ライトスペース・パースペクティブ・シャドウマップ技法~デプスシャドウ技法の改良版その第2形態

前回取りあげた改良型デプスシャドウ技法のPSM技法にも弱点はあった。

視点よりも背後にあるような「3Dオブジェクト本体は視界に入っていないものの影だけは視界に入ってくるようなケース」では、透視投影変換した座標系でシャドウマップを生成しても原理上うまく行かない。

また、視線と光源が相対するような位置関係(完全逆光状態)の時には、通常のデプスシャドウ技法の影生成にやっていることがさほど変わらなくなってしまい、そうした条件下ではやはりジャギーが出てしまうのだ。

視界と光源からの光が相対するケースではせっかくのPSMならではの工夫が台無しになる

「3DMark05」より。視界と光源との位置関係が悪条件になるとPSMでも影に毛羽立ちが目立つようになる

そこで改良型のPSM技法が、2004年のEurographics Symposium on Renderingにてウィーン工科大学のMichael Wimmer氏他らによって発表された。それが「ライトスペース・パースペクティブ・シャドウマップ技法」(LSPSM:Light Space Perspective Shadow Maps)だ。

LSPSM技法では、PSM技法の最良状態を得られるように、シャドウマップ生成時の座標系を調整するもので、かなり技巧的な工夫が盛り込まれている。

調整の条件とは、1つは、「視点の背後にある3Dオブジェクトの影が視界に入り込んでくるようなケース」に対処するために、シャドウマップを生成する範囲(光源からの仮想的な視界)を「影生成元になりうる全ての3Dオブジェクトを捉える」ように調整し、なおかつ「視点からの視界(視錐台)全体を含めるようにする」というもの。

条件の二つ目は、「なるべくPSM技法の長所が得られやすいようなシャドウマップ生成を行う」ために都合のよい座標系を求めるというもの。この都合のよい座標系とは、PSMの特長の「シャドウマップの解像度が視点から近い領域については細かく、遠くなるにつれてそれなりにする」……というシャドウマップのバイアスのかかり方を一定に維持できる座標系のこと。これは「視点からの視界になるべく近いこと」(図参照)が条件になる。

Vが視点からの視界(視錐台)。Lは光源。シャドウマップを生成するための座標系Pは、このように「視線からの視界Vを含み」「影を落とす可能性のある3Dオブジェクトを全て含み」、なおかつ「視点からの視界に近い」という条件のものを算出して求める

実際のシャドウマップ("□"で囲まれている部分)は、このような変形された座標系で生成される。このシャドウマップを生成するための座標系の変形に工夫があるだけで、技法としての方針はPSMと同じといえなくもない

この2つの条件を同時に満たす座標系でシャドウマップを生成すれば、あとは、PSM技法、というかデプスシャドウ技法とやることは同じだ。(続く)

通常のデプスシャドウ技法。手前の影が相当大ざっぱになっている

この時のシャドウマップの内容

PSM技法。手前の影は相当緻密に出ているが奥の影が逆に大ざっになっている

この時のシャドウマップの内容

LSPSM技法。手前の影も奥の影も両方とも精細に出ている

この時のシャドウマップの内容

(トライゼット西川善司)