英国のTV局3局 - BBC World(英国放送協会BBCの商業部門)、ITV、Channel 4が共同でビデオオンデマンドプレイヤーを開発するというプロジェクト「Project Kangaroo」に赤信号が点った。競争委員会がビデオオンデマンド市場の競争を阻害する可能性があるとして、閉鎖を命じたのだ。

Kangarooは2007年11月に発表されたプロジェクトで、3局が共同でオンデマンドメディアプレイヤーを提供するというジョイントベンチャー事業だ。

3社はすでに、自社のオンデマンドサービスを展開しているが、Kangarooはその補完的な役割と位置づけられていた。アーカイブコンテンツを追加し、権利のシンジケート機能を持たせることで、英国TVコンテンツのワンストップショップを目指していたものだ。このようなサービスはユーザーにはわかりやすく、利便性もある。コンテンツはほとんどが無料だが、有料コンテンツやパッケージサービスの展開の可能性も示唆していた。

ビデオオンデマンドの市場が立ち上がりかけている段階でTV局がタックを組むことで、ビデオオンデマンド市場が一気に前進することを関係者は期待していたようだ。もちろん、競争もある。インターネットと動画はさまざまな分野が融合するところで、地上波TV局は「You Tube」「iTunes」などのインターネットサービスや衛星/ケーブルTVなど、多方面からのライバルに対抗していく必要がある。Project Kangarooで協力することで、TV局がビデオオンデマンド市場で主導権を握ろうというのが真の狙いだろう。

このような野心的な目的に加え、BBCの将来のデジタルメディア戦略を統括したAshley Highfield氏がKangarooのCEOに就任したことで、Kangarooへの期待はさらに高まった。Highfield氏は、BBCのオンデマンドサービス「BBC iPlayer」を成功に導いた立役者で、英国IT業界では有名な人物だ。

ところが、2008年6月、公正取引委員会がKangarooは独占禁止法に抵触するのではないかと競争委員会(CC)に調査を依頼した。同委員会は12月に発表した暫定報告書で、「Kangarooにビデオコンテンツが過度に集中するため、大きな支配力を与える。これは価格の吊り上げにつながる」という見解を示した。妥当な解決策がなければ禁止の可能性もある、としていた。

そして2月4日、委員会は正式な報告書を発表、「Kangarooは英国のTVコンテンツをコントロールする」という調査結論を出して、活動禁止を命じた。

委員会が公開した報告書は、「3社はビデオオンデマンドの主要な素材をもっていることから、この連盟はTVコンテンツ市場で大きな位置を占めるものとなり、市場の競争にとって大きな脅威となる」と結論付けている。そして、「3社がそれぞれのサービスで競争したほうが視聴者にとってのメリットが大きい」と付け加えている。

今回の赤信号は、条件付でゴーサインがでるのでは、という予想を裏切るものとなった。Kangaroo関係者は意欲を大きくそがれたようで、「英国の放送業界のさらなる発展の機会を失わせる決断だ」と3社は述べている。現在のところ、委員会の結論に対して抗議する予定はなく、そのまま解散となりそうだ。

CCのKangaroo閉鎖という結論には、ケーブルTVや回線混雑を懸念するISPらの働きかけがあったといわれているが、CCの調査がはじまる頃から、Kangarooの勢いは減速していたようにもみえる。当初、2008年中にもアルファ版をリリースする予定だったが、リリースは延期となったし、Highfield氏も報告書が出る前の2008年11月にKangarooを辞めている。

今後だが、3社は当面、自社のビデオオンデマンドサービスを強化することになるだろう。オンラインからの収益増を狙う3社がこの2年でKangarooプロジェクトに投資した金額は7,500万ポンド(約101億円)とも見積もられており、各社にとって痛手であることは間違いない。プロジェクトが消滅することで、Kangarooに移籍していた50人のスタッフは職を失う。開発途中だったプラットフォームの将来については、BTが取得するといううわさがあるようだ。

Kangaroo閉鎖のニュースは、BSkyB、Virgin MediaなどのケーブルTVサービスやIPTVサービスを強化するBTなどにとっては朗報だろう。だが、総合的に見ると、米HuluやオランダJoostなどの国外のオンデマンドサービスにリードを許してしまい国内産業の活性化につながらないという懸念も出ている。

最後に、代表的なオンデマンドサービスであるBBC iPlayerについて。日本ではNHKがオンデマンドサービスを開始したばかりだが、BBCは2007年より放映後7日間のコンテンツをオンデマンドで閲覧できるiPlayerを提供している。当初Windowsのみに対応していたが、Mac、Linux、さらにはモバイル、ゲーム機と対応プラットフォームを拡大している。

「BBC iPlayer」画面が新しくなり、ラジオとTVが同じ画面に統合された。2008年12月の月間リクエスト数は、過去最高の4,100万件に達したという