【コラム】
今月に入りADSLサービスを提供する各社から、これまで広く使われてきたG.dmt規格の速度の上限である8Mbpsを上回るスピードのサービスのアナウンスが相次いでいる。まず6月14日にアッカ・ネットワークス(以下アッカ)が米GlobespanVirataの技術を利用した最高10Mbpsでの接続サービスの提供開始を発表すると、その直後の19日には今度はイー・アクセスが米Centilliumの技術を利用した最高12Mbpsでの接続サービスを提供すると発表。ここにきて急にADSLの高速化競争が勃発した。
ただ問題は、これらの高速化オプションに利用される技術が、従来ITU-Tで標準化が行われてきたADSL規格(G.dmt)のオプション仕様を利用することで実現されており、またその内容がアッカとイー・アクセスでは微妙に異なるという点。そこで今回のこのコーナーではそれらの内容を一通り整理したうえで、今後問題になりそうな点をチェックしてみたい。
○両社とも「S=1/2」で高速化を図る
まず、今回両社ともに高速化のために採用した技術が「S=1/2」というものだ。これはADSLで伝送するデータに誤りが発生するのを防ぐための符号である「リードソロモン符号」のパラメータのひとつ。通常のG.dmt規格ではこのパラメータは「S=1,2,4,8,16」のいずれかであり、理論的には数字が半分になるごとに速度は倍になるのだが、これをさらに半分にしてやることによって速度の向上を狙うのが「S=1/2」というわけだ。
ちなみに、この「S=1/2」というパラメータはG.dmtの中でもオプション規格として設定されていたのだが、正確には「S=1/2」が使えるのは下り用に最大で4本設定できるベアラチャネル(bearer channel)のうち、最も高速な「AS0」チャネルのみ。AS0はもともとの最高速度が6144kbpsなので、速度が倍になるとAS0だけで12Mbpsの速度が出ることになり、その他のチャネル(こちらは従来どおり「S=1」で動作)のデータも加えると理論的には最高16Mbpsもの速度が出るとされている。
ただ、アッカとイー・アクセスの最高速表示を比べると、同じ「S=1/2」を使っているはずなのにアッカは最高10Mbps、イーアクセスは最高12Mbpsと速度が異なるが、これは「S=1/2」が、NTT局舎から非常に近く、現在既に8Mbps近いスピードでリンクが可能なユーザーしか恩恵を受けることができない部分に原因がある。そもそも「S=1/2」はエラー訂正のための情報量を従来の8Mbps時のさらに半分に減らすため、回線状態への要求が非常にシビアにならざるを得ない。そのため現実には先程の理論値(最高16Mbps)での接続は同一局舎内での接続ぐらいでしかありえない数値となっていることから、おそらくは両社ともユーザー向けにはある程度のマージンを見て最高速を設定した結果、数値が異なっているのではないかと考えられる。
○下り信号と上り信号を重ねて速度と距離を稼ぐ
またアッカは、回線速度の向上と伝送距離の延長を狙い、この秋にも「C.x」(シードットエックス 仮称)と呼ばれる技術を導入する。これは従来G.dmtで上り信号を伝送するために使われてきた25.875~138kHzの帯域に、下り信号も重ねて伝送してしまうというものだ。
もともとG.dmtの規格内では、上り信号と下り信号の分離方法として、それぞれ使用する周波数帯域そのものを分離してしまう「FDM(Frequency Division Multiplexing)方式」と、上り信号と下り信号を同じ帯域に重ねて伝送(オーバーラップ)したうえでエコーキャンセラで信号を分離する「エコーキャンセラ方式」の2方式が規定されており、どちらを選択するかは機器製造者の自由とされている。ただ、Annex CではISDNとの信号の干渉を避けるため、信号の伝送に際してISDNのクロックに合わせて信号の伝送方式を切り替える「Dual Bitmap方式」が導入された関係で、Dual Bitmap方式を簡単に導入できるFDM方式がこれまで主流となってきた。
しかし信号の減衰は周波数が低いほど少なくなるため、この帯域に下り信号を流せばそれだけ長い距離のデータ伝送が可能になるし、また単純に下り信号の帯域が増えればそれだけ速度アップにもつながる。そこで今回アッカは、より技術的な難易度が上がるのを承知の上でエコーキャンセラ方式の導入に踏み切ったと考えられる。
ちなみに、アッカの場合は単純に上り信号の帯域に下り信号を乗せるのではなく、ISDNとの干渉が少ないFEXTビットマップを使っている時のみ上り・下り信号を重ねるという方式を採用している。これはFEXT・NEXTという異なる2つのビットマップの両方にエコーキャンセルをかけるとなると、技術・コストの両面で大きな負担が必要になる割にはISDNとの干渉が大きくなりあまりメリットがない、ということからこの形態になったのではないかと考えられる。
おそらくイー・アクセスも今回の新サービスでこの「C.x」に似た技術を導入してくるものと思われるが、現段階では詳細が公表されていないため、具体的にどのような方式を使ってくるのかはまだ未知数だ。
○ますます両社の互換性が……
ところで気になるのは、現在でも互換性の問題がたびたび指摘されているアッカ(GlobespanVirata)陣営とイーアクセス(Centillium)陣営の間での端末の互換性が、これでますます悪化してしまうのではないかという点だ。一応両社とも今回の新サービスはG.dmtの規格内で実現するものだとしているが、筆者が見る限り両社のサービスについて互換性を確保するのはかなり難しいと思われ、ますますユーザーにとっては頭の痛い事態となりそうだ。
ADSLの速度向上はそれ自体は結構なことだが、現実には8Mbpsの速度ですらまともに出ないユーザーがほとんどであることを考えると、今はサポート体制やセキュリティ対策などの充実、端末の互換性確保など、先にやるべきことが他にあるのではないかとつい勘ぐってしまうのは筆者だけだろうか。
イー・アクセス、下り最大速度12Mbpsの「ADSLプラス」を発表
ACCA ADSLサービスを最大10Mbpsに無償増速(WebBCN)
アッカ・ネットワークス
http://www.acca.ne.jp
イー・アクセス
http://www.eaccess.net
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