eBayが4月中旬、傘下にあるSkypeをスピンオフすると発表した。見方によっては「遅すぎた」ともとれる動きだが、同社を買収しようという新たな企業が現れる可能性もある。そんな中、「iPhone」向けSkypeのダウンロードが36時間で100万件に達するなど、PCを席巻したSkypeがモバイルアプリケーションとして再度話題となっている。Skypeの運命はどうなるのだろうか?
|
|
Skype創業者で前CEOのNiklas Zennstrom氏(2006年のETRE 06にて) |
SkypeとeBayの組み合わせは、eBayが2005年9月、Skypeを約26億ドルで買収すると発表したときから、多くの人にとって疑問だったはずだ。当時eBayのCEOを務めていたMeg Whitman氏は、オークション、電子決済(PayPal)など同社事業とのシナジー効果が期待できると買収理由を述べていたが、2007年に評価切り下げとなった。これと同時に、Skypeを創業したNiklas Zennstrom氏らは辞任している。
業績にかげりが見えはじめたタイミングでWhitman氏からバトンタッチされたeBayのCEO、John Donahoe氏は、就任時から、Skypeの自社における役割を注意深く精査していることを匂わせていた。今回のスピンオフ/IPOの発表の前にも、売却の可能性を示唆するコメントが報道されていた。同氏は就任後、1年をかけてSkypeと自社事業のシナジー効果を評価し、今後について意思決定するとしており、先のスピンオフという決断は1年間の評価の末のこととなる。Donahoe氏は、「eBayとPayPalとのシナジー効果は限定的」とし、独立した公開企業としてSkypeを運営することで可能性を最大に引き出すことにしたと説明している。
そのSkypeを巡って、Zennstrom氏とJanus Friis氏の創業者2人が買い戻しを狙っているといううわさがある。このスピンオフ発表前からうわさされており、最新情報としては、2人が経営するベンチャーキャピタルAtomico Venturesで年内に2億6,600万ドルの資金調達を目指して関係者に声をかけているという報道が5月11日に出ている。このほか、Microsoft、GoogleなどがSkypeに関心を持つのではないかという予想もあるようだ。
Skypeのスピンオフを発表後、アナリストはSkypeの予想評価額を20億ドルと見積もった。これに対しDonahoe氏は、20億ドルは安すぎるとコメントしている。
当のSkypeだが、eBay傘下ということを忘れると、ここ数カ月、着実に戦略を実行に移してきた。
|
|
現Skype CEOのJosh Silverman氏(2月のMobile World Congressにて) |
Zennstrom氏の後、暫定CEOから引き継いだCEO、Josh Silverman氏は、モバイルとエンタープライズという2つの方向性に向けて、Skype拡大戦略を進めている。
モバイルでは、今年2月に発表したNokia(フィンランド)との提携を発表、今年後半より、Skypeを「Nseries」に事前インストールすることを明らかにした。これに続き3月末、AppleのiPhone向けクライアントを「App Store」でリリース、これが大ヒットとなった。ダウンロードは36時間で100万を上回ったという。ダウンロード率は全iPhoneユーザーの10%というから、大成功といっていいだろう。
Skypeはまた、Research In Motion(カナダ)の人気スマートフォン「Blackberry」への対応も発表している。Blackberry向けSkypeは今月登場する予定で、こちらもユーザーの反応が期待されている。
だが、以前のコラムで紹介したように、モバイルオペレータの中にはSkypeのモバイル進出を好ましく思わないところも多い。WiFi接続が前提であるにもかかわらず、iPhoneではドイツのオペレータT-Mobileがアクセスを遮断する方針を発表した。これは、VoIPの業界団体Voice On The Net(VON) Coalitionが欧州連合(EU)に苦情を訴えるという事態に発展している。
一方で、同じモバイルオペレータでも、英国の"3"はまったく異なるアプローチを取っている。すでに2008年8月にSkype搭載携帯電話「3 Skypephone」でSkypeと組んでいる3は、年内に第3弾目のSkypephoneを投入する計画を明らかにしている。
驚いたのは、同社が4月末に発表した「Skype on 3」だ。3のSIMとSkypeと互換性のある端末を利用するプリペイド/ポストペイド顧客に対し、Skype通話を完全に無料にするというもの。以前から、Skypeユーザー間の通話は無料だったが、これに必要なデータ通信料金までも無料にするのだ。3はSkypephoneが新規ユーザー獲得につながったとしており、Skype on 3でも、Skypeの無料通信だけでなく、なにかほかのことでお金を落とすだろうと目論んでいるようだ。
このサービスは5月1日よりスタートしており、今年夏には、3以外の端末でも3のSIMを挿入すれば(対応機種であれば)この無料サービスを利用できるようにするという。
エンタープライズでは3月、企業のPBXと接続できるSIP(Session Initiation Protocol)サービス「Skype For SIP」を発表している。同サービスを利用して、自社のWebサイトにClick to Call発信ボタンを組み込んだり、固定・携帯電話への通話をSkype経由にすることで、通信コストを削減できるというものだ。
eBayは、SkypeのIPOは2010年前半に行う計画という。
