ソニーの人気ゲーム機「PlayStation 3」を巡って法関係の話題が絶えない。1つはライバルである韓LG Electronicsとの特許訴訟、もう1つは21歳の個人ハッカーらを相手取った提訴だ。対LG訴訟では、LGの主張を認めるオランダのハーグ民事裁判所の仮処分を受け、輸入が差し止めされるという事態になっている。

LGとソニーは薄型テレビなどで激しい対立関係にある。PlayStation 3で目玉となったのはBlu-ray Disc再生機能。LGはこれが自社特許を侵害しているとして提訴、ハーグ民事裁判所がこの主張を認めたため、スキルポールやロッテルダムなどの輸入拠点の税関でPlayStation 3が差し止めされるという措置がとられた。仮処分の期間は10日間。ソニーがこれを認めたのは3月4日だが、2月28日付けで英Guardianが報じていた。そろそろ10日が経過すると思われるが、期間延長も考えられる。ソニーはこれを不服とし、控訴する構えだ。

さて、オランダでの輸入差し止めがどのぐらい影響を与えるのだろうか。

Guardianによると、オランダはPlayStation 3の主要な輸入拠点となっており、ここから他の欧州国に流通することになる。ソニーは欧州で毎週10万台程度のPlayStation 3を出荷しているという。多くが事前発注ベースの輸入であり、長期化すれば在庫と販売に影響するだろう。ちなみに、現時点ではドイツ、フランス、英国のAmazonでPlayStation 3を見てみると、多くの機種が「在庫あり」となっている。

今回はあくまでも仮処分だが、オランダで特許侵害と正式に認められたとしても、この判決が欧州のほかの国で自動的に適用されるわけではない。欧州連合という枠組みはあっても、特許は現時点では加盟国は自国の法に基づき運用されている。ソニーがドイツ、フランスなど他の国でPlayStation 3を輸入できる可能性は十分にある。

ソニーとLGの対立は特許クロスライセンス契約の更新がうまくいかなかったためといわれており、これ以外にもお互いを相手取った特許訴訟が起きているようだ。調べてみると、2010年末にスマートフォンでソニーがLGを米国で訴えている。

2つ目の問題は、米国でのPlayStation 3ハッカー追跡だ。これは、ソニーが2010年春にリリースしたファームウェアでPlayStation 3の「その他のOSインストール」機能を無効にしたことに端を発する。これを不服とした集団訴訟も起きたが、ハッキングしてこれを回避してみせたのが「iPhone」脱獄で有名な21歳のハッカーGeoHot(George Hotz)氏だ。GeoHot氏とハッカーグループの"fail0verflow"は脱獄コードや修正コードを公開、これを利用すればPlayStation 3上であらゆるソフトウェアが動かせる状態になってしまった。

ソニーがそのままにしておくはずはなく、2011年1月、GeoHot氏と同ハッカーグループを相手取り、デジタルミレニアム著作権法、コンピュータ不正使用防止法の侵害として北カリフォルニア連邦地方裁判所に訴状を提出した。これに対し、GeoHot氏は"自分が購入した後はコンピュータは自分のものであり、自由にプログラミングする権利がある"と主張しており、電子フロンティア団体(EFF)もこれを支持する見解を発表している。

同月末、連邦地裁は著作権侵害に該当する可能性があるとして、GeoHot氏に対しPlayStation 3ハッキングに使ったコンピュータやハードディスクの提出を求めた。そして3月初め、下級判事はソニーに対し、GeoHot氏のブログGeohot.comに過去26カ月間アクセスした人を特定できるIPアドレス情報の収集などを認めた。

この間、GeoHot氏は訴訟費用捻出のためのキャンペーンを展開、「自分が所有するPlayStation 3をハッキングしたことに対して訴訟を起こした」「ソニーは弱いものいじめだ」などと主張している。なお、第1ラウンドの資金集めはすでに目的額に到達し終了したとのことだ。

コンピュータ製品が出回り、プログラミングの知識やスキルのある人口が増えてくると、GeoHot氏のようなケースはまれではなくなってくる。今回の訴訟の動向は注目に値しそうだ。

なお、LGは米国でもPlayStation 3に対しオランダと同じ特許侵害訴訟を起こしている。

ソニーは2月14日の会計年度2010年第3四半期(2010年10月 - 12月期)の決算資料で、同年のPlayStation 3の売り上げ目標を1,500万台としている。これは前会計年度の1,300万台を上回るもので、第3四半期までに1,220万台を売り上げているとのことだ。