その会話、「わかったつもり」じゃないですか?

ピラミッド・ストラクチャー、ロジック・ツリー、MECE、So What?/Why?True?…。論理思考を扱う書籍には、若手ビジネスパーソンにとってあまりなじみのない横文字ばかりが並んでいます。このコラムでは、「論理思考って難しそう…」と感じている人に少しでも興味を持ってもらえるよう「明日から使える!」論理思考の基礎スキルをご紹介していきたいと思います。

分かったつもり。伝えたつもり。

Aさんは、ある旅行代理店で国内ツアーを企画する部署で働いています。最近、自分が企画した商品の売上がどれも芳しくない。そんな中、飲み会で同じ部署のB先輩と隣になりました。

Aさん:最近、企画がことごとく外れてしまって…。ついに最少催行人数を割る企画を出してしまって、ツアーが中止になってしまったんです。
B先輩:まぁ、そう落ち込むなって。悩んでいるだけでは、良い企画は生まれないぞ。行動あるのみだ。ツアー企画の極意を教えてやろうか。
Aさん:はいっ、先輩! ぜひ、お願いします!
B先輩:ポイントは色々あるが、まずは徹底的にお客さんの立場に立って考えることだ。あと、自分の頭に頼り過ぎないこと。部門間のシナジーを効かせることを常に意識するんだ。つまり、他部門の人をどんどん巻き込んでいくことが良い企画につながるってことだ。そして、これが一番のポイントだが、お前の意気込みがツアー名やパンフレットに滲み出ることが必要なんだよ。自分の想いを企画全体に浸透させるっていう感じかな。そういう感覚を磨くことに心血を注ぐことが大事なんだ。
Aさん:なるほど。ありがとうございます! 早速、明日から実践してみます!!

「さすが売上ナンバーワンを誇るB先輩。良いアドバイスをもらったなぁ」とほろ酔い気分も手伝って、意気揚々と帰路につくAさん。一方、Bさんも「今日は、我ながら良いアドバイスができた。きっとAの奴、今頃B先輩はやっぱりいいこと言うなぁ、と思っているだろうな」と、こちらも良い気分。

さて、Aさんは明日から良い企画が立てられるようになるのでしょうか? 果たして、Aさんの行動は明日から変化するのでしょうか?

曖昧な言葉は、行動を生み出さない。使う言葉にこだわる。

もし皆さんが、Aさんの行動を変えるためにB先輩のアドバイスにツッコミを入れるとすれば、どこに入れますか?

「お客さんの立場に立って」「徹底的に考える」「部門間のシナジーを効かせる」「滲み出るような」「全体に浸透させる」「感覚を磨く」などなど。一体、これらの言葉は何を意味しているのでしょうか。具体的に何をすれば良いのでしょうか。

恐らくB先輩は、これらの言葉の意味するところのイメージが頭の中に浮かんでいるのでしょう。また、Aさんもなんとなくはイメージできているからこそ、良いアドバイスをもらったという気持ちになっているのだと思います。しかし、いざ行動するとなると、何をどうしたらよいのかわからず、行動は何も変わらない。

今日から、皆さんに意識していただきたいことは、理解したつもり、伝えたつもりでは、成果につながる行動は生まれないということ。曖昧な言葉が出てきたらどういう意味なのか質問する。言葉の意味合いを具体的に考える。曖昧な言葉を使ったら、それを説明する事例を続けて伝える。こうした小さな努力が、コミュニケーション力の向上につながり、成果を生み出すスキルになるのです。


<著者プロフィール>
岩越祥晃
グロービス経営大学院教員、グロービス・マネジメント・スクール講師。担当科目は「クリティカル・シンキング」。同志社大学法学部政治学科卒業、関西学院大学大学院経営戦略研究科修了(MBA)。エンタテインメント関連企業を経て、グロービスに入社。現在は、グロービス経営大学院及びグロービス・マネジメント・スクールの教員及び教材の開発を担当するとともに、株式会社グロービスにてマーケティング業務のマネジャーも務めている。