カナダを筆頭にフランス、ドイツ、イギリスなど10カ国の政府は4月19日付けで、Google CEOのEric Schmidt氏宛ての公開書簡を発表した。「Google Buzz」「Google Street View」など、Googleがサービスを開始する方法は軽率と批判している。書簡に署名した代表者のなかからは、規制化に乗り出す可能性を示す「最後通告」とする声も聞かれる。

Googleの"まずやってみる"アプローチに、一部の政府はしびれを切らしつつあるようだ。この書簡は、10カ国のプライバシー保護機関がGoogleの態度に懸念を表明し、市民のプライバシーを尊重するようGoogleおよびインターネット企業に呼びかけたもの。カナダ政府のプライバシー委員会が中心となり、フランス、ドイツ、イギリス、オランダ、イタリア、アイルランド、スペイン、イスラエル、ニュージーランドのプライバシー機関の代表者が署名を寄せている。

各国政府機関は書簡で、Googleのプライバシー軽視が「あまりにも頻繁」と非難、その代表例として今年2月のGoogle Buzzを挙げる。Google Buzzはご存知の通り、同社が2月9日に公開したGmailのソーシャル機能。デフォルトで本名や位置情報などの個人情報が開示されてしまうとローンチ直後からユーザーの苦情が噴出、Googleは2日後の11日にプライバシー設定機能を改善した。

書簡では、Gmailユーザーに「新しいサービスがどのように動くのかについて適切に情報を提供しなかった」「基本的なプライバシー規範や法を無視した」とGoogle Buzzのローンチを非難する。「まずもって、このような深刻なプライバシー問題を抱える製品をどうしてローンチしたのかについて懸念を抱く」と手厳しい。

Google Buzzの前例となるStreet Viewについても、「いくつかの国で、プライバシーとデータ保護についての規制や文化的様式について十分に斟酌することなく開始した」と非難する。総じて、「問題が起きたら修正するというやり方で、一方的に個人情報を公開してしまう製品をロールアウトする、これは容認し難いことだ」と怒りすら感じさせる文面だ。

このようにGoogleのやり方を非難した上で、新しいオンラインサービスを設計する際に、プライバシーの根本方針として最低でも次の6つの点を組み込むよう要求している。

  • 必要な個人情報の収集を最小限に抑える
  • 個人情報がどのように使われるのかについて明確な情報を公開し、ユーザーはこれらの情報を知らされた上で同意できるようにする
  • プライバシー保護の立場にたったデフォルト設定
  • わかりやすく使いやすいプライバシー管理ツール
  • 全ユーザーのデータを適切に保護する
  • ユーザーが簡単にアカウントを削除できるステップを提供し、削除要求に迅速に応じる

これからわかるように、この書簡はGoogleに対する警告と読める。実際、オランダの情報保護局会長で、欧州委員会の諮問機関Article 29 Working Partyの会長を務めるJacob Kohnstamm氏は、Bloombergらの取材に対し、「最後の通告だ」と述べたという。「この最後通告が無視されたと判断した場合、われわれはプライバシーに関する基本的な権利を強制する権力を行使することも辞さない」とKohnstamm氏は続ける。つまり、Google(やその他のオンライン企業)がこれらの要求を無視してサービスのローンチを続けるようならば、各国の当局が規制に乗り出す可能性は十分にある。

これに対しGoogleは、書簡公開から2日後となる4月21日、「Government Requests」というページを公開した。検索などのGoogleサービスとYouTubeに対する政府からの要求を、世界地図上に示したものだ。各国政府からのデータの要求、削除の要求の2種類に大別して、要求の件数とその後の対応をまとめている。データ要求が最も多いのはブラジルの3,663件、削除要求もブラジルの291件が最多で、ドイツの188件が続いている。現在のデータは2009年7月から12月までのもので、6カ月おきに更新するという。

Googleは自己正当化にあたり、情報への自由なアクセスを規定する国連世界人権宣言の第19条を引用している。第19条は、「すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む」(訳は外務省の仮訳から引用)と謳っているが、これは今日のインターネットの世界にも適用できるとGoogleは主張する。その一方で、政府の検閲が強まっていることに懸念を示し、「透明性のあるツール(=Government Requests)が(検閲の)緩和につながると信じている」と記した。

Googleと政府とのすれ違いが続くのか、距離が埋まるのかは様子見となる。だが、規制当局の目が厳しくなったことは間違いなさそうだ。