並ぶ猫マンガの数々。
野口「『ONE PIECE』って猫マンガでしたっけ?」
店長「それは私物です」

常連の方からいただいたというお手製の猫グッズ。さすがは小物関係のお店が多く立ち並ぶ吉祥寺といったところ