【コラム】

3Dグラフィックス・マニアックス

65 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTとは?

 

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現在、次世代の3Dゲームグラフィックス技術として実用化が進められているものにPRT(Precomputed Radiance Transfer)がある。

PRTは日本語訳では「事前計算・放射輝度・伝搬」ということになり、なにをするものか難解なキーワードとなっているが、現在、近代GPUの活用テーマとしてはもっとも盛んなものの1つであり、近代リアルタイム3Dグラフィックスを語る上ではどうしても避けられないものになりつつある。

今回より、このPRT技術についての基本事項と、最先端のPRT技術の最新動向までを紹介する。

PRTとはリアルタイム大局照明

現在のリアルタイム3Dグラフィックスでは、光源を設定したら基本的にはその光源の光を直接受ける陰影の計算しか行わない手抜きが大前提となっている。

現実世界では、光源からの光が第三者に遮蔽されたり、あるいは光がある物体に当たって反射したその光も、また光源となりうる(二次光源)。しかし、現在のリアルタイム3Dグラフィックスではこうした処理は省略されるか疑似手法(フェイク)で代用されることが多い。フェイクでもそれなりにつじつまが合っているように見えればそれはそれでいいのだが、なにか違和感が残ってしまう局面も少なくはない。

こうした遮蔽や相互反射などを取り扱い、複雑な照明を再現しようとするのが「大局的な照明技術」(Global Illumination : グローバルイルミネーション)という技術/概念だ。

しかし、大局照明は複雑であり計算量も多いため、まじめに実装していたのでは、とてもリアルタイムで動かすのは難しい。

そこで、この大局照明を、複雑な光の伝搬についてはオフライン(非リアルタイム)で時間を掛けて予め計算してしまい、リアルタイムレンダリング時にはその事前計算結果を利用して実現してしまおうというアイディアが登場する。

この1つが「PRT」ということになる。

このPRTが脚光を浴び始めたのは、2002年にSIGGRAPH 2002にて「Precomputed Radiance Transfer for Real-Time Rendering in Dynamic, Low-Frequency Lighting Environments.」(Peter-Pike Sloan)という論文が発表されてからだ。

この開祖的アイディアでは、あるシーンについてPRTを行う際には、光源は動かせるものの「そのシーンに登場しているキャラクタやオブジェクトは一切動かせない」という、リアルタイム3Dグラフィックスにとっては致命的な制約があった。そこで「動かない背景についてのみPRTを使う」という限定条件付きで3Dゲームグラフィックスに応用する例も提唱されたが、メモリ使用量や得られる効果のバランスを考えると実用性は低いと言わざるを得なかった。

しかし、この論文が起爆剤となり、各方面で研究開発が行われるようになった。その甲斐あって、ここ数年の間に、そのシーンをリアルタイムに動かしても適用可能なPRTの技法、いうなれば「動的なPRT」までもが発表されてきたのである。

本連載では、この動的PRTの基礎理論までを紹介するが、いきなり動的PRTに飛躍しても意味不明だと思われるので、最も基本的なPRTである「静的PRT」……すなわち「そのシーンに登場しているキャラクタやオブジェクトは一切動かない」、固定的なシーンにおける静的PRTから順番に見ていくことにしよう。(続く)

PRTの基本概念

(トライゼット西川善司)

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インデックス

連載目次
第99回 3D立体視の解体新書 - 立体視という知覚(4)~単眼立体視と両眼立体視の有効範囲の考察
第98回 3D立体視の解体新書 - 立体視という知覚(3)~両眼立体視
第97回 3D立体視の解体新書 - 立体視という知覚(2)~単眼立体視(2)
第96回 3D立体視の解体新書 - 立体視という知覚(1)~単眼立体視(1)
第95回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(19)
第94回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(18)
第93回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(17)
第92回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(16)
第91回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(15)
第90回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(14)
第89回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(13)
第88回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(12)
第87回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(11)
第86回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(10)
第85回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(9)
第84回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(8)
第83回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(7)
第82回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(6)
第81回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(5)
第80回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(4)
第79回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(3)
第78回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(2)
第77回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(1)
第76回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(5)~SH Exp演算の大胆な近似による高速化
第75回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(4)~SH Log演算とSH Log次元における遮蔽の統合
第74回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(3)~帯域調和関数(Zonal Harmonics)の導入
第73回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(2)~SH LogとSH Expとは?
第72回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(1)~3Dモデルの変形に対応した動的PRT技術の台頭
第71回 限定条件付き動的PRT(2)~PSF技法におけるライティング
第70回 限定条件付き動的PRT(1)~動的PRT第一段階PSF技法とは?
第69回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTの基本。静的PRT(4)
第68回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTの基本。静的PRT(3)
第67回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTの基本。静的PRT(2)
第66回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTの基本。静的PRT(1)
第65回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTとは?
第64回 表面下散乱によるスキンシェーダ(8)~表面下散乱とスキンシェーダ(6)
第63回 表面下散乱によるスキンシェーダ(7)~表面下散乱とスキンシェーダ(5)
第62回 表面下散乱によるスキンシェーダ(6)~表面下散乱とスキンシェーダ(4)
第61回 表面下散乱によるスキンシェーダ(5)~表面下散乱とスキンシェーダ(3)
第60回 表面下散乱によるスキンシェーダ(4)~表面下散乱とスキンシェーダ(2)
第59回 表面下散乱によるスキンシェーダ(3)~表面下散乱とスキンシェーダ(1)
第58回 表面下散乱によるスキンシェーダ(2)~ハーフライフ2で採用の疑似ラジオシティライティング(2)
第57回 表面下散乱によるスキンシェーダ(1)~ハーフライフ2で採用の疑似ラジオシティライティング(1)
第56回 水面の表現(5)~大きな波
第55回 水面の表現(4)~水面のライティング(2)
第54回 水面の表現(3)~水面のライティング(1)
第53回 水面の表現(2)~動的なさざ波
第52回 水面の表現(1)~水面表現の歴史
第51回 HDRレンダリング(11)~トーンマッピング
第50回 HDRレンダリング(10)~HDRブルーム/グレア処理
第49回 HDRレンダリング(9)~HDRテクスチャ
第48回 HDRレンダリング(8)~HDRレンダーターゲット
第47回 HDRレンダリング(7)~HDRレンダリングのプロセス
第46回 HDRレンダリング(6)~HDRレンダリングの歴史と動向(2)
第45回 HDRレンダリング(5)~HDRレンダリングの歴史と動向(1)
第44回 HDRレンダリング(4)~HDRレンダリングの第三の効能
第43回 HDRレンダリング(3)~HDRレンダリングの第二の効能
第42回 HDRレンダリング(2)~HDRレンダリングの第一の効能
第41回 HDRレンダリング(1)~HDRレンダリングとは?
第40回 ジオメトリシェーダ(11)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(7)
第39回 ジオメトリシェーダ(10)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(6)
第38回 ジオメトリシェーダ(9)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(5)
第37回 ジオメトリシェーダ(8)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(4)
第36回 ジオメトリシェーダ(7)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(3)
第35回 ジオメトリシェーダ(6)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(2)
第34回 ジオメトリシェーダ(5)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(1)
第33回 ジオメトリシェーダ(4)~ジオメトリシェーダのアクセラレーション的活用(4)
第32回 ジオメトリシェーダ(3)~ジオメトリシェーダのアクセラレーション的活用(3)
第31回 ジオメトリシェーダ(2)~ジオメトリシェーダのアクセラレーション的活用(2)
第30回 ジオメトリシェーダ(1)~ジオメトリシェーダのアクセラレーション的活用・ステンシルシャドウボリューム技法の影生成を加速する
第29回 影の生成(10)~改良型デプスシャドウ技法(5)
第28回 影の生成(9)~改良型デプスシャドウ技法(4)
第27回 影の生成(8)~改良型デプスシャドウ技法(3)
第26回 影の生成(7)~改良型デプスシャドウ技法(2)
第25回 影の生成(6)~改良型デプスシャドウ技法(1)
第24回 影の生成(5)~デプスシャドウ技法
第23回 影の生成(4)~ステンシルシャドウボリューム技法(2)
第22回 影の生成(3)~ステンシルシャドウボリューム技法(1)
第21回 影の生成(2)~投射テクスチャマッピング技法
第20回 影の生成(1)~3Dグラフィックスにおける2つのカゲの存在
第19回 バンプマッピングの先にあるもの(3)~セルフシャドウ付き視差遮蔽マッピング
第18回 バンプマッピングの先にあるもの(2)~視差遮蔽マッピング
第17回 バンプマッピングの先にあるもの(1)~視差マッピング
第16回 微細凹凸表現の基本形「法線マップ」(3)
第15回 微細凹凸表現の基本形「法線マップ」(2)
第14回 微細凹凸表現の基本形「法線マップ」(1)
第13回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(5)
第12回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(4)
第11回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(3)
第10回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(2)
第9回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(1)
第8回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(8)
第7回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(7)
第6回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(6)
第5回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(5)
第4回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(4)
第3回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(3)
第2回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(2)
第1回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(1)

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