英Virgin Groupが11月30日、iPadオンリーのデジタルマガジン「PROJECT」をローンチした。年内には"メディア王"ことRuoert Murdoch氏のNews Corpが、やはりiPad向けに「The Daily」というオンラインメディアを発表すると見込まれており、既存メディアのiPad進出が来年前半に加速する可能性がある。

Virginの創業者であるRichard Branson氏自らが米ニューヨークに乗り込んで発表したPROJECTは、Holly Branson氏(Branson氏の娘)、編集担当のAnthony Noguera氏が手がけたVirgin Digital Publishingのプロジェクト。文化、ハイテク、トラベル、ビジネスなどのカテゴリを網羅する100ページ程度のマガジンで、クリエイティブな人向けとしているが、ビジネスマン向けの高級紙といったところだろうか。動画、ブログとの連動など、インタラクティブ性も特徴だ。

iPadマガジン「PROJECT」のローンチイベントに登場したVirgin GroupファウンダーのRichard Branson氏

実はiPad出版では、早くからMurdoch氏が食指を伸ばしていることが報じられていた。Murdoch氏がメディア王の異名を持つ所以は、傘下に「The Times」および日曜版「The Sunday Times」のほか、「New York Post」「Wall Street Journal」などを持つため。MySpaceの買収でオンライン強化を図ったが、あまりうまくいっていない。Murdoch氏は2010年7月のThe TimesとThe Sunday Timesの有料化など、既存メディアブランドの有料化にも積極的だ。米Googleに対する「われわれの記事を盗んでいる」などの発言でも紙面をにぎわせた。

Murdoch氏は前々から、「New York Times」などの主要紙にThe Dairyに関する情報を提供していた。それによると、ニューヨークにあるNews Corpオフィスで、雑誌「New Yorker」などから著名な編集者やプロデューサーを引き抜き100人体制で準備を進めているとのこと。Steve Jobs氏をはじめ、Appleとの協業も進めており、The Dairy作成にあたってAppleの開発者も技術協力しているようだ。今月と目されている発表にはJobs氏も登場するといわれている(スタートは2011年となるようだ)。

Branson氏はライバルMurdoch氏を出し抜くかのようにPROJECTを発表、「質で競争する」と語ったとのことだ。だが、ローンチから1週間も経過していないが、PROJECTの評判はそれほどでもない。

まずは技術面。App Storeで提供されているPROJECTは、リーダーを無料ダウンロードしてコンテンツを購入するのだが、入手に2時間半かかったといらいらを隠せないのはPaidContentだ。操作性やナビゲーションのまずさなども指摘されている。次に内容がある。iPadのアーリーユーザー層を考えると、ハイテク通のビジネスマンというターゲットに至ったのだろうが、タブレットオンリーで出版するのであればもう少しひねりがあってもよさそうなものだ。「機内誌」の域を出ていない、という批判もわかる気がする。まだ創刊号なので、今後の改善に期待したい。

一方のThe Dairyはニュースを中心とするらしいが、これも(面倒ではあっても)PCに向かえば無料のニュースがあふれているのだから、単にニュースを並べるだけでは離陸は難しいかもしれない(この半年でWikiLeaksがもたらしたショックを考えると、既存メディアがちょっと情けなくみえたりもする)。

Branson氏もMurdoch氏も、狙いはデジタルでのビジネスモデルの確立だ。まだ登場間もないタブレットなら、最初から各社が足並みを揃えて"コンテンツは有料"を実現できるかもしれない。タブレットは携帯電話よりも大きな画面と電子ブックにはないインタラクティブ性や機能を持ち、印刷物に近いエクスペリエンスを実現可能だ。また、現時点でのタブレット所有者が比較的高所得者であり、コンテンツに対価を払うことをいとわないのではという期待もあるようだ。

だが、どのぐらいの料金が適正なのかはまだわからない。PROJECTは1号2.99ドル、The Dairyは週に0.99ドルとなっているが、これを高いと感じるか、低いと感じるか。なお、The Dairyの予算は初年度3,000万ドルといわれており、広告収入がついたとしてもすぐに黒字化は難しそうだ。

ちなみにThe Timesの課金後の動向が発表されているので紹介すると、The Timesの料金は1日1ポンド(約1.6ドル)、1週間で2ポンド(約3.2ドル)。課金後、最初の4カ月で有料コンテンツを購入したのは約10万5,000人。半数が継続して料金を支払っている購読者という。これは、Web版、iPad版、Kindle版、それにオンライン購読もセットになった紙の新聞購読者をすべて含む数字だ。だが、ユニークユーザー数は課金前の2,100万人から10月には270万人と、87%減少している。これは、広告主にはどのように映るのか?

一方で、タブレットの進出は当面、続きそうだ。iPadはすでに419万台を出荷しており、年内に630万台を出荷するという予想もある。Androidでタブレットに拡大を図っているSamsungも100万台達成を報告している。