英国放送協会(BBC)らのIPTVプラットフォームプロジェクト「Project Canvas」が現実味を帯び始めている。6月にはBBCの運営を監督するBBC Trustが最終承認を出し、7月23日には会長が任命された。インターネットとTVが融合する時代に向けて主導を握ろうとするTV局側の試みは成功するのだろうか?

Project CanvasはBBC、同じくTV局のITV、通信大手BTらが2008年末に発表したプロジェクトで、インターネット対応TVプラットフォームの構築を目指す。IPTV向けの共通インタフェース仕様を開発し、インターネットサービス事業者やデバイスメーカーはこれらを利用してコンテンツの提供やSTB(セットトップボックス)を開発できる。プロジェクト発足後、TV局のFive、Channel 4、ISPのTalk Talk、通信インフラ・メディアサービスのArqivaが参加し7社となったが、Fiveは今年に入り、事業見直しを理由に脱退を表明している。

具体的には、英国のデジタルTV標準団体であるDigital Television Group(DTG) と共同で策定するデバイス向けの仕様、オープンなIPTVプラットフォームの構築、シンプルなユーザーインタフェース開発などに取り組む。これにより、単一のSTBから、BBCの「iPlayer」やITVの「ITV Player」などのオンデマンド(番組キャッチアップ)サービス、「YouTube」「Flickr」などのWebコンテンツにアクセスできる。アプリケーションストア的な展開も考えられそうだ。

利用には専用のSTB(200ポンド程度と予想されている)とブロードバンド契約が必要だが、コンテンツは付加料金なしに視聴できる。これにより、インターネット経由でのTVサービスが発展し、利用増加につながると見ている。現在、オンデマンドサービスは主としてPCなどコンピュータ端末向けだが、TV画面で容易に閲覧可能になれば、利用者はさらに増えそうだ。また、ISPにはトリプルプレイ(インターネット、電話、TV)の発展などチャンスをもたらすとしている。Project Canvasはベンチャー事業名で、サービスブランド名は「Youview」となるといわれている。

BBCは公共事業であるため、ベンチャー事業参加にあたってその運営を監督するBBC Trustの承認が条件となっていたが、BBC Trustは2010年6月、条件付で最終承認を下した。条件には、技術仕様の公開、他のコンテンツプロバイダへのアクセス提供、無料放送(サードパーティは有料で付加サービスを提供できる)、公正な電子番組表の提供などが挙がっており、ローンチ1年後に経過をレビューするという。

なお、BBCは以前、商業部門BBC WorldがITVとChannel 4とビデオオンデマンドプレイヤープロジェクト「Project Kangaroo」で組んだが、先に競争委員会より閉鎖を命じられている。CanvasはKangarooと異なりオープンなプラットフォームを目指すもので、他のTV局やインターネットサービス事業者がコンテンツを提供でき、メーカーは準拠したSTBを開発できる、と違いを説明している。前回の失敗もあってか、すでに公正取引庁からレビューを受けている。

BBCの会長、Mark Thompson氏はProject Canvasを「英国における未来の公共放送の聖杯」と形容している。BBCはオンデマンドなど先進的な取り組みを持つが、Project CanvasはインターネットとTVの融合を見据えたプロジェクトといえる。プロジェクトは今後4年で1億1,560万ポンド(約158億円)ともいわれている。

だが、反対意見もある。声高に反対しているのは、大手衛星放送局BskyB、大手ISPのVirgin Mediaなどだ。すでに自分たちで有料のオンデマンドサービスを展開しており、無料が基本となるProject Canvasは脅威になりかねない。反対派は、立ち上がり間もない市場にBBCのような公共事業の参加は不適切、競争を阻害する、などと主張している。

一方で、Project Canvasの成功には、BskyBやVirgin Mediaの参加が不可欠と見る向きもあり、双方のつなひきはかなり政治的なものになりそうだ。

Project Canvasはこれまで、BBCのヒューチャーメディア&技術担当ディレクターのErik Huggers氏が中心となって進められてきたが、7月23日、会長にKip Meek氏を任命したことを発表した。Meek氏は英国の通信規制機関、Ofconで政策担当などを務めていたベテラン。論争を呼んでいるターゲット広告技術企業のPhormの取締役、投資コンサルの英Ingenious Mediaの取締役などの肩書きも持つが、Project Canvasの会長就任をもってこれらの任務から手を引く。今後、Project Canvasの取締役をまとめ、CEO任命などを進めることになる。

同時に、モバイルオペレータのOrange UKとT-Mobile UKが合体したEverything EverywhereがProject Canvasに参加を検討していることも伝えられている。

Project Canvasは現在、2011年4月にローンチを予定している。