違法ダウンロード対策のための3ストライク法「Hadopi (Creation et Internet)」が導入されているフランス、10月に入り最初の警告メール(参考PDF)がユーザーに送られた。十分に議論されず、強い反対を残したまま成立した同法は、スタート前から困難が多かった。やっと動き出したものの、ISPによっては警告メール送信を拒否するところも出てくるなど、足並みが揃わぬスタートとなった。

Hadopiは2009年にフランスで成立した違法ダウンロード対策法。音楽や映画など著作権のあるコンテンツをP2Pなどで許可なく共有したユーザーに対し、1回目は電子メールで警告、6カ月以内に再度違法行為が見られた場合は電子メールと書留書簡で通知し、それでもやめなかった場合はインターネット回線を遮断される、というものだ。遮断期間は2カ月から1年、1,500ユーロ程度の罰金も課される。一度3ストライクまでいったユーザーはブラックリスト化されるため、あるISPに遮断された後にISPを乗り換えてインターネットを利用する、という手口は取れないようになっている。Hadopiと呼ばれる所以は、監督機関"Haute autorite pour la diffusion des oeuvres et la protection des droits sur Internet"の頭文字からだ。

Hadopiは、シンガーのCarla Bruniを妻に持ち、音楽/映画ビジネス業界と親交が深いNicolas Sarkozy大統領の強力なプッシュの下で2008年6月に議会に提出された。2009年5月、2度目の正直で法が可決した後も、憲法院が憲法に准ずるかを審査し、切断命令を監視機関(Hadopi)ではなく裁判所とするなどの修正が加わった。2010年に入ってからもプライバシー監視機関CNILの調査により施行が遅れるなどの困難を経てきた。

1月にHadopiのトップと組織メンバーが決まった際、関係者らは最初の警告を7月(バカンス前)に送りたいとしていたが、結局はバカンス明けの9月から急ピッチで詰めの作業に入った。政府はHadopiの公式サイトを開設し、警告文のひな形を含む情報とルールを市民に公開した。同時に、モニタリング作業により収集した疑わしいユーザーのIPアドレス情報をISPに送付し、識別を求めた。

Hadopiは第1陣として、約800件の情報をISPに送ったようだ。そして、10月4日、BouyguesとNumericableの2社の顧客に警告メールが送られたことが報じられた。

ところが、法の抜け穴を突いて抵抗を図ったISPがいる - 大手ISPのFree(仏Iliad)だ。電子メールの警告文の送り主はHadopiであって、ISPではない。だが、実際に送る作業はISPとなる。Freeの抵抗とは、「警告メールを送らないことに対してISPにペナルティは設けられていない」と主張、これを根拠に、自社ユーザーにHadopiからの警告メール送付を拒否しているのだ。ちなみに、3ストライクが成立するには、1ストライク目となる最初の警告メールが送られている必要がある。最初の警告メールが届かなかったとすれば、論理上は2ストライク、3ストライク、と進めないことになる(ただし、ISPはHadopiにIPアドレスから割り出したユーザー情報を提出(8日以内)する義務があるらしいので、(警告は届かなくても)Hadopi側は違法行為の疑いがあるユーザー情報を握っていることになる)。

Freeは旧国営France Telecom(Orange)に次ぐ第2番手で、その影響力は大きい。ISPの中には、Freeの行為は競争差別化のためとして不満が出ており、政府に苦情を申し立てたところもあるようだ。Freeの行為は一見、Hadopiに反対しているユーザーには受けがいいはず。ひょっとしてFreeなら守ってくれると思って乗り換えるユーザーも出てくるかもしれない(だが、上に書いたようにHadopi側は違法ユーザー情報を知っているので、冷静に考えるとFreeが守ってくれているとはいい難いのだが)。

ISPの苦情を受け、ISPに対して警告メール送付の義務付けなど法が厳しくなることが考えられる。ユーザー側を見ても、Hadopiが始動する前からどうやってモニタリングの目をくらますかのトリック案などさまざまな情報が交換されている。今後の動向によっては、政府も目をつぶっているわけにはいかず、法に新しい条項を加えて防ごうとするだろう。どうやら、このままでは"いたちごっこ"になる可能性が高い。

別の問題も持ち上がっている。Hadopiでは、仏Trident Media Guard(TMG)がP2Pネットワーク上で違法ダウンロードを行っているユーザーのモニタリングとIPアドレス収集を行っている。TMGは1日5万件(!)程度まで対応していく意向のようだが、モニタリングプロセスでHadopiが情報の正確さ(容疑をかけられたユーザーが本当に違法にコンテンツをダウンロードしているのか)をきちんとレビューしていない点をCNILが指摘しているのだ。

Hadopi支持者は違法ダウンロードによる損失は年間7億ユーロとしているが、方法としてHadopiが正しいのかどうかはユーザー、それに当のアーティストの中でも議論になっている。Freeの抵抗を受け、政府は手数料として1件当たり65セントを払うと持ちかけているようだが、本当ならば他のISPにも同じ料金を払うことになるだろう。TMGの目指す1日5万件となると、1日3万2,500ユーロを費やすことになる……。Hadopiが方向として正しいのか、やはり疑問がわいてしまう。