ベルギー・ブリュッセルのEU本部

6月初めの欧州議会議員選挙の投票で、フリー/オープンソースソフトウェアを支援する非営利団体が欧州全体に市民イニシアティブ「Free Software Pact」を展開している。議員に同条約への署名を呼びかけるとともに、市民に対しては、フリーソフトウェアに投票しようと呼びかけている。IT/ソフトウェアは商業的に大きな規模を占めつつあり、政治にも影響を及ぼしつつあるのだろうか。

Free Software Pactは、フランスの非営利のフリーソフトウェア支援団体「April」が開始した市民活動。Aprilによると、2007年のフランス大統領選挙では、立候補者7人全員が同条約に署名したという。その後、イタリアのフリーソフトウェア団体「Associazione per Il Software Libero」がこの運動を支持し、イタリアの地方選挙などで利用された。

Aprilらは今回、6月に行われる欧州議会議員選挙で、一気に欧州全体に拡大することを狙う。英国、ドイツ、スペインなどでコーディネーターや担当者を配置、市民に対し、自分の支援する議員に同条約へのサインを求めるよう呼びかけている。専用サイトでは、条文の複数言語の翻訳版、署名した議員の一覧などを公開、キャンペーン管理ソフトウェア「GPT」も用意している。

では、このFree Software Pactには何が書いてあるのだろうか? まず、フリーソフトウェアがデジタル分野の自由において果たす役割を認識するとともに、

  1. 国・地方レベルの公共機関におけるソフトウェア調達や開発で、フリーソフトウェアとオープンな標準を選ぶ
  2. フリーソフトウェアのためになる政策を支持し、差別するような政策には反対する
  3. フリーソフトウェアの作者とユーザーの権利のために立ち上がり、脅威となるような法規制プロジェクトに対して反対する

この3つを約束する、とある。

欧州議会議員選挙は欧州連合規模で行われる直接選挙で、加盟国の人口などを考慮し、加盟国27カ国から合計785人が選出される。5月25日の時点で、100人近くの政治家が署名している。なお、この条約は、フリーソフトウェア活動家のRichard Stallman氏も支持している。

以前、英国政府が公共機関のシステム調達にあたってオープンソースを検討することを義務付ける最新のポリシーを発表したニュースを紹介した。現状では、欧州各国の政府システムでは、Microsoftが主流を占めているようだ。

それを裏付ける例が、スイス政府の調達機関に対する米Red Hatらの苦情だ。5月21日、Red Hatをはじめとした18社は、スイス政府の調達機関に対し、オープンな入札プロセスなしにMicrosoftと3年間の契約を締結したとして抗議文を発表している。Windowsデスクトップ、アプリケーションなどを含むワークステーションでの契約で、スイス政府側は、Microsoft製品に十分対抗できる代替がないことを理由に、Microsoftと契約を結んだという。

これについてコメントしたFree Software Pactの英国担当コーディネータ、Mark Taylor氏によると、スイスの例のように、オープンな入札なしにMicrosoftが契約を獲得する例は多いという。5月初め、Microsoftは英国政府の調達機関と自社製品購入に関する新しい契約を締結、今後、調達機関が一括して調達できるようになった。各機関や部門は調達機関を通してライセンスを発注、規模の大小を問わず、同じ割引を受けられるようになるという。これにより、5年で7,500万ポンド(約113億2,757万円)を節約できるとしている。だが、Taylor氏は、プロプライエタリシステムに支払う額は膨大な規模であり、税金の無駄遣いだと批判する(折りしも英国では現在、議員の経費無駄遣いが問題になっている)。

Microsoftといえば、欧州委員会(EC)のWebブラウザのOSバンドルについての独占禁止法調査があるが、Microsoftは5月末、6月3日から3日間の予定でスケジュールされていた口頭聴聞会の日程再調整を要求した。同じ日程で別のカンファレンスが開催されることから、主要な競争担当メンバーがこの聴聞会に参加しないため影響が見込めない、としている。ECはこれを受け付けず、撤回扱いにするようだが、Microsoftは自社には主張を聞いてもらう権利があるとし、ECによる撤回扱いに合意しないと主張している。

EU対Microsoft訴訟に詳しい弁護士、Thomas Vinje氏は、口頭聴聞会はジュニアレベルが参加するもので、通常、重要な人物は参加しないことをMicrosoftは知っているはずだと述べている。なお、EU競争政策担当委員のNeelie Kroes氏は参加することになっていた。

この訴訟は、Microsoftの「Internet Explorer(IE)」とOSのバンドルに対するノルウェーのOpera Softwareの苦情を受けてはじまったものだが、4月、欧州の業界団体European Committee for Interoperable Systems(ECIS)がOpera側に加わることを発表している。ECISは、米IBM、米Oracle、フィンランドNokiaなどが参加する団体。一方のMicrosoftは5月に入り、IEバンドルへの規制は米Googleのインターネット検索における独占状態を助長することにつながるという主張を展開している。