父親として、会社や自分の働き方とどう向き合う?

5回目は、父親として会社や自分の働き方とどう向き合うかについてお伝えします。

女性の我慢を犠牲にして男性を働かせている

日本の会社の多くは従業員のプライベートを侵食しすぎています。男性に育休を取らせなかったり、時間外労働をさせたりすることで、夫は職場に取られ、妻は孤独になるケースが多いように思われます。

その上、ある会社で男性の育休取得の状況を聞き取り調査したら、「プライベートなことなのでそういう情報は収集していない。誰に子どもが何人いるかもわからない」という回答が返ってきました。残業や休日出勤で男性会社員のプライベートを侵食しているのに、情報収集をしていない言い訳として「プライバシーなので聞けない」と主張する。すごく怠慢だと思います。

イクメンが流行したことで、「子育ても父親の役割」という風潮があるように感じてしまいますが、実質的には、育児が男性の役割だとは思われていないようです。「子育ては仕事に支障のない範囲でやるのが当たり前」と考えられているので、父親の子育ては、みんな配慮しなくてもいいと思われがちです。最大の犠牲者は、男性が職場に取られている間に家でひとり、戦っている妻です。妻の我慢を犠牲にして、会社は男性を働かせています。誰がつらい目にあっているのかということを、社会はもっと理解する必要があるのではないでしょうか。

子育ては個人主義的なスタンスで解決できない

そんな状況の中で、男性が育休を取得しようと思った場合、「いかに交渉していくか」ということが大切だと思います。男性の子育てに理解がない上司がいたとして、「私が正しくて上司は間違っている」というスタンスで臨むと敗戦は濃厚です。上司は家庭を顧みず、仕事一筋で成功した人生を歩んできたかもしれないのです。相手がどういう背景を持っているか理解した上で、論理的・建設的な議論を地道にしていくしかありません。

なぜ、育休を取得する側がここまで努力をしなければいけないのかと思いますよね。まったくごもっともなのですが、こちら側が努力しなければ多くの日本の会社では育休が取れない現実があります。今すぐ取得できなければ、子どもは育っていってしまいます。さらに、社会や組織に属しているのであれば、全体の中での自分の役割を考えてみることも必要なのではないでしょうか。交渉を経ずに、強引に育休を取得してしまえば、「変わり者だから」「仕事で干されているから」という風に受け取られ、自分だけでなく次に続く人に迷惑をかけてしまうかもしれません。

子育ての問題は、個人主義的なスタンスでは解決できない問題です。「職場の雰囲気を変えていこう」とか「次に続く人が育休を取りやすいように俺ががんばろう」という気持ちがなければ解決していかないと思います。

会社と自分をフェアな関係に

今の会社と従業員の関係は「オラオラ系の彼氏と別れられない彼女」の関係に似ています。彼女が彼氏からどう思われているのか気にしたり、嫌われないように振る舞っていたりしたら、彼氏のオラオラは止まりません。さらに彼女は、「私がいないとこの彼氏はダメになる」と思い、ないがしろにされることでさらにやる気を出してしまいます。しかしそこで、「彼氏と別れる」という選択肢があるのだと思ったら、彼氏にどう思われるのかは気にしなくていいですし、駄目な彼から離れる勇気もわいてくるはずです。

同じように、会社と従業員の関係は、フェアであったほうがいいと思います。こちらの求めに会社が応じられないならば、現実には難しいかもしれませんが、自分から辞めるという”選択肢もあるのだ”と思っておいたほうが、真剣に仕事に向き合えるのではないでしょうか。辞める可能性があると思えば、会社に寄りかかろうとは思わなくなるからです。他社から欲しいと思われる人材になるために、自分の価値を高めなければなりません。

組織での評価を恐れるのは「しがみつかなければ」という思いがあるから。自分の職務に自信があり、会社と距離を保つことができれば、例えば育休を取得することで周囲がどう思うかなんていうことに、びくびくしなくて済むはずです。

※写真はイメージで本文とは関係ありません

著者プロフィール

田中俊之
武蔵大学社会学部助教。社会学・男性学を主な研究分野とし、男性がゆえの生きづらさについてメディア等で発信している。自身も0歳児の子どもを持つ育児中のパパ。単著に『男性学の新展』『男がつらいよ』『男が働かない、いいじゃないか! 』、共著に「不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか」などがある。