【コラム】
今「電力線搬送」が熱い。電力線搬送と言えば、いわゆる家庭内や街中を張り巡らされている電線を利用して高速通信を行う技術として以前から注目を集めているが、一方で同技術を利用して電線に信号を流した場合、アマチュア無線や航空・船舶無線などさまざまな無線通信に深刻な影響を与えるとして、昨年総務省が開いた研究会では規制緩和が見送られた経緯がある。ところがその電力線搬送が「Broadband over Power Line(BPL)」として現在米国内で熱い議論の対象となっているというのだ。
なぜ今BPLが米国内で議論の対象となっているのか、そしてその結果が日本に与える影響はどうなのか。これらの諸問題につき、8月23日・24日に東京ビッグサイトで行われたアマチュア無線のイベント「ハムフェア2003」内の技術シンポジウムについて関係者より説明があった。今回はそのシンポジウムの内容を中心に、BPLが抱える諸問題を改めて考えてみたい。
○FCCの意見募集を発端に議論が百出
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| FCCによる意見募集の概要 |
それにしても、なぜ今米国でBPLの議論が起きているのかがまず気になるが、その直接の原因は4月23日にFCC(米国連邦通信委員会)が、BPLの普及に向け現行の規制を見直すことに関する意見の募集を開始したことに端を発する。
そもそも従来のFCCの規制では、電力会社等が電力線を利用した通信サービス(Internet接続等)を提供しようとする場合は利用できる周波数が10~490kHzに限られていた。また家庭内での利用に限った場合にも、米国内で無免許での電波利用が可能な範囲を定めたFCC Part15 Rulesの制限のため、事実上2MHz以下での利用に限られるケースが一般的だったため、電力線による高速通信が実質的には不可能な状況だった。
ところが、電力線を通じた家電のネットワーク化を目指して2001年に登場したHomePlug規格は、通信用帯域として4.5~21MHzを利用することになっている。また電力線を利用した通信サービス用としても、昨年日本で話題になったように既に複数の会社が2MHz以上の周波数を利用する機器を開発している。このように数多くのBPL用機器が市場に出回る一方で、このような高周波を利用した場合に電力線から漏れる電波の影響に関して、前述のPart15 Rulesでは明確な測定法が定まっていないという問題が浮上した。
そこで今回FCCは、BPLの普及に向けた周波数帯域の拡大を行うべきかどうかという問題や、漏洩電波の測定法などそれに付随する様々な技術的課題に関してパブリックコメントを募集することにしたというわけだ。ちなみにこのコメントの数だが、この原稿を執筆している時点で4500件を突破するという膨大な数に上っている。これだけでもいかに米国内でこの問題に対する関係者の関心が高いかがよくわかるだろう。
○米国内でも反対論が大半を占める
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| 日本アマチュア無線連盟 武藤浩二氏 |
そのコメントの中身だが、今回のシンポジウムでBPLの現況について説明を行った、JARL(日本アマチュア無線連盟)電磁環境委員会の武藤浩二氏によれば、米国でもやはり既存の無線通信への影響が大きいことを懸念する反対意見が大半を占めているとのこと。
中でも興味深いのは米国通信情報局(NTIA)や全米放送事業者協会(NAB)などといった団体が、このパブリックコメントを通じてBPLに対する懸念を表明していることだ。まずNTIAは、BPLシステムの近くで特に30~50MHz帯域の通信が受ける妨害についての検証がまだ十分に行われていないことなどを理由に、BPLに対する現段階での規制緩和に反対することを明らかにしている。またNABはBPLの導入そのものには反対しないものの、FCCの当初案では最大で80MHzまで周波数の上限が拡大される可能性があることに対し「テレビ放送に深刻な影響を及ぼす可能性がある」として、周波数の上限を50MHz以下にすることを求めている。
もちろんアメリカのアマチュア無線家の団体であるARRL(American Radio Relay League)も、今回のパブリックコメントで反対意見を提出している。武藤氏によれば、ARRLでは今回のBPL問題を「important and difficult battle」と位置づけており、政府関係者に対するロビー活動や実験に必要な機材の購入費用などに充てる目的での寄付の募集も始めており、30万ドルの目標に対し6~7月の2カ月間で既に約193,000ドルが集まっているという。
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武藤氏は「もしFCCで規制緩和が通ってしまったら、米国との間のアマチュア無線による通信が大きく制限されるのはもちろん、今後日本でもこの事実を盾に同じように規制を緩和するという話が出かねない」と述べ、この問題が決して米国国内だけの問題ではないことを強調していた。
このような現状に対し、読者の方の中には「そうはいっても、既に欧州などでは商用サービスが始まっているんじゃ…」と思われる方もおられるだろう。ところが武藤氏によれば、実は欧州でもほとんど商用サービスは始まっておらず、日本で「商用サービス」として伝えられているものの大半はフィールドトライアルレベルにとどまる上、エリアも非常に狭いのだという。その実態を詳しくお伝えしたい…と思ったところで今回は誌面が尽きてしまったようなので、次回はその欧州の現状、ならびにBPLがもたらす意外なところへの影響などについてお伝えすることにしたい。
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