【コラム】

3Dグラフィックス・マニアックス

21 影の生成(2)~投射テクスチャマッピング技法

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90年代の3Dゲームの影生成技法の主流だったのが、3Dキャラクタの足元に黒いマルを置くだけの簡易的な影、通称「丸影」だ。

1枚の板ポリゴンに丸い影テクスチャを貼り付けた物を足元に描くだけなので、負荷は非常に軽い。3D空間上におけるキャラクタ位置を立体的にプレイヤーに伝える……という程度の情報量はあるが、あらゆるキャラクタの影が同じ丸く描かれるだけなので、「影」としてのリアリティはほとんど無かった。

「Oni」(BUNGIE,2001)より。足元にただ丸い影スプライトを描くだけの超簡易影生成技法が使われていた。
Oni and the Oni logo are trademarks of Take 2 Interactive Software, Inc. Bungie and the Bungie logo are trademarks of Microsoft, Inc. Gatharing of Developers and godgames are trademarks of Gathering of Developers, Inc. All other trademarks and trade names are property of their respective owners. (C)2001 Gathering of Developers. All Rights Reserved.

これを若干進化させたのが、「投射テクスチャマッピング」(Projected Texture Mapping)による疑似影生成だ。

これは、光源から見たキャラクタのシルエットをテクスチャにレンダリングし、これを光源位置から、映写機で投影するようにシーンにテクスチャマッピングすることで実現する。

投射テクスチャマッピングによる簡易影生成技法の概念図

投射テクスチャマッピングはほぼ全てのGPUでサポートされるため、互換性が高い。ただ、地面に丸い影を描くのではなく、そのキャラクタのシルエットをシーンに投射するので、あるキャラクタの影が、別のキャラクタに投射されるような相互投射影表現も実現できる。

影を出したいキャラクタのシルエットを毎フレームテクスチャに生成しなくてはならないが、視点から遠いキャラクタについては影生成を省略するといった手抜きをすれば、パフォーマンス的にスケーラブルな実装も可能だ。

この投射テクスチャマッピングを使った影生成は、原始的ではあるが、比較的最近の3Dゲームでもしばしば採用されることがある。プレイステーション2のタイトルなどはこの技法を採用した物が多いようだ。

「THE GOD FATHER THE GAME」(EA,2006)より。比較的最近のタイトルだが、投射テクスチャマッピングによる影生成技法が採用されていた。
(C)2006 Electronic Arts Inc. All rights reserved.

投射テクスチャマッピング技法の問題

この手法の弱点は「セルフシャドウ」表現が行えないという点にある。

セルフシャドウとは、自分自身の部位の影が自身に投射されるような影表現のことだ。

例えば現実世界で、電灯の下に立って腕を前に突き出して見ると、その腕の影が自分の胸から腹にかけて投射されるはずだ。この、自分の腕の影が自身に体に投射されるような表現をセルフシャドウという。

投射テクスチャマッピングを使った影生成では、影の最小生成単位がキャラクタ単位となることから、セルフシャドウ表現が難しいのだ。

セルフシャドウは自身の影が自身に投射されること。現実世界ではなんてことのない影も、リアルタイム3Dグラフィックスでは特別な処理をしなければ出すことが出来ない

また、このシルエットテクスチャをどこに貼るのか(=影がどこに落ちるのか)の判定をきちんとしないと、あり得ないところに影が落ちて不自然に見えてしまうことがある。(続く)

「Half-Life2」(VALVE,2004)の影生成は投射テクスチャマッピングの技法を実装していた。階段の踊り場にいるキャラクタの影が、踊り場の床を通り越し、壁に投射されてしまっている。これはシルエットテクスチャをどこに落とすべきかの判定がいい加減であったために起きてしまった不具合。
(C)2004 Valve Corporation. All rights reserved. Valve, the Valve logo, Half-Life, the Half-Life logo, the Lambda logo, Counter-Strike, the Counter-Strike logo, Source, and the Source logo are trademarks or registered trademarks of Valve Corporation in the United States and/or other countries. All other trademarks are property of their respective owners.

(トライゼット西川善司)

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インデックス

連載目次
第99回 3D立体視の解体新書 - 立体視という知覚(4)~単眼立体視と両眼立体視の有効範囲の考察
第98回 3D立体視の解体新書 - 立体視という知覚(3)~両眼立体視
第97回 3D立体視の解体新書 - 立体視という知覚(2)~単眼立体視(2)
第96回 3D立体視の解体新書 - 立体視という知覚(1)~単眼立体視(1)
第95回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(19)
第94回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(18)
第93回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(17)
第92回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(16)
第91回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(15)
第90回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(14)
第89回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(13)
第88回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(12)
第87回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(11)
第86回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(10)
第85回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(9)
第84回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(8)
第83回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(7)
第82回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(6)
第81回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(5)
第80回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(4)
第79回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(3)
第78回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(2)
第77回 人工知性でコンテンツを生成するプロシージャル技術(1)
第76回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(5)~SH Exp演算の大胆な近似による高速化
第75回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(4)~SH Log演算とSH Log次元における遮蔽の統合
第74回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(3)~帯域調和関数(Zonal Harmonics)の導入
第73回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(2)~SH LogとSH Expとは?
第72回 3Dモデルの変形までが可能な動的PRT(1)~3Dモデルの変形に対応した動的PRT技術の台頭
第71回 限定条件付き動的PRT(2)~PSF技法におけるライティング
第70回 限定条件付き動的PRT(1)~動的PRT第一段階PSF技法とは?
第69回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTの基本。静的PRT(4)
第68回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTの基本。静的PRT(3)
第67回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTの基本。静的PRT(2)
第66回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTの基本。静的PRT(1)
第65回 事前計算放射輝度伝搬(PRT)~PRTとは?
第64回 表面下散乱によるスキンシェーダ(8)~表面下散乱とスキンシェーダ(6)
第63回 表面下散乱によるスキンシェーダ(7)~表面下散乱とスキンシェーダ(5)
第62回 表面下散乱によるスキンシェーダ(6)~表面下散乱とスキンシェーダ(4)
第61回 表面下散乱によるスキンシェーダ(5)~表面下散乱とスキンシェーダ(3)
第60回 表面下散乱によるスキンシェーダ(4)~表面下散乱とスキンシェーダ(2)
第59回 表面下散乱によるスキンシェーダ(3)~表面下散乱とスキンシェーダ(1)
第58回 表面下散乱によるスキンシェーダ(2)~ハーフライフ2で採用の疑似ラジオシティライティング(2)
第57回 表面下散乱によるスキンシェーダ(1)~ハーフライフ2で採用の疑似ラジオシティライティング(1)
第56回 水面の表現(5)~大きな波
第55回 水面の表現(4)~水面のライティング(2)
第54回 水面の表現(3)~水面のライティング(1)
第53回 水面の表現(2)~動的なさざ波
第52回 水面の表現(1)~水面表現の歴史
第51回 HDRレンダリング(11)~トーンマッピング
第50回 HDRレンダリング(10)~HDRブルーム/グレア処理
第49回 HDRレンダリング(9)~HDRテクスチャ
第48回 HDRレンダリング(8)~HDRレンダーターゲット
第47回 HDRレンダリング(7)~HDRレンダリングのプロセス
第46回 HDRレンダリング(6)~HDRレンダリングの歴史と動向(2)
第45回 HDRレンダリング(5)~HDRレンダリングの歴史と動向(1)
第44回 HDRレンダリング(4)~HDRレンダリングの第三の効能
第43回 HDRレンダリング(3)~HDRレンダリングの第二の効能
第42回 HDRレンダリング(2)~HDRレンダリングの第一の効能
第41回 HDRレンダリング(1)~HDRレンダリングとは?
第40回 ジオメトリシェーダ(11)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(7)
第39回 ジオメトリシェーダ(10)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(6)
第38回 ジオメトリシェーダ(9)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(5)
第37回 ジオメトリシェーダ(8)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(4)
第36回 ジオメトリシェーダ(7)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(3)
第35回 ジオメトリシェーダ(6)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(2)
第34回 ジオメトリシェーダ(5)~ジオメトリシェーダを活用した新表現(1)
第33回 ジオメトリシェーダ(4)~ジオメトリシェーダのアクセラレーション的活用(4)
第32回 ジオメトリシェーダ(3)~ジオメトリシェーダのアクセラレーション的活用(3)
第31回 ジオメトリシェーダ(2)~ジオメトリシェーダのアクセラレーション的活用(2)
第30回 ジオメトリシェーダ(1)~ジオメトリシェーダのアクセラレーション的活用・ステンシルシャドウボリューム技法の影生成を加速する
第29回 影の生成(10)~改良型デプスシャドウ技法(5)
第28回 影の生成(9)~改良型デプスシャドウ技法(4)
第27回 影の生成(8)~改良型デプスシャドウ技法(3)
第26回 影の生成(7)~改良型デプスシャドウ技法(2)
第25回 影の生成(6)~改良型デプスシャドウ技法(1)
第24回 影の生成(5)~デプスシャドウ技法
第23回 影の生成(4)~ステンシルシャドウボリューム技法(2)
第22回 影の生成(3)~ステンシルシャドウボリューム技法(1)
第21回 影の生成(2)~投射テクスチャマッピング技法
第20回 影の生成(1)~3Dグラフィックスにおける2つのカゲの存在
第19回 バンプマッピングの先にあるもの(3)~セルフシャドウ付き視差遮蔽マッピング
第18回 バンプマッピングの先にあるもの(2)~視差遮蔽マッピング
第17回 バンプマッピングの先にあるもの(1)~視差マッピング
第16回 微細凹凸表現の基本形「法線マップ」(3)
第15回 微細凹凸表現の基本形「法線マップ」(2)
第14回 微細凹凸表現の基本形「法線マップ」(1)
第13回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(5)
第12回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(4)
第11回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(3)
第10回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(2)
第9回 3Dグラフィックスの概念とレンダリングパイプライン(1)
第8回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(8)
第7回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(7)
第6回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(6)
第5回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(5)
第4回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(4)
第3回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(3)
第2回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(2)
第1回 GPUとシェーダ技術の基礎知識(1)

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