イタリアの地ビールが楽しめると喜び勇んで駆けつけた地ビールフェスティバル「Salone della Birra"artigianale e di qualita"(サローネ・デッラ・ビッラ"アルティジャナーレ・エ・ディ・クアリタ"、ビールの展示会"地ビールとその品質")」では、予想以上に多種多様な地ビールを提供していた。イタリアだけではなくベルギーやドイツなど、様々なヨーロッのビールが楽しめた。それに加えて、アメリカンエールもちゃっかり並んでいたのには正直意外だった。

アメリカンエールとは、通常のエールでも使われる苦味付けのホップ以外に、香り付けとしてさらにホップ(主にアメリカ産ホップ)を投入したもの。華やかな香りと高いアルコール度数が特徴である。ちなみに、皆さんご存知の「バドワイザー」とは対極のものとなる。実は2006年にもイタリアにあるマイクロブルワリー兼パブを数カ所取材したのだが、アメリカンエールは一度も見たことがなかった。

ところが今回の地ビールフェスでは、2006年10月に行われた「第1回イタリアン地ビールコンクール」で見事優勝したオルソ・ヴェルデ社がアメリカンタイプの「IPA」をイギリスの伝統製法である「リアルエール」で提供しているではないか。このブルワリーは6種類のビールを造っているが、白ビールを除けばすべて下面発酵のドイツタイプだったのにぃ~。

しかも、樽とハンドポンプの間でさらに香り付けのホップを通過させる「ランドル」という容器まで使って、アメリカ本土でもかなりマニアックとされるような"お遊び"をやっていた。このランドルは、アメリカのとあるブルワリーでしか製造していないもの。だからここで使われているランドルもアメリカで買い付けたか、もしくはわざわざアメリカから送ってもらったのだろう。うーん、かなりのアメリカ好きですな! 同コンクールで3位を受賞したビ・ドゥ社もランドルを使ったパフォーマンスを見せていたことから、今後イタリアにもアメリカンエール旋風が巻き起こる匂いがプンプンである。これからどのように展開していくのか非常に楽しみだ。

オルソ・ヴェルデ社ブース。ハンドポンプの下には、アメリカ産カスケードホップを使った「ランドル」が。カリフォルニアの著名ブルワリー「シェラネバダ」のTシャツを着ていることからも、相当のアメリカ好き?

こちらビ・ドゥ社。青い容器が「ランドル」の中に入っているのがホップ(アメリカ産「リバティ」)

イタリア男子はフレーバービールがお好み!?

近年、日本ではミカンやリンゴ、サツマイモ、黒糖などを使ったフレーバービールを造るところが増えてきているが、イタリアとて同様である。イタリアのブルワリーである32 Via dei Birrai(32 ヴィア デイ ビッライ)のファビアーノさんは、ベルギー人という血も手伝ったのか、ビールにフレーバーをつけることには何の抵抗もない様子(ベルギーでは、ビールにフルーツやスパイスなどの副原料を使用することが許されているのだ)。

オレンジの皮やコリアンダーを入れたスペルト小麦の白ビールや、食後酒としても有名なグラッパ村の養蜂家とコラボレートして、栗のハチミツを使ったビールを造ったりで、常に変化球ものを造って楽しんでいるようだ。ちなみに、このブルワリーのクリスマスビールは先のコンクールで堂々の2位であった。他にも、栗やカボチャなどのフレーバーを付けたビールが。日本ではこの種のビールは女性に人気だと思うのだが、イタリアでは意外にも男性に受けていた。

「第1回イタリア地ビールコンクール」で2位になった「32 Via dei Birrai」のボトル。定番3種と秋だけ仕込まれるシーズナル3種がある。ビンのみで、樽はない

タップの下に「Birra Castagnasca」と書いてあるのが「栗のビール」のこと。このビールのコーナーには行列が

この他、「ビールと料理のマリアージュ」「ビールを使った料理」「ビールとチョコレート」といったテーマのセミナーもあって、非常に興味深かった。また会場には「Delfin TS 3100」というグラス洗浄機が数カ所に設置してあり、自由にグラスが洗えるのも非常に画期的であったと思う。ビールをしばらく飲んでいると、麦芽の糖でグラスがべたついてくるし、何よりビールの味が混ざってしまっては、そのビール本来の味が楽しめないしね。日本のビールフェスでもこんな機械が導入されればいいのに!

グラス洗浄機「Delfin TS 3100」。奥の洗剤入りブラシに浸けた後、グラスを逆さにしてワンプッシュすると、下や両脇から水がピュ―ッと出てきてグラスを洗ってくれる。ちなみに彼女はお父さんのグラスを洗ってあげてるんです(念のため)

会場内のセミナー風景

全体的な印象としては、ドイツやイギリスのベーシックなスタイルのビールはほぼどれを飲んでもハズレなし。原料が手に入りやすいだけではなく、近国の新鮮でおいしいビールをお手本できる環境もあるからなんだろう。しかし、際立った特徴というのは私にはわからなかった。これに関しては、私自身が各ブルワリーのキャラクターをしっかりと把握していなかったからかもしれないが……。

フレーバービールやアメリカンエールといった新潮流に関しては、「おっ! 」と思うものもあれば、正直「んっ? 」と感じるものもあった。イタリアで地ビールが誕生してようやく十数年。"歴史がない"ということは、逆に言うと"発想の自由"が与えられているということではないだろうか。近い将来、「イタリアンエール」なるものが誕生することを期待したいものだ。