IT系メディアに限らず、一般紙や新聞でも「Facebook」「Twitter」の文字をよく目にするようになった。そのぐらいわれわれの日常に浸透しているソーシャルメディアサービス(SNS)だが、利用増加に伴い、社会のあらゆるところに影響を与えている。ドイツでは、企業が採用判断にあたって求人応募者のSNSを閲覧してはいけない、という法案が提出された。

わたしは運よく(?)SNSが登場する前に就職活動をした世代の人間だが、いま就職活動するとなるとオンライン上の自分の"足跡"にも神経を使うのだろうか…。Facebookや「MySpace」でプライベートな写真を公開していた場合、やはり入社したいと思っている企業の人事担当に見られたくないかもしれない。"まずい"写真はなくても、SNSの個人ページには、友人関係はもちろん、宗教や政治的考え、嗜好がよくも悪くも反映されている。「まずいものは公開するな」「削除すればいい」という声もありそうだが、厄介なのは、何が"まずい"のか本人にはわかりにくいことだ。たとえば、缶ビールを手に乾杯している写真をみて、社交性のある人と判断する人もいれば、過度のアルコール好きと推測される可能性だってあるかもしれない。

プライバシー保護に慎重なドイツ政府が8月25日に明らかにした法案は、このような事態がマイナスに作用しないよう、労働者を守るためのものだ。

法案は従業員や求職者のデータプライバシー保護に関する広範なもので、SNSはその1つとなる。具体的には、企業や組織が応募者の私生活など詳しい情報を得るためにFacebookなどのSNSを利用することを禁じている。だが、「LinkedIn」などのようにビジネスネットワーク目的のものは対象外となる。また、「Google」などの検索エンジンを利用したインターネット上の公開情報の閲覧も認められている。考え方としては、プライベートなものとして一般に公開していない情報は、オンラインでもプライベートを保とう、というものだ。

だが、どのぐらいの効果があるのか疑問も沸く。Farebookなどのサイトで表向きに応募者にインビテーションを送らないとしても、ソーシャルエンジニアリングを含め何らかの手段をとれば、一般公開していないSNSの個人ページを閲覧することはできるだろう。また、有料で情報を提供する人物検索サービス123peopleのようなサービスも出てきている。応募者側にしても、不採用の場合にソーシャルネットワークが原因だったと立証するのは至難の業だろう。

ここで気になったのが、実際に企業が履歴書以外の応募者の情報をインターネットで検索しているのかどうかだ。Googleでググるというのは以前からある行為だと思うが、Der Spiegelが引用しているオンライン求人サービスCareerBuilderのデータによると、SNSを使って応募者を調べたと回答した企業は約45%。驚くべきは、そのうち35%が、そこで見た情報が判断材料となり、応募者を不採用にしたというのだ。

なお、応募者ではなくすでに採用している従業員については、企業は従業員に関する情報をSNSなどプライベートな場所から入手することはできないとしている。

法案はこのほか、労働者のプライバシー保護として、休憩室、トイレ、更衣室などにビデオカメラを設置して監視することも禁じている。社屋の入り口などセキュリティ上必要と思われる場所には設置できるが、その際は社員にきちんと通知する必要があるという。通信でも、電話の傍受、電子メールのモニタリング、GPSによる追跡などの行為にも一定の条件を課す。もちろん、傍受などの行為を行う場合は事前に通知することを義務付ける。

このような法案が持ち上がった背景には、プライバシー保護重視というドイツの文化だけでなく、過去に痛い事例があるようだ。ディスカウント小売店Lidlが数年前、従業員の行動を監視しているという疑いが持ち上がり、政府が調査に入ったという。

法案は今後、議会の審議を経て、最終採決が行われることになる。

ドイツといえば8月、ローンチが遅れている米Googleの「Street View」に進展があった。やはりプライバシーの観点から、Street Viewには当局やプライバシー団体から強い懸念が出ていたが、春にStreet View撮影車のWi-Fiペイロードデータ収集が明るみに出たことで、これに追い討ちをかけた。

ローンチがまた一歩遠のいたかに見えたがGoogleは8月10日、ベルリン、ミュンヘンなど20都市で2010年中にサービスを開始すると発表した。Googleはここで異例ともいえる対策を講じ、ローンチ前に建物の所有者や賃貸者が画像の削除やぼかしを要求できるようにしている。

この発表は、当局から事前の了解を得ていると思っていたらそうではなかったらしく、関係者には寝耳に水だったという。Googleは意図的にバカンスで人が出払っている時期に発表したのではないか、といぶかる向きもある。

FacebookやGoogleのプライバシー懸念が噴出する一方で、時流には逆らえず、ドイツでもこれらサービスの利用は進んでいる。Googleによると、多数のドイツユーザーがStreet Viewを利用しているというし、Facebook利用者も増えている。そういえば、今年に入りわたしのドイツ人の友人もFacebookアカウントを作成した。