【コラム】

ハイテクウォーカー

93 RFIDのプライバシー問題はどうなっている?

佐藤晃洋  [2003/11/11]

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世間ではここのところ、RFID関連の話題が盛んだ。ただ、RFIDが使われることで便利になる分野がある一方で、プライバシー問題に関して神経質になっている読者の方も多いのではないだろうか。そんな中、先週土曜日に桐蔭横浜大学において開催された情報ネットワーク法学会 第3回研究大会でもRFIDとプライバシーの問題が主要な議題のひとつとして取り上げられ、数多くの研究者からこの問題に関する意見が相次いだ。今回はそれらの意見をご紹介しつつ、この問題について改めて考えてみたい。

○EPC globalのプライバシーガイドラインの中身は?

Alex Allan氏

RFIDといえば、先月末にRFIDの2大推進組織のひとつであるAuto-ID Centerが「EPC global」へと移行したことはご存知の方も多いだろうが、その移行に伴い各種プロトコルの仕様を始めとした多くの文書が発表されていることはあまり知られていないと思われる。その中に実は、EPC global準拠のRFID(以下「EPCタグ」)の使用に関するプライバシーガイドラインを定めた「Guidelines on EPC for Consumer Products」という文書が含まれているのだが、今回の学会ではこの文書について、実際にEPC globalのIndependent Policy Advisory Councilメンバーとして同文書の策定に関わった、Alex Allan氏(元英国政府e-envoy担当官)が基調講演にて説明を行った。

Allan氏は、同ガイドラインの主要な要素として「Notice」「Choice」「Education」「Data Collection」の4要素を挙げた。このうち「Notice」は「EPCタグが付属している物には必ずロゴが記載されること」、「Choice」は「消費者はEPCタグを取り外すなどの方法で無効化するための情報を得ることができること」ということで、改めて説明するほどのものでもないだろう。

EPC globalのプライバシーガイドラインの4要素
今後の課題

ひとつ飛ばして「Data Collection」については、「(EPCタグを利用する)企業は、全ての準拠法を遵守するほか、自らのプライバシーポリシーを公表することが求められる」と述べた。また、同氏はこの点に関連して「EPCタグと個人情報をリンクさせる場合は、EUのデータ保護ディレクティブに基づき(消費者の)明示的な同意が必要になると思われるほか、利用目的も正当なものに制限されるだろう」と述べ、「オーストラリアのプライバシーコミッショナーからも同じようなコメントを受けている」と補足した。

Allan氏が最も重要視しているのは「Education」のようだ。同氏は「プライバシーの問題は確かに重要だが、一部ではそれが過大評価されている部分があり、正しい認識を持ってもらうためには(今回策定した)EPCのガイドラインを消費者に周知していかないといけない」と述べたほか、「(適切な周知が行われないと)消費者のボイコットだけではなく、政府による過度の規制を招く可能性もある」「リスクを必要以上に恐れるべきではなく、正しく評価していく姿勢が必要だ」と述べ、EPCタグに対する正しい知識を広めていく必要性を訴えた。

なお今回のガイドラインはあくまでファーストステップということで、実際の技術開発が進むにつれ順次アップデートが行われていく予定となっている。関係者の話では、「このガイドラインではクラスアクションによる訴訟が提起された場合に勝てない」との指摘が既に一部の弁護士から出ているということで、今後、基準の厳格化や運用体制の整備が急務となる見込みだ。

○RFIDと個人情報保護法との関係など問題が山積

このようにRFIDを推進する組織側でもプライバシーに関するガイドラインが定められるなどの動きが出てきているが、一方で、既存の関連法との関係を考えると、まだまだ問題は山積している。その点についても今回の大会では複数の研究者が指摘や提案を行った。

犯罪捜査とRFIDとの関係に関する問題
個人情報保護法とRFIDとの関係で考えられる問題(の一部)

まず午前中の個別報告に立った藤村明子氏(NTT情報流通プラットフォーム研究所)は、RFIDが犯罪捜査に利用される可能性を指摘した上で「RFIDを利用した犯罪捜査での証拠収集が適法と言えるかどうかが、近い将来裁判において争点となる可能性が高い」との見解を示した。また同氏は個人情報保護法が今日のようにRFID技術が現実味を帯びる前に書かれた法律であるために、RFIDを利用する局面では同法との関係が問題になる可能性が高いことも指摘し、その具体例として「RFIDに関連付けられたデータベース情報の訂正を求める権利」や「RFIDが読み取られた履歴を知る権利」などを挙げた。

対立概念を解決するためのイメージ
「多重リスクコミュニケータ」のモデル図

午後のパネルディスカッションに登場した佐々木良一氏(東京電機大学)は「個人情報を保護しようとすると、一方で不正者の追跡を困難にするケースや、個人情報の流出を見逃すケースなども考えられる」として、個人情報保護とその他のセキュリティ対策との利害が対立するケースもありうるとの意見を表明した。そこで同氏はそれらの相反する概念を定式化した上でシミュレーションにより最適化を行う「多重リスクコミュニケータ」モデルを提案し、「このようなシミュレーションの結果をユーザに提示した上で議論を行っていくことが重要ではないか」と述べた。

この後、話はRFIDという枠を離れ、ネットワーク上におけるプライバシー保護全般の話題に移っていくことになる。そこで次回は引き続き同大会からそれらプライバシー関連の議論の模様を、そして余裕があればそれ以外の話題もあわせてお伝えすることにしたい。

バックナンバー
http://pcweb.mycom.co.jp/column/hitech.html

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インデックス

連載目次
第98回 今後のPC業界とInternet業界に期待すること
第97回 RFIDとトレーサビリティに関する技術者の視点
第96回 次世代無線LANと4Gの最新動向
第95回 地上デジタル放送を追い風に? CATVの狙いとは
第94回 プライバシー保護のために何が必要か?
第93回 RFIDのプライバシー問題はどうなっている?
第92回 オープンソース業界の尽きない悩み
第91回 S/MIMEにまつわるエトセトラ
第90回 CEATECピックアップ
第89回 ADSL各社の次の一手は?
第88回 RSS Tickerソフトの日本語化に挑戦
第87回 IP電話の音声品質確保は難しい?
第86回 MySQLの高機能化に戸惑いの声?
第85回 どうする? どうなる? 電力線搬送(2)
第84回 どうする? どうなる? 電力線搬送(1)
第83回 Becky!用spamフィルタプラグインの実力
第82回 Windows Rights Managementでできること
第81回 CATVは本当にFTTHに向かうのか?
第80回 インフラとしてのDNSを預かるJPRS(2)
第79回 インフラとしてのDNSを預かるJPRS(1)
第78回 延長戦における問題点(2)
第77回 Bフレッツ+VoIPアダプタでIP電話を試す
第76回 「PNG不要論」への反論
第75回 DSL作業班・延長戦における問題点
第74回 次世代の無線技術を握る2つの鍵
第73回 ユーザENUM vs オペレータENUM
第72回 放送による通信回線利用はどこまで進む?
第71回 本当に大丈夫? ADSLとアマチュア無線の干渉問題(2)
第70回 本当に大丈夫? ADSLとアマチュア無線の干渉問題(1)
第69回 国際化ドメインの次に来るもの
第68回 メッシュネットワークの可能性と問題点
第67回 eXtremeDSL MAXの謎(2)
第66回 eXtremeDSL MAXの謎(1)
第65回 芸能人ドメイン名の傾向と対策
第64回 Bフレッツ導入してみました(3)
第63回 Bフレッツ導入してみました(2)
第62回 Bフレッツ導入してみました(1)
第61回 AV家電のプロトコルは統一できるのか?
第60回 固まりつつある次世代PCカードの姿
第59回 Office XPのカスタムスマートタグはどこまで使える?
第58回 驚速ADSL2のネットゲームモードって?
第57回 ADSL2にまつわる話あれこれ
第56回 近距離でADSLの速度が出ない可能性
第55回 ネットワーク7層モデルの上下にあるものとは?(2)
第54回 ネットワーク7層モデルの上下にあるものとは?
第53回 3GでFOMAが苦戦する理由
第52回 国際化ドメインに残された波乱要素
第51回 Opt-inか、Opt-outか、それが問題だ(2)
第50回 Opt-inか、Opt-outか、それが問題だ
第49回 複雑怪奇?なIP電話の提携関係
第48回 WPAで無線LANは本当に安全になるか?(2)
第47回 WPAで無線LANは本当に安全になるか?
第46回 IC2002に見るMobile IPの周辺状況
第45回 Intelの考える2003年のノートPC像とは?
第44回 フレッツADSLの複数PPPoEセッション対応を試す
第43回 電力系通信事業者はどこへ行く?
第42回 まだまだ話題は尽きないCEATEC2002
第41回 実現まであと一歩? サイバー法廷
第40回 その後のJPEG特許問題
第39回 ようやく姿が見えてきたDirectX 9.0
第38回 歴史は繰り返す?次世代DVDを巡る攻防
第37回 Netscape7の登場で復活を目指すMNG
第36回 デバドラのインストール時の警告が減らないわけ
第35回 ICANN改革の行方
第34回 ネットワーク技術の発展に法律は追いつけるか?
第33回 モバイルベンチマークの最新状況
第32回 休眠特許に揺れるInternet業界
第31回 電話番号だけでは着信を受けられないIP電話
第30回 ネットワーク機器指向を強めるRambus
第29回 効果はいかに? bモバイルのWebアクセラレーター
第28回 ADSL高速化の正体
第27回 無線LANでCATVインターネットが生き返る?
第26回 Perl 5.8.0-RC1の新機能
第25回 504iでJavaはどう変わる?
第24回 OpenOffice.org 1.0 日本語版を試す
第23回 i850Eで大丈夫なRDRAMとは?
第22回 コンピュータ将棋選手権を振り返る
第21回 FreeBSD 5.0-DP1の変更点(2)
第20回 FreeBSD 5.0-DP1の変更点
第19回 Matroxの逆襲
第18回 何と! nVIDIAがAMDを買収?
第17回 携帯端末のクロスプラットフォーム化を考える
第16回 MicrosoftがCPUを開発?
第15回 TSMCに振り回されるメーカー達
第14回 昔の遺産で再建を目指すZilog
第13回 「HammerはRDRAMもサポート」はホント? 嘘?
第12回 FTTHも日本は独自規格に?
第11回 まだ死んでいない東芝のDRAM技術
第10回 Itaniumに吸収されるAlpha
第9回 実はいっぱいある?CPUのバグ
第8回 意外と少ないFAX複合機の選択肢
第7回 PowerPC G5の登場はいつ?
第6回 nVIDIAを巡る噂あれこれ
第5回 SiS・ALiの2002年ロードマップ
第4回 VIAの2002年ロードマップ
第3回 「Gigawire」でさらに進化するIEEE1394
第2回 ATI A3は対nVIDIAの切り札となるか?
第1回 Ultra ATA/133の意味

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