【コラム】

岡田晃の「これがギリシャ危機のすべて」

2 ギリシャはユーロ加盟の資格がもともとなかった!?

 

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ギリシャ危機のきっかけは、国家ぐるみの"不正会計"の暴露

今日のギリシャ危機が勃発したきっかけは2009年10月の政権交代でした。総選挙で勝利して政権の座についた中道左派のPASOK(全ギリシャ社会主義運動党)政権が「前政権の新民主主義党(ND)=中道右派=が財政赤字を少なく見せかけていた」と暴露したのです。

その結果、ギリシャの財政赤字の2009年見通しはGDP(国内総生産)の4%弱から12.7%へと修正されました(その後の実績数値は15.6%となりました)。つまり、ギリシャの財政赤字は本当は3倍以上もあったことになります。最近、東芝の不正会計が問題となっていますが、それをはるかに上回る、いわば国家ぐるみの不正会計、粉飾ということになります。

このため市場では「ギリシャの財政は借金返済が不可能になるのではないか」との見方が広がり、ギリシャだけではなくポーランドやスペインなど他の財政赤字国への不安感が強まりました。これが2010年から2012年にかけて深刻化したギリシャ危機と欧州債務危機の直接の原因でした。

ユーロ加盟時に財政赤字を過少申告、ユーロ加盟の資格がもともとなかった!?

ところが実は、ギリシャの財政赤字の"粉飾"はこの時が初めてではありませんでした。2001年のユーロ加盟時に財政赤字を過少申告していたことが、2004年になって明るみに出たのです。ギリシャの2000年の財政赤字はGDP比で2.0%としていましたが、これを4.1%に、2001年を1.4%から3.7%に修正すると発表されました。この数字により、ユーロ加盟の資格がもともとなかったことがわかったのです。

EUはユーロ加盟の基準として、財政赤字の対GDP比3%以内などの条件を定めていました。1999年のユーロ発足に際し、ギリシャを含む12カ国が加盟を申請しましたが、ギリシャだけが上記の条件を満たしていないとして加盟が認められませんでした。1国だけ"落第"となり、ユーロ発足という輝かしい歴史的なスタートラインに立つことができなかったことは、前回に指摘したようにヨーロッパ文明発祥の国としては屈辱的なことで、悔しかったことでしょう。

そのことが"粉飾"に走らせたのか、2年後の2001年にギリシャはユーロ加盟を果たしました。しかしその時でも実際には加盟基準を満たしていないにもかかわらず、財政赤字を少なく見せかけていたわけです。これをやさしい表現で言うなら「背伸びしていた」ということです。

ギリシャは欧州の象徴的な国、ユーロ加盟の審査が甘くなった!?

それではEU側は疑わなかったのでしょうか。少なくとも、EU側にもギリシャをユーロに迎え入れたいとの思いが強かったことは確かです。ユーロ加盟国を少しでも多くしたいとの気持ちがありましたし、何と言ってもギリシャは欧州の象徴的な国ですから、ユーロには欠かせない国です。またギリシャはユーロ加盟国の中でも最も東側に位置し、ロシアや中東などに対して地政学的に重要な国なのです。そのためユーロ加盟の審査が甘くなったと指摘する専門家もいます。

2004年になって、加盟当時の財政赤字過少申告が明らかになった際も、EUはギリシャを批判しましたが、当然のことながらユーロ加盟を取り消すことはなく、財政赤字の修正を受け入れただけで一件落着となりました。

こうしてみると、2001年のユーロ加盟の時点ですでにギリシャ危機の"芽"はあったことになります。そしてこの手法がユーロ加盟時だけではなく、その後も続いていたことは、2009年の暴露によって明らかになった通りです。

政治の実行力の欠如、国民の間の根強い改革拒否が今日の危機を招く一因

2001年当時のギリシャ関連の新聞記事を検索して読み返してみると、面白いことに気がつきました。現在ほど大きな記事にはなっていませんでしたが、それでも「年内に10社を民営化、経済構造改革急ぐ」(日本経済新聞2001年1月11日付け)、「年金削減案、政府撤回」(同6月26日付け)などの記事が目につきました。後者の記事によると、ギリシャ政府はユーロ参加を機に財政再建の柱として年金支給の削減案を打ち出しました。その内容は、支給開始年齢を現行の55-56歳から65歳に引き上げるなどで、思わず「これ、今の話?」と勘違いしてしまいそうな内容です。

まさにこの14年間、いかに改革を進めてこなかったかを如実に示しています。このような政治の実行力の欠如、国民の間の根強い改革拒否が今日の危機を招く一因となったことは間違いないところです。これは一種の"甘えの構造"とも言えるでしょう。

先ほど「背伸び」と書きましたが、他のユーロ諸国に追いつけ追い越せと背伸びすること自体は、むしろ経済を発展させ、それが財政赤字を減らすことにもつながるはずです。そのためには改革が必要だったはずですが、甘えの構造がそれを阻み、背伸びは失敗に終わったというのが、この14年間の歴史だったと言えるでしょう。これが危機の遠因となったのです。このことは、今後ギリシャが財政改革と経済再建を進めるうえで教訓にすべき重要なことだと指摘しておきたいと思います。

(※岡田晃氏の人気連載『経済ニュースの"ここがツボ"』ギリシャ関連の解説記事は以下を参照)

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執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

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インデックス

連載目次
第8回 現地で見たギリシャ危機のその後(2)--成長戦略と改革努力が再建のカギ
第7回 現地で見たギリシャ危機のその後(1)--景気底ばい、荒れる街角、続く難民流入
第6回 便りのないのは元気な印!? ギリシャは今、どうなっている?
第5回 ギリシャ総選挙、なぜ与党が勝利!?--チプラス氏の基盤強化、難民問題が重荷
第4回 ギリシャ首相が突然の辞任、9月に総選挙--危機再燃か! 世界経済に再び暗雲!?
第3回 ギリシャが背伸びした「アテネ五輪」の"負の遺産" - 日本にも教訓
第2回 ギリシャはユーロ加盟の資格がもともとなかった!?
第1回 民主主義と西洋文明の発祥国・ギリシャ--過剰なプライドと屈辱の歴史

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