日本では、ポルノの規制強化を目的とした東京都の青少年育成条例改正案が年末に可決し、論議を呼んでいるが、英国でも年末、ポルノに関する話題が出た。問題は、ネット上のポルノ素材からどうやって子どもを守るか。今月にも、政府とISPが会合を持ち、ISPレベルでの遮断を義務付けるかどうかを話し合うことになっている。ポルノと表現の自由の境界線は古くからのテーマだが、その是非はもちろん、ネットという空間での遮断が思惑通りに可能かどうか、関係者からは否定的な意見が出ている。

2010年11月、保守党議員のClair Perry氏が庶民院の延会討論で、ネット上のポルノコンテンツ遮断を提案した。18歳以下の子供がインターネットでポルノコンテンツを見てしまうことがないよう、ISPレベルでシャットダウンしてはどうかという案だ。この場合、18歳以上のユーザーがポルノコンテンツを閲覧するには、オプトインしてアクセス権を得ることになる。

その後、12月18日付のSunday Timesに対し、文化・メディア・スポーツ省のEd Vaizey大臣は、ネット上のポルノに子どもがアクセスできてしまう問題は「とても深刻」と述べ、ポルノコンテンツ遮断についてISPと会合を持つと明かした。Vaizey氏は、Perry氏のように規制化が急務という考えは示しておらず、ISPが自主的に協力することが望ましいという意見を述べている。

これを受け、さっそく懐疑論が渦巻いた。規制の是非はもちろん、争点は、そのような規制が効果があるのか、そして、そのような規制が今後及ぼす影響、の2つに集約できる。

Perry氏はIT情報サイトのThe Registerに対し、「TV、映画館、書店の陳列棚、広告などについては、子どもが不適切な画像などに触れることがないようにすでに規制化しており、その取り組みは成功している。また、モバイルオペレータもアダルト向けコンテンツへのアクセスを制限できる」と述べ、インターネットでも規制できる、という考えを語っている。「ISPも子どもの安全の責任を担うべきだ」とPerry氏は述べている。

だが、ISP業界団体のISPA(Internet Services Providers' Association)は反対する。英国の主要ISPはすでに、児童ポルノや児童虐待など違法とされるコンテンツを遮断しており、それに該当しないポルノについてはペアレンタルコントロールツールを提供している。同団体は、子どものインターネット保護については、トップダウンではなく、保護者がコンテンツ表示を制限できるペアレンタルコントロールで十分、と主張している。

同時に、実際にそのようなことが技術的に可能かどうかという問題も上がっている。フィルタリングに利用されるブラックリストに全員が同意することは難しく(表現の自由か、ポルノなのかの問題)、運よくブラックリストができてフィルタリングしたとしても、アクセスしたい18歳以下のユーザーは必ずや抜け道を見出すだろう。

実際、英国ではすでに痛い事例がある。ISPが児童ポルノのフィルタリングに利用しているブラックリストを作成するオンライン監視団体Internet Watch Foundation(IWF)が2008年、あるWikipediaの画像を違法として該当ページをブラックリストに加えたために、Wikipediaにアクセスできなくなったという事件だ(Wikipediaに掲載されていたヘビーメタルバンドScorpionsの「Virgin Killer」のアルバムジャケットが児童保護法に違反している、というもの。IWFは混乱を受け、結局は数日以内に該当ページブラックリストから削除した)。このとき、問題の画像のみならずWikipediaの記事も閲覧できなくなり、逆に市民の関心を強めてしまった。ブログなどが禁止とされた該当画像を公開し、広まったのだ。この事件を見ただけでも、ISPレベルの遮断義務付けは、効果がどのぐらいあるのか疑問だ。ISPが多額の費用を投じて実装したところで、効果が出ないばかりか混乱が起こったという事態になりはしないか?

権利団体らは、このようなことが規制化されたならば、将来ポルノ以外のコンテンツにも拡大し、検閲の入り口になるのでは、と主張する。18歳以上ならばアクセスできるコンテンツが最初から遮断されるのだ。市民が閲覧してよいコンテンツを政府が決めるというアプローチといえ、「WikiLeaksなどのサイトも遮断されるかもしれない」とOpen Rights GroupのJim Killock氏は述べている(米国では、国務省職員にWikiLeaksアクセスを禁止しているといわれている)。著作権を侵害している音楽ファイルの取り締まりに悩む音楽業界も、この仕組みに便乗するかもしれない。

なお、これほど話題になるポルノだが、The Guardianが面白いデータを載せていた。英国ではオンライン動画トラフィックのざっくり半分がアダルト向け動画なのだという。YouTubeが25%を上回るレベルなので、大きなシェアを持つといってよいだろう。そういえば、スマートフォンブーム前に、モバイルコンテンツをどうやって開花させるかのセッションで、最大の収益を生んでいるのはポルノだと聞いた。

これに加えて、この頃ではポルノコンテンツの無料化というトレンドもあるそうだ。インターネットにより新聞などのコンテンツの無料化が進んでいるが、ネット上のポルノの場合は海賊行為などが進み、氾濫しているという。余談だが、ポルノ関連メディア大手のPrivate Media GroupのCEOが、このような自社コンテンツの違法行為をネット上で取り締まることは意味がなく、海賊行為であっても自社コンテンツが広まるのはプロモーションになる、とコメントしていた。レコード企業らの姿勢と比較して興味深い。

今後、ポルノ遮断の議論がどう発展するのか。動きがあれば紹介したい。