独SAPは2月7日、CEO交代を発表した。これまで単独でSAPを率いてきたLeo Apotheker氏が退任し、Bill McDermott氏とJim Hagemann Snabe氏の両氏がCEOに就任、共同で経営に責任を持つという体制を敷く。Apotheker氏はCEOだけでなく、エグゼクティブボードメンバーも即時退任するという。約2週間前の業績発表では楽観的なコメントを出していただけに、Apotheker氏退任は驚きの発表となった。

SAPのエグゼクティブボードとスーパーバイザリーボードは、Apotheker氏の任期後に契約を更新しないことに合意し、McDemott氏とSnabe氏の両氏を共同CEOに任命したという。

SAPは「今回の人事はApotheker氏の合意の上」としているが、具体的な理由を公開しておらず、退任に追い込まれたと見る向きが多い。1月27日の第4四半期の業績発表では、バロメーターとなるソフトウェアおよびソフトウェア関連サービスの売上高が前年同期比4%減の25億7,000万ユーロ、2009年通年では前年比3%減の82億ユーロとなった。これらの数値はアナリストの予想を上回っており、Apothecker氏は「厳しい市場環境は続く」としながら、「大きな成長期に入る準備が整いつつある」との見解を示した。

SAPの業績は、世界的な不況もあって2009年に入り低調が明白になった。1972年に創業以来初めてという人員解雇も行われた。その数は3,700人ともいわれる。だからこそ、第4四半期の業績報告は、暗いニュースが続いた後の久々の明るい材料となり、トンネルの出口が見えたことを期待させた。

そういった流れから、突然のCEO交代発表はショックをもって受け止められた。だがその後明らかになった内容から、SAPの病は、景気という外的なものだけではないことが改めて浮き上がってくる -- 製品面では中小規模企業向け、つまりオンデマンドの出遅れが指摘できる。これ以上に大きな影を落としているのが、2008年に発表したサポート体系の変更による顧客関係の悪化だ。また、主としてコスト対策と人員解雇により経営陣に対する従業員の不満が高まっていることも明らかになった。まさしく内憂外患の状態といってよいだろう。

2009年1月にスタートした最新ライセンスポリシーは高額な「Enterprise Support」への一本化を図るもので、StandardおよびPremium Supportを利用するユーザーは割高なアップグレードを強いられた。不況真っ只中に導入した値上げは、長年SAPを利用してきたユーザーグループの反感を買った。

顧客企業の反対を受け、SAPは2009年12月、段階的に引き上げる計画だったEnterprise Supportの値上げに関する決定を延期、1月14日には、Standard Supportを復活させること、Enterprise Supportの値上げをしないとするなど、方針を二転三転させた。

これについて、SAPの共同創業者でスーパーバイザリーボード会長のHasso Plattner氏は、大企業顧客はEnterpriseに満足していたので一本化を判断したが、規模が小さい顧客のことを考慮できなかった、と説明した。そして、値上げは、(Apotheker氏の責任ではなく)全体での決断だったとし、「経営上の失敗だった。間違いを犯してしまった」と述べた。顧客の信頼回復と関係の良好化は最優先課題であるとした。

同じくらい優先される課題は、社員のモチベーション改善だ。2009年9月の社員調査によると、社員の経営陣に対する信頼が低下しており、ポジティブな回答をした人は約50%にとどまったという。Plattner氏は「顧客と従業員がハッピーになるために、できることはなんでもする」と断言した。

今後の展望だが、共同体制ときくと「暫定的」というイメージがあるが、Plattner氏は長期的に得策と考えているようだ。米MicrosoftのBill Gates氏とSteve Ballmer氏、米OracleのLarry Ellison氏とRaymond Lane氏、さらにはSAPでの自身とDietmar Hopp氏、その後のHenning Kagerman氏など、共同体制のときに企業は最高の時代を迎えていると述べた。新たにCEOとなるMcDermott氏は営業、Snabe氏は製品開発のトップを務めてきた。Apotheker氏はカリスマ性に欠けたという批判があったが、新しい2人がどのようなCEOとなるかはまだわからない。

CEO交代にあわせ、SAPはCTOのVishal Sikka氏がエグゼクティブボードメンバーに入ったことも発表した。これは、技術力を誇るSAPが製品イノベーションに力を入れることを期待させるものだ。2月11日にはエグゼクティブボードを一部入れ替え、COOが交代、SMB担当のPeter Lorenz氏がコーポレートオフィサーとなることを発表した。同時に、買収前からBusinessObjectsを率いてきたJohn Schwarz氏の辞任も明らかにした。これらの大規模な人事異動と同様に興味深いのは、全体としてPlattner氏が存在感を表に出していることだ。

米IBM社員だったPlattner氏はSAPを共同で設立、現在でも約28%近くのSAP株式を保有するなど影響力のある人物だ。Plattner氏は新しい経営体制の下、これまでよりも積極的に経営や技術戦略に参加していく意向を示している。

折りしもライバルOracleが米Sun Microsystemsの買収を完了し、システムベンダを目指して勢いに乗っているところだ。経営陣のリフレッシュで巻き返しなるかが注目される。