株価増までもたらしたまさかの決算発表

フィンランドNokiaは1月28日(現地時間)、2009年第4四半期(10 - 12月期)および通年の業績報告書を発表した。携帯電話およびスマートフォンの両方でのシェア増、純利益の改善などを業界は驚きをもって受け止めたようだ。米Appleによる「iPad」発表の興奮が冷めない中、静かな回復という評価も出ている。

この日の業績報告書の詳細は既報の通りだ。

久しぶりの好結果を受け、Nokiaの株価は同日、15%近くも上昇した。iPhoneやBlackBerryの大ヒットと比べるとNokiaのハイエンド端末は冴えず、このところの報道のトーンは「Nokiaは携帯電話最大手ではあるが、iPhoneとBlackBerryを前に苦戦」で共通していた。たとえば2009年12月、米国でのアナリスト向けイベント「Nokia Capital Market Day 2009」後の報道もネガティブなものが多い。米New York Times紙によると、あるアナリストはQ&Aセッションで質問を述べる前に、「この部屋にいる人の誰もが、(Nokiaのいう)2010年の収益改善を信じていないと思う」とまでコメントしたとか。ともかく、(少なくとも米国では)Nokiaには"勢いを失った王者"というイメージが付きまとっている(Appleとの訴訟合戦もマイナスイメージに寄与している気がする)。

Nokia CEOのOlli-Pekka Kallasvuo氏

そうやって迎えた第4四半期の業績発表、Nokiaは1億2,690万台の携帯電話を出荷し、携帯電話における推定の自社シェアを39%とした。同期、市場全体の成長率は前年同期比8%増であるのに対し、Nokiaは同12%増(ともにNokiaの推定)。業界を上回るペースで成長したことになる。シェアは前年同期の37%、前期(2009年第3四半期)の38%からのアップとなる。

注目のスマートフォンでも、推定シェアを40%にアップさせた。前年同期の39%、前期の35%からの改善だ。出荷台数は2,080万台。参考までに、Appleは9月のイベントで、発売から2年強が経過したiPhoneの発売以来の累計出荷台数を3,000万台以上と述べている。

第4四半期の業績について、NokiaのCEO Olli-Pekka Kallasvuo氏は声明文で、「タッチ画面とQWERTYキーボード端末が好調だった」としている。だが、コスト削減対策による押し上げ効果もかなりありそうだ。Nokiaはこの1年、厳格なコスト対策を実施しており、約2,300人を削減している。第4四半期は、研究開発費を前年同期比9%減の16億ユーロに、営業/マーケティング費を同18%増の10億5,000万ユーロにそれぞれおさえている。

シェアが伸びてもiPhone/BlackBerryは依然、巨大なカベのまま

次に、スマートフォン/サービス/地域の3つから分析してみたい。

スマートフォンでは、Nokiaは同期、発売延期の末にやっと投入したMaemo搭載機「Nokia N900」をはじめ、「Nokia X6」「Nokia N97 mini」など4機種のタッチ端末を発売している。

Nokiaはシェアを伸ばしたが、これはAppleやRIMのシェアを侵食したのではなく、英Sony Ericsson、一部で米Motorolaからシェアをとったと見る向きが多い。スマートフォンの中でもハイエンドというより、ミッドレンジにあたる部分で、そのすぐ下には、SamsungとLGという韓国勢が控えている。SamsungとLGはともに、昨年後半よりタッチ画面端末ラインを強化し、スマートフォン分野にテコ入れする戦略を明らかにしている。Kallasuvuo氏は1月の「2010 International CES」にて、自社の広範な製品ポートフォリオを強調しつつ「スマートフォンを民主化する」と述べているが、マス化はまさに、SamsungやLGが得意とすることだ。特にシェア2位のSamsungは昨年末、プラットフォーム戦略を打ち出し、今後はトップを視野に入れた攻勢をかけるとみられている。

Nokiaが前回、短期的に低迷したのは2004年頃だ。当時は折りたたみ式が大ブームで、Nokiaはストレート型にこだわったために対応が遅れた。今回のタッチブームでも同じようなパターンとなるか、第4四半期の数値だけでは決められない。今後の動向を見守る必要がある。

この分野でのNokiaの当面のフォーカスはユーザーインタフェースだ。Nokiaは1月、Symbian Foundationに「User Interface Concept Proposal」として次期「Symbian 4」でのUIの提案を公開している。

サービスは、スマートフォンに関連する重要な事業だ。Nokiaは「Ovi」ブランドでインターネットサービスを提供し、端末の差別化とする狙いだが、まだ起爆には至っていない。Nokiaによると、アプリケーション/コンテンツストアの「Ovi Store」の1日のダウンロード数は100万回を超えているという。参考までに、Appleは1月はじめ、「App Store」を1年半前にオープンして以来、累計ダウンロード数が30億を超えたと発表している。

だがOviはアプリケーションストアだけではない。「Ovi Mail」「Nokia Music」などを含むスイートだ。Nokiaは1月末、地図/ナビゲーションサービスの「Ovi Maps」の最新版を公開するとともに、74カ国をカバーする音声ガイダンス(言語は46言語)などの機能を持つOvi Mapsを一部スマートフォンユーザーに無料で提供することも明らかにしている。NAVTEQという資産をスマートフォン戦略に活用するもので、位置情報/ナビゲーションサービスの開発が進む中、この動きがもたらす可能性は大きいといえそうだ。

最後の地域は、大きな課題を残している。

スマートフォンを含む携帯電話の出荷台数を地域別に見ると、最多のアジア太平洋、中国、中東・アフリカがそれぞれ前年同期比15.4%増、36.4%増、33.5%増で成長したのに対し、欧州は同1.2%減、ラテンアメリカは同6.8%減、北米は同7.3%減となっている。減少した地域の中でも、最も縮小した北米はスマートフォンブームの火付け役であり、サービスの震源地といえる市場だ。Nokiaは繰り返し北米市場強化を強調してきたが、現在のNokiaのビジネスモデルではオペレータ主導の北米市場を攻略するのは難しそうだ。

Nokiaの業績報告書のこのほかの重要なポイントとして、インフラのNokia Siemens Networksの伸び悩みも挙げておきたい。