満を持して発表した「SAP Business Suite 7」

独SAPは2月4日、最新のソフトウェアスイート「SAP Business Suite 7」を発表した。ERP、CRMなどの業務アプリケーションを集めたスイートとなり、「過去3年で最大のアップグレード」とSAPは意気込む。だが、気になるSaaSについては進展が遅れている。SAPの動きをまとめてみた。

Business Suite 7はSAPの大企業向けソリューションの最新版。「SAP ERP」「SAP Customer Relationship Management」「SAP Product Lifecycle Management」「SAP Supply Chain Management」「SAP Supplier Relationship Management」などのソフトウェアで構成され、業界別ベストプラクティスを含むフラッグシップ製品だ。

最新版の特徴は、モジュールアーキテクチャとなる。これまでもモジュラーを強調していたSAPだが、最新版では必要な機能のみを購入できるようになった。これにより、自社ニーズに合わせて、モジュールを選択して利用できる。これは、コスト面での負担を軽くするだけでなく、リスク緩和や複雑性の緩和などのメリットもあるという。業界別ソリューションを強化し、SOAを土台とすることで、エンドツーエンドでプロセスを実現できるという。

このほか、150以上の追加機能を強化パッケージとして提供、アップグレードが容易になり、コストを削減するという。強化パッケージは年1回ベースでリリースする予定だ。また、2008年1月に買収完了したBIベンダ、BusinessObjectsの技術ポートフォリオへの対応も強化されている。

SaaSへの課題 - 高すぎる価格とコンペティターの台頭

SAPは2008年5月に「SAP Enterprise Support」を発表、7月にはEnterprise Supportにサポートを一本化する方針を発表した。Enterprise Supportは、SAP以外のアプリケーションにも対応する24時間365日体制のサポートサービスだが、料金が割高となることから顧客から強い反発を浴びてきた。Business Suite 7をモジュラー型として利用できるようにすることで顧客の反発を回避できるのか、信頼を回復できるのかが注目されるが、このような経済状況の中、アップグレードする顧客がどれぐらいいるのかという疑問もある。

SAPの課題はこれだけではない。米Salesforce.com、米NetSuiteなどのSaaSベンダの勢いが、SAPが得意とするエンタープライズ分野にも押し寄せようとしている。SAPはSaaSが登場する前から中小規模企業(SMB)強化を課題としてきたが、SaaSベンダに出遅れた。小規模企業で実績を作ったSaaSベンダは、中規模市場もさらってしまいそうな勢いだ。

SAPは2007年に「SAP Business ByDesign」としてSaaS戦略を発表したが、事業展開はスムーズではない。Business ByDesignは現在、米国、英国、中国など6カ国で展開しているが、日本市場を含むその他の地域では提供開始が予定より遅れている。Business Suite 7ではSaaSへの展開計画があるようだが、具体的な発表はされていないようだ。

SAPがSaaSを全面的に進めていくことができない背景には、ライセンスというビジネスモデル、それにシステムインテグレータとの関係があるためといわれている。SAPはBusiness Suite 7を発表したのと同じ日、ローンチパートナーとして米IBMとの提携を発表しているが、SAPの実装や運用、保守、トレーニングで収益を得る企業は多い。SaaSについては、昨年春の「SAPPHIRE Berlin 2008」で、アナリストからBusiness ByDesignを別の事業体にするべきではないか、という声も出ていた。

新CEOはどう出る?

新CEOに就任するLeo Apotheker氏(SAPPHIRE 2008 in Berlinにて)

このような状況を逆手にとるように、米NetSuiteは、SAPがBusiness Suite 7を発表した後、SAPリプレースプログラム「Business ByNetSuite」の拡大を発表している。

SAPのビジネスモデルは収益を生んでいる。1月末に発表した第4四半期の業績報告書では、売上高が前年同期比8%増の34億8,800万ユーロ(約4,100億円)、純利益は同13%増の8億5,000万ユーロ(約1,000億円)と、ハイテク企業の多くが減益を報告する中で成長を維持した。だが、同社は創業以来始めてとなる3,000人の解雇も発表している。その前の第3四半期まで、19四半期連続で2ケタ成長を維持したにもかかわらず、このところの急激な景気悪化には逆らえないようだ。英Financial Times紙のインタビューに応じた共同CEOのLeo Apotheker氏は、「これまで先んじて雇用してきた。調整の必要がある」と説明している。

SAPは今年、CEO交代という節目の年を迎える。Henning Kagermann氏からバトンタッチされたApotheker氏がSAPをどう変えていくのかにも注目だ。