【コラム】

3Dグラフィックス・マニアックス

41 HDRレンダリング(1)~HDRレンダリングとは?

41/99

ゲームグラフィックス、コンピュータグラフィックスは共に、ディスプレイ装置に表示することが前提であったために、レンダリングパイプラインが、この「ディスプレイ基準」で組み立てられて来た経緯がある。ところが、現実世界をリアルに表現しようとした場合、これは足かせとなる。この足かせを断ち切ろうという動きが近代リアルタイム3Dグラフィックスにおいても見られるようになってきた。

それが「ハイ・ダイナミック・レンジ・レンダリング」(HDRレンダリング:High Dynamic Range Rendering)だ。

もともとは学術的な研究テーマとして盛んだった「HDR」というキーワードは、今や、PCにおけるリアルタイムレンダリングのみならず、家庭用ゲーム機のグラフィックス表現としても標準となりつつある。

今回からはしばらく、このHDRレンダリングというテーマについて見ていくことにしよう。

HDRレンダリングとは?

そもそもHDRレンダリングとはどういう意味があるのだろうか。まずはここから解説していこう。

「HDRレンダリング」の定義としては「表示に用いるディスプレイ機器の輝度/色域の限界に囚われず、幅広い輝度/色域でレンダリングを行うこと」ということになる。

現在のPCで日常的に取り扱う色表現はRGB(赤、緑、青)の三原色が各整数8ビットずつで表現される24ビットカラー、1677万色が最も身近な存在だといえる。

このディスプレイに採用されている「1677万色」というものは、人間の一度に視覚できる輝度や色のおよその範囲のRGB三原色光を256段階(0~255)段階で表現するものだ(R256×G256×B256=16,777,216)。人間が一度に見ることのできる輝度範囲/色範囲をこの1677万段階という分解能で表現する分にはほぼ必要十分だが、現実世界をそのまま再現するには不十分な状況が出てくる。

下図は人間の視覚を分かりやすく図解したものだ。

視覚のダイナミックレンジ。桿状体は暗い光を感じるための視覚細胞。そして円錐体は明るい光や色を感じる視覚細胞。下の数値の単位はルミナンス値(lum/m2)

例えばだが、「太陽光を反射する雪原(1E+6=106)」は相当明るく、「夜空の星空が地表を照らす明るさ(1E-6=10-6)」は相当暗いことはイメージできるはずだ。この明るさや暗さはルミナンス値(lum/m2)では実に10の12乗(1012)の"格差"がある。

3Dグラフィックスはルミナンス値でレンダリングするものではないが、それでも現実世界の明るさと暗さをエネルギーとして記録するにはとてつもない表現域が必要になるということは想像できたと思う。

前述の雪原と夜空の例が現実世界の最大の明るさと暗さを示していたとして、これを数値表現するためには1012の範囲を表現できなければならないことになる。

話を分かり易くするために、「取り扱える数値の範囲」という意味においての"ダイナミックレンジ"を計算してみよう(用語の定義としての"ダイナミックレンジ"とは表現できる最小値と最大値の対比を表す単位である)。

対数を取って10を掛けたものをdB(デシベル)というが、1012の表現幅が必要ということは120dBのダイナミックレンジが必要になるということだ。

いわゆる1677万色は輝度を整数8ビット、256段階で記録する方式だから256≒102.4となり、約24dB分しか記録できないことになる。そう、現実世界(120dB)の約40億分の1(≒1012÷102.4)しか記録できないということなのだ。もちろん、1012の幅の階調を8ビットの256段階で無理矢理表現することも出来なくはないが、これでは分解能としては粗すぎる。

この広大なダイナミックレンジの明るさ、暗さを、なるべく正確に記録しようというのがHDRレンダリングの基本的なアプローチになる。(続く)

(トライゼット西川善司)

41/99

インデックス

連載目次
第99回 3D立体視の解体新書 - 立体視という知覚(4)~単眼立体視と両眼立体視の有効範囲の考察
第98回 3D立体視の解体新書 - 立体視という知覚(3)~両眼立体視
第97回 3D立体視の解体新書 - 立体視という知覚(2)~単眼立体視(2)
第96回 3D立体視の解体新書 - 立体視という知覚(1)~単眼立体視(1)
第95回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(19)
第94回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(18)
第93回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(17)
第92回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(16)
第91回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(15)
第90回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(14)
第89回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(13)
第88回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(12)
第87回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(11)
第86回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(10)
第85回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(9)
第84回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(8)
第83回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(7)
第82回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(6)
第81回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(5)
第80回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(4)
第79回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(3)
第78回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(2)
第77回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(1)
第76回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(5)~SH Exp演算の大胆な近似による高速化
第75回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(4)~SH Log演算とSH Log次元における遮蔽の統合
第74回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(3)~帯域調和関数(Zonal Harmonics)の導入
第73回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(2)~SH LogとSH Expとは?
第72回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(1)~3Dモデルの変形に対応した動的PRT技術の台頭
第71回 限定条件付き動的PRT(2)~PSF技法におけるライティング
第70回 限定条件付き動的PRT(1)~動的PRT第一段階PSF技法とは?
第69回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTの基本。静的PRT(4)
第68回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTの基本。静的PRT(3)
第67回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTの基本。静的PRT(2)
第66回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTの基本。静的PRT(1)
第65回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTとは?
第64回 表面下散乱によるスキンシェーダ(8)~表面下散乱とスキンシェーダ(6)
第63回 表面下散乱によるスキンシェーダ(7)~表面下散乱とスキンシェーダ(5)
第62回 表面下散乱によるスキンシェーダ(6)~表面下散乱とスキンシェーダ(4)
第61回 表面下散乱によるスキンシェーダ(5)~表面下散乱とスキンシェーダ(3)
第60回 表面下散乱によるスキンシェーダ(4)~表面下散乱とスキンシェーダ(2)
第59回 表面下散乱によるスキンシェーダ(3)~表面下散乱とスキンシェーダ(1)
第58回 表面下散乱によるスキンシェーダ(2)~ハーフライフ2で採用の疑似ラジオシティライティング(2)
第57回 表面下散乱によるスキンシェーダ(1)~ハーフライフ2で採用の疑似ラジオシティライティング(1)
第56回 水面の表現(5)~大きな波
第55回 水面の表現(4)~水面のライティング(2)
第54回 水面の表現(3)~水面のライティング(1)
第53回 水面の表現(2)~動的なさざ波
第52回 水面の表現(1)~水面表現の歴史
第51回 HDRレンダリング(11)~トーンマッピング
第50回 HDRレンダリング(10)~HDRブルーム/グレア処理
第49回 HDRレンダリング(9)~HDRテクスチャ
第48回 HDRレンダリング(8)~HDRレンダーターゲット
第47回 HDRレンダリング(7)~HDRレンダリングのプロセス
第46回 HDRレンダリング(6)~HDRレンダリングの歴史と動向(2)
第45回 HDRレンダリング(5)~HDRレンダリングの歴史と動向(1)
第44回 HDRレンダリング(4)~HDRレンダリングの第三の効能
第43回 HDRレンダリング(3)~HDRレンダリングの第二の効能
第42回 HDRレンダリング(2)~HDRレンダリングの第一の効能
第41回 HDRレンダリング(1)~HDRレンダリングとは?
第40回 ジオメトリシェーダ(11)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(7)
第39回 ジオメトリシェーダ(10)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(6)
第38回 ジオメトリシェーダ(9)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(5)
第37回 ジオメトリシェーダ(8)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(4)
第36回 ジオメトリシェーダ(7)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(3)
第35回 ジオメトリシェーダ(6)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(2)
第34回 ジオメトリシェーダ(5)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(1)
第33回 ジオメトリシェーダ(4)~ジオメトリシェーダのアクセラレーション的活用(4)
第32回 ジオメトリシェーダ(3)~ジオメトリシェーダのアクセラレーション的活用(3)
第31回 ジオメトリシェーダ(2)~ジオメトリシェーダのアクセラレーション的活用(2)
第30回 ジオメトリシェーダ(1)~ジオメトリシェーダのアクセラレーション的活用・ステンシルシャドウボリューム技法の影生成を加速する
第29回 影の生成(10)~改良型デプスシャドウ技法(5)
第28回 影の生成(9)~改良型デプスシャドウ技法(4)
第27回 影の生成(8)~改良型デプスシャドウ技法(3)
第26回 影の生成(7)~改良型デプスシャドウ技法(2)
第25回 影の生成(6)~改良型デプスシャドウ技法(1)
第24回 影の生成(5)~デプスシャドウ技法
第23回 影の生成(4)~ステンシルシャドウボリューム技法(2)
第22回 影の生成(3)~ステンシルシャドウボリューム技法(1)
第21回 影の生成(2)~投射テクスチャマッピング技法
第20回 影の生成(1)~3Dグラフィックスにおける2つのカゲの存在
第19回 バンプマッピングの先にあるもの(3)~セルフシャドウ付き視差遮蔽マッピング
第18回 バンプマッピングの先にあるもの(2)~視差遮蔽マッピング
第17回 バンプマッピングの先にあるもの(1)~視差マッピング
第16回 微細凹凸表現の基本形「法線マップ」(3)
第15回 微細凹凸表現の基本形「法線マップ」(2)
第14回 微細凹凸表現の基本形「法線マップ」(1)
第13回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(5)
第12回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(4)
第11回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(3)
第10回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(2)
第9回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(1)
第8回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(8)
第7回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(7)
第6回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(6)
第5回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(5)
第4回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(4)
第3回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(3)
第2回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(2)
第1回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(1)

もっと見る

関連キーワード

人気記事

一覧

新着記事