結婚と恋愛の違い、互いの両親や兄弟姉妹との付き合いが絡んでくるかどうか

当たり前のことだが、結婚と恋愛は大きく違う。たとえ男女が長年同棲していたとしても、恋愛関係と婚姻関係の間には法律の問題以上に大きな壁がある。

その違いのひとつは、二人の関係に互いの両親や兄弟姉妹との付き合いが絡んでくるかどうかである。結婚とは多くの場合、男女二人がただ愛し合っているだけで済む問題ではなく、男女それぞれの家族・親戚との人間関係も大きな影響を及ぼすものだ。

そして、その家族・親戚との付き合いは、一般的に女性の負担のほうが大きいものである。現在の日本社会では、結婚によって姓を変えるのはまだまだ女性のほうが圧倒的多数であり、すなわち女性は結婚によって夫である男性側の家に入るという図式になる。その夫が長男であろうが、次男であろうが、女性は嫁として赤の他人の家族の姓を名乗り、その家族の新たな一員となるわけだ。冷静に考えたら、すごいことだと思う。

我が家の場合もそうだ。妻は僕と結婚して以来、ただ山田の姓を名乗り始めただけでなく、本質的な部分でも山田家の新たな一員として生活するようになった。現在、両親と同居しているわけではないが、それでも両親は僕の妻に対して実の娘と同じように接するよう心掛けている。息子の嫁という特異なポジションが山田家の中にぽつんとできたのではなく、単純に家族が一人増えたという感覚なのだ。

もっとも、僕らは結婚してまだ2年であるため、妻はもちろん僕の両親も、この新しい家族の形に完全に馴染めてはいないだろう。僕には独身の姉妹もおり、彼女たちと妻の関係も気になるところだが、今のところみんな仲が良い。これ幸いである。

いつも妻の精神状態に最大限配慮、新米夫としての最低限の心がけ

しかし、世の中にはさまざまな嫁姑問題や嫁小姑問題があふれており、それは決して他人事ではないと思い知らされる。テレビのワイドショーなんかを観ると、鬼嫁や鬼姑、鬼小姑の話題が頻繁に取り上げられ、「嫁の本音」「姑の本音」といった話題でスタジオが盛り上がることもしばしばだ。実際、僕の周囲を見渡してみても、夫の家族とうまく付き合えていない妻、すなわち夫の家族の一員になっていない妻も珍しくない。

こういうことはどの夫婦にも起こりえるだけに、新米の夫である僕はいつも妻の精神状態に最大限配慮するようにしている。一見、妻が自分の両親や姉妹と良好な関係を築いていたとしても、妻の潜在的ストレスまでは簡単に把握できないだろう。

その一方で、両親や姉妹には大変申し訳ないのだが、僕は彼ら彼女らの潜在的ストレスに関してはあまり配慮しないようにしている。もちろん、まったくしないのではなく、妻に比べるとはるかに軽いということだ。基本的に、妻の味方でいるようにしているのだ。

これは新米夫としての最低限の心がけみたいなものである。世の中には自分の両親や兄弟姉妹を愛しているがあまり、時に彼ら彼女らを妻よりも大切に扱う夫がいるが、これは少し危険だと思う。マザコン夫なんか、その最たるものだ。

圧倒的に妻の味方でもいい

極端な話、双方を平等に扱う必要もなく、圧倒的に妻の味方でもいいと思っている。僕の場合は兄弟ではなく姉妹だから、姉妹に関してはなおさらだ。もしも姉妹と妻の関係がうまくいかなくなったとき、僕は問答無用で妻側につくだろう。一般的に、姉妹はいずれ他人の家に嫁いでいくのだから、家族として守るべきは、まずは妻だろう。

こういうことを書くと、僕は過度な愛妻家だと思われるかもしれない。あるいは、血を分けた両親・姉妹に対して冷たいと批判されることもあるかもしれない。

しかし、これはそういう感情論ではなく、ある客観的な理由によるものだ。その理由とは、山田家において妻だけが血の繋がっていない赤の他人だからである。

男の多くは、ついこれを見落としがちだが、冷静に考えればいかに歪(いびつ)なことかよくわかると思う。妻以外の他の家族はみんな長年一緒に暮らしているだけでなく、血の繋がりまであるため、そこには非常に強固な絆が無意識のうちに生まれているはずだ。そんな成熟した輪の中に、赤の他人がたった一人で入っていき、ましてや家族の一員としてすごさなくてはならないのだ。その疎外感たるや、転校生の比ではない。

だからこそ、これは山田家に限った話ではなく、どこの家庭の妻にも最低一人は圧倒的な味方が必要だ。そして、その味方には夫が適任なのである。

どんなに妻に不満があっても、自分の両親や兄弟姉妹に打ち明けないほうがいい

その一方で、たとえば夫が妻の味方に徹しすぎたがあまり、自分の両親や兄弟姉妹と対立したとしても、よほどのことでない限り、取り返しのつかない絶縁状態になることはないだろう。血の繋がりから生まれる絆はそんなに脆いものではないからだ。

そう考えると、夫とはどんなに妻に不満があったとしても、それを自分の両親や兄弟姉妹に打ち明けてはいけないのかもしれない。それをした時点で、妻が家族の中で孤立無援の状態になるのは容易に想像できる。なんとなく弱い者イジメみたいだ。

しかし、そう思うのは、僕ら夫婦の間にはまだ子供がいないからだろう。子供ができるということは、すなわち妻にも血の繋がった圧倒的な味方ができるということであり、家族の輪の中で自分一人だけ疎外感を覚えることも少なくなるはずだ。

かくして僕は、まだしばらく妻の味方でいようと思っている。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち)
小説家・エッセイスト。1976年大阪府出身。早稲田大学卒業。『神童チェリー』『雑草女に敵なし!』『SimpleHeart』『芸能人に学ぶビジネス力』など著書多数。中でも『雑草女に敵なし!』はコミカライズもされた。また、最新刊の長編小説『虎がにじんだ夕暮れ』(PHP研究所)が、2012年10月25日に発売された。各種番組などのコメンテーター・MCとしても活動しており、私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。

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