【コラム】

あの日あの時あのコンピュータ

15 早すぎたスマホ? - シャープ&ウィルコム「W-ZERO3」

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あの頃も今も、コンピュータは楽しい機械です。仕事に趣味に、コンピュータとともに過ごしてきた読者諸氏は多いことでしょう。コンピュータ史に名を刻んできたマシンたちを、「あの日あの時」と一緒に振り返っていきませんか?

スマホという言葉が一般的ではなかった時代のモバイルコミュニケーション端末

シャープは2005年(平成17年)12月14日に、3.7型VGA液晶(640×480ドット)とスライド式キーボードを備えた「モバイルコミュニケーション端末」である「W-ZERO3 WSOO3SH(B)」を発売しました。PHSサービスを提供していたウィルコム向けの端末です(ウィルコムは現・ワイモバイル)。当時はまだ、「スマートフォン」という言葉が日本では一般的ではありませんでした。

シャープ「W-ZERO3 WSOO3SH(B)」

W-ZERO3が画期的だったのは、PDA(パーソナルデジタルアシスタント、携帯情報端末)に通話機能を取り込んだこと。当時、海外ではすでに通話機能を搭載したPDAが発売されていましたが、日本ではPDAにデータ通信専用のコンパクトフラッシュ型PHS端末を装着して、インターネット接続機能のみを利用するという使い方が主流だったのです。

W-ZERO3のカタログ(一部抜粋、資料提供:ソフトバンク)
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W-ZERO3には、音声通話やデータ通信が可能なウィルコム(現・ソフトバンクモバイル)のPHSコアモジュール「W-SIM(ウィルコムシム)」が内蔵されています(写真右下)

QWERTY配列のスライド式物理キーボードを搭載していた点も、大きな売りのひとつ。シャープはW-ZERO3発売前にLinux OSを採用した「Linux Zaurus」シリーズを発売しており、コンパクトかつ打ちやすいキーボードを作るノウハウを持っていました。

タッチパネル画面のみで使用する「ポケットPC」スタイル、スライドキーボードを引き出して使用する「ハンドヘルドPC」スタイルへの変形機構は、当時のガジェットマニアたちのハートをガッツリつかんだものです。

筐体を上下にスライドさせると、QWERTY配列の物理キーボードが現れます。スライドさせてもキートップが接触しないほど薄型ですが、しっかりとしたクリック感が与えられています。ちょっとしたメール程度ならストレスなく入力可能です

テーブルに置いて左右それぞれ4本の指で入力することもできなくはないですが、基本的には親指打ちでタイピングします

W-ZERO3はカスタマイズの自由度が高く、非常に多くの用途に活用できました。OSには「Microsoft Windows Mobile 5.0 for Pocket PC」が採用されており、PDA全盛時代にリリースされてきたたくさんのソフトウェアを利用可能でした。Excel / Word / PowerPoint Mobileを使って、オフィス文書を閲覧、編集できたのも大きな売りです。

一部で人気を集めていたのは、エミュレーター用途。主にゲームですが、いろいろなゲームをW-ZERO3上のエミュレーターで動作させることがマニアの間で流行りました。

また、W-ZERO3には有効約133万画素のカメラ機能が搭載されており、静止画や動画の撮影も可能でした。モーションセンサー、GPS、フロントカメラなどは搭載されていませんが、現代のスマートフォンに実装されてきた機能はほとんどカバーされています。

本体前面。3.7型VGA液晶(640×480ドット)ディスプレイの下には、カーソル、決定、Windows、OK、ブラウザー、メール、発話、終話ボタン、そしてメニューボタンがふたつ用意されています

W-ZERO3のディスプレイは感圧式タッチパネルを採用しています。そのため細かな操作や、絵を描くなどの用途のためにスタイラスがボディーに内蔵されていました

本体背面。有効画素数約133万画素のデジタルカメラが内蔵されています。フラッシュはありません

本体上面。シャッターボタン、miniSDカードスロット、miniUSB端子、電源端子が配置されています。今回撮影したW-ZERO3は筆者の私物ですが、スロットと端子のフタは経年劣化で粉々に砕けてしまっていました

本体底面。イヤフォン端子、ローテートボタン、ボリュームボタンが配置されています。キーボードをスライドさせると画面の縦横表示が切り替わりますが、モーションセンサーは搭載されていません。ポケットPCスタイルのままで画面の縦横を切り替える際にはローテートボタンを利用します

マニア層には熱烈に愛されたW-ZERO3も、一般層に受け入れられなかった最大の理由は、ハードルの高さです。例えば、アプリケーションのポータルサイトは当時も存在しており、シェアウェアなども流通していましたが、アップルのApp StoreやグーグルのPlayストアのような、プラットフォーム公式のストアは存在していませんでした。

というわけで、アプリケーションのインストール、支払いも一苦労。環境の構築を楽しめる人にはその苦労も喜びでしたが、一般層からは得体の知れない大きな携帯電話にしか見えなかったのでしょう。

改めてW-ZERO3を握ってみると、絶妙なサイズ感です。デザインがそれほど古めかしく感じないことに驚かされます

シャープは、初代W-ZERO3発売後に4製品の後継機種を発売したものの、2010年に発売した「HYBRID W-ZERO3」でシリーズの幕を閉じました。しかし、このシリーズで培ってきた遺伝子は、シャープの最新スマートフォンに今も息づいているはずです。

2005年10月、あの日あの時

W-ZERO3が発売された2005年10月には、天野こずえ氏のコミックが原作のテレビアニメ「ARIA The ANIMATION」が放映開始されました。テラフォーミングされて水の惑星となった未来の火星「アクア」で、「ウンディーネ(水の妖精)」と呼ばれるゴンドラ漕ぎの少女が「日常の素敵」を探す物語に癒やされたのは、筆者だけではないはずです。同じテラフォーミングされた火星が舞台でも、ヒト型に進化したゴキブリたちと、昆虫の特殊能力を身につけた改造人間たちが壮絶な戦いを繰り広げる「テラフォーマーズ」とは大違いですね。

スポーツ界の大きな出来事は、2005年10月23日の第66回菊花賞における「ディープインパクト」の勝利。菊花賞を制したことで、ディープインパクトは中央競馬クラシック三冠を達成しました。筋肉の束をよじり合わせて作り上げたかのようなディープインパクトの馬体は、まるで生ける彫像のようでした。菊花賞で単勝式オッズが1.0倍となったのは必然といえます。ディープインパクトの優秀な遺伝子を受け継いだ子どもたちは、数々のレースで活躍しています。

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「あの日あの時あのコンピュータ」では、読者の皆さんからのご意見を募集します。記事で取り上げるコンピュータや思い入れのある名機のリクエスト、ご自身のエピソードなどをお待ちしています。また、コンピュータ本体や周辺機器の写真、カタログデータといった資料のご提供も大歓迎です。マイナビニュースの「ご意見・ご感想」からお寄せください。

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インデックス

連載目次
第15回 早すぎたスマホ? - シャープ&ウィルコム「W-ZERO3」
第14回 カセット+ディスク、高嶺の花、憧れの的 - シャープ「ツインファミコン」
第13回 「8ビット御三家」最終形への夜明け前(その2) - NEC「PC-8001」
第12回 MSX最安パソコンでゲームもプログラムも学んだ - カシオ計算機「PV-7」
第11回 スリムノートブックの先駆者 - DEC「Digital HiNote Ultra」
第10回 世界最軽量のPC/AT互換機はウルトラマン - 日本IBM「Palm Top PC 110」
第9回 (番外編)「パーソナルコンピュータ」が熱かった1980年代の初頭
第8回 そのグラフィックと日本語BASICに、僕らは憧れた - トミー「ぴゅう太」
第7回 ユーザーが育て愛した手のひらサイズのPC - YHP「HP-200LX」
第6回 3年先、5年先を見据えた「クリーンコンピューター」 - シャープ「MZ-80C」
第5回 トラックボールに想いを馳せる - パナソニック「Let'snote AL-N1/AL-N2」
第4回 理想のコンピュータを目指して - 東芝「DynaBook J-3100SS」
第3回 旅立つVAIOに心を込めて - ソニー「VAIO PCG-505」
第2回 「8ビット御三家」最終形への夜明け前 - 富士通「FM-8」
第1回 国民機「PC-9801」の誕生

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