【コラム】

世界エンタメ経済学

83 テイラー・スウィフトが語る「音楽ビジネスの未来」と稼ぎまくる大御所ロッカーたち

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Voxはテイラー・スウィフトをバッサリ

人気音楽アーティストのテイラー・スウィフトがWall Street Journal(WSJ)に寄稿したエッセイ が大きな話題になっていた。

本記事執筆時点では、まだWSJ日本語版に翻訳があがっていないようだが、このブログ記事 に比較的詳しい内容の紹介がある。

このエッセイ、WSJでは掲載日の7日(米国時間)からいきなり「もっとも読まれた記事」(Popular Now)のトップに入り、またGoogleで検索するとこの記事に言及した他サイトの記事が200くらい見つかる。私がふだんから目にしている玄人筋(デジタル音楽配信などの分野をカバーするIT系や経済ニュース系ブログなど)のサイトでも、このエッセイについての賛否両論などを記した記事が掲載されていた。

・Voxは「テイラー・スウィフトは需要と供給というものがわかっていないんじゃないか」と主張 Taylor Swift doesn't understand supply and demand - Vox

・テイラー・スウィフトの考えは正しい。業界全体もスウィフトに見ならって新しいことにチャレンジすべき」としたGigaOMの記事: Taylor Swift is right about music, and the industry should act on her ideas - GigaOM

だが、後述するような理由から「これがそれほど大騒ぎすることか」というのが正直な感想。若い人気女性アーティストが、自ら経済紙に寄稿記事を書いた、という出来事自体はかなり斬新に思えるが、スウィフト本人の考えにもとくに斬新なアイデアなどは見当たらない印象だ。また「CD(とくにアルバム)が売れなくなった」というのは音楽業界関係者がとっくに織り込み済みで動いているものと思っていたためだ。

「ファンがいま欲しがるのはセルフィー(selfie、写メ)で、もうサインなど誰も欲しがらない」とか「女優の友人によると、いまではTwitterのフォロワー数がオーディションでの重要な選考基準になっている」「音楽業界でも、これからはすでにファン(TwitterやFacebook、YouTubeなどのフォロワー)がいるアーティストがレコード会社と契約を結べるようになる(略)リリースした楽曲を通じて、ファンをつくっていくという従来の形とは逆になる」などというスウィフトの指摘や考えはたしかに面白いが、最後の点についてはすでにそれに近い実例も登場している。YouTubeへの投稿動画がきっかけで世に出る機会をつかんだジャスティン・ビーバーやケンドリック・ラマーがまさにそれだ。つまり、「レコード・レーベルが新人を発掘し、手間暇かけて売り出す」というやり方以外の新しいやり方があることは、改めてスウィフトに言われなくてもいろんな人が知っている、といえよう。

こうした話が話題になる背景には、とくに欧米などで主流になりつつある音楽ストリーミング・サービスの問題がある。CDからデジタル(ダウンロード)配信への変化に伴い、シングルに比べて単価の高いアルバムが売れなくなった。さらに、ダウンロード配信からストリーミング配信への切り替わりで、シングルさえ売れなくなっている。そして、ストリーミング・サービスからの実入りは実に微々たるもので、アーティストやレコード・レーベル側からすると「これでは到底やっていけない」というようは話が再三報じられているとおりだ。

今年1月末に出ていたNYTimesの記事 には、それほど有名でないある音楽アーティスト(チェロ弾き)が実際に受けとった金額として、「自分の演奏が約半年間に150万回以上再生されたPandoraからの収入が1652ドル74セント、1年間に13万1000回再生されたSpotifyからの収入は547ドル71セントで、後者については再生1回あたり0.42セント(約0.4円)にしかならない」といった話が出ていた。

ところが、である。

前回の記事 で触れたForbesのセレブ・ランキング最新版をみると、わりと大勢の音楽アーティストがランクインしているのが分かる。とくに目を見張るのは、「とっくに盛りを過ぎた」と思われる大御所ロッカーたちの稼ぎぶりで、イーグルス(1億ドル)を筆頭に、ボン・ジョヴィ(8200万ドル)、ブルース・スプリングスティーン(8100万ドル)、ポール・マッカートニー(7100万ドル)といった名前が上位に並んでいる。主な若手・中堅どころの収入が、ビヨンセ(1億1500万ドル)、ジャスティン・ビーバー(8000万ドル)、ワン・ダイレクション(7500万ドル)、テイラー・スウィフト(6400万ドル)、ブルーノ・マーズ(6000万ドル)、リアーナ(4800万ドル)、ケイティ・ペリー(4000万ドル)、マイリー・サイラス(3600万ドル)、レディー・ガガ(3300万ドル)……などとなっているので、それと比べると、ライブ・ツアーを主体にした大御所連中の稼ぎがいかに大きなものかが判ると思う。また、若手・中堅連中でもツアーをやらなければ、それほど稼げないことは言うまでもない。

余談になるが、何年か前に舟木一夫という大ベテラン歌手が「日本で一番興行収入の多い歌手/音楽アーティストになった」と話題になっていた。「時間に余裕のできた団塊世代がコンサートに殺到」云々という理由の説明があったと記憶しているしているが、イーグルスやポール・マッカートニーなどの稼ぎぶりにも、それと同じようなところが感じられる。つまり、あまりお小遣いのない若い世代よりも、まだ比較的お財布に余裕のある親の世代を相手にビジネスをしたほうがアーティストの実入りは多い、ということだ。

ここから判るのは、楽曲自体を宣伝・マーケティングの手段としてタダ同然で配ったとしても、ライブという落としどころ(マネタイズの手段)があれば、ミリオンセラーCDから得られるものと同様の金額を稼げる、といったことだろう。また大御所連中のように、すでにしっかりとした知名度(=集客力)があれば、新曲すら必要ない、という見方もできるかもしれない(ひとつのアルバムをつくりあげるまでのプロセスと、何十~何百回もライブ・パフォーマンスを披露しなくてはならないツアーと、どちらがよりシンドイのかは正直判らないにしても)。

上記のVoxの記事のなかには、「ツアーばかりに明け暮れていると、じっくり腰を据えてアルバムをつくるといったことが難しくなる。その結果、レッド・ツェッペリンのアルバムのような手の込んだものが生まれる可能性が失われてしまう」といった懸念も指摘されている。だが、まったく無名のアーティストは別として、ツアーができるほどのアーティストなら当然大勢のファンがすでにいるわけで、そうしたアーティストがほんとうに「時間をたっぷりかけてアルバムがつくりたい」となれば、それこそクラウドファンディングでファンから資金集めをすればいい……といった考えも浮かぶ。

また同記事のなかに「いまのファンがお金を払う=価値があるのは、楽曲やアルバム自体ではなく、希少な資源(scarce resource)であるテイラー・スウィフトという存在自体」云々という指摘もあるが、おそらく今いちばん希少価値があるのは人間の関心(もしくは注意=attention)や時間であり、それを突き詰めると、ファンがお金を出してもいいと思うのは「ライブに参加する自分の経験」ということになるのではないだろうか。

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インデックス

連載目次
第85回 「スーパーボウルのハーフタイムショー出演有料化」をNFLが画策する理由
第84回 ジェニファー・ロペスが携帯電話ビジネスで“股裂き状態”に
第83回 テイラー・スウィフトが語る「音楽ビジネスの未来」と稼ぎまくる大御所ロッカーたち
第82回 稼ぐ女房と節操のない亭主 - ジェイ・Z&ビヨンセ夫妻の“金”況
第81回 NBAの帝王レブロン・ジェームズも……AppleのBeats買収で一儲けした意外な人々
第80回 サビ残、ピンハネ、セクハラ……NFLで続出する「チアリーダー残酷物語」
第79回 すべては母のおかげ……NBA年間MVPに選ばれたケヴィン・デュラント「涙の受賞スピーチ」
第78回 人種差別発言でオーナー追放、過熱するNBA LAクリッパーズ争奪戦
第77回 NBA最下位のポンコツチームに史上最高5億5000万ドルの買値がついたカラクリ
第76回 映画もサントラも大ヒット -『アナと雪の女王』のイディナ・メンゼル、不遇の下積み時代
第75回 セルゲイ・ブリンの奇妙で哀しい不倫話 - シリコンバレーの恋愛事情Part2
第74回 シリコンバレーの恋愛事情 - 「メディア王」マードックの新しいお相手
第73回 RT数の新記録打ち立てたアカデミー賞の自撮りと、その裏にうごめくサムスンの金勘定
第72回 ジミー・ファロン、米深夜テレビの顔に + NBAでゲイの現役選手ついに誕生
第71回 マックルモア&ライアン・ルイス、シーホークス、T-モバイル…全米を席巻するシアトル勢
第70回 ビル・ゲイツが今最も力を入れているモノとは
第69回 風前の灯火のBlackBerry、キーボード付きiPhoneケースの登場でいよいよ背水の陣へ
第68回 売り上げ新記録樹立! 全世界を驚かせたビヨンセの奇襲作戦とは
第67回 ベンチャーキャピタルでインターンをする現役NBA選手がいるって本当?
第66回 玉の輿なるか? エヴァ・ロンゴリアの新しい彼氏に注目
第65回 日本とは桁違いのハリウッド・ママタレ事業 - ジェシカ・アルバの場合
第64回 NFLでも”かわいがり”? 米プロフットボール界に急浮上した「イジメ問題」
第63回 アイアンマンは香港ディズニーランドを救えるか
第62回 ケイト・アプトン、テイラー・スウィフトも所属…米大手タレント事務所の争奪戦が勃発
第61回 中国一の大富豪が巨大映画テーマパーク建設…その驚愕の中身とは
第60回 アメリカ公民権運動に見る、政治と音楽の深いカンケイ
第59回 ウォズニアックも酷評! アシュトン・カッチャー主演の「ジョブズ映画」が大コケ
第58回 クリス・ブラウンの引退示唆、リンジー・ローハン低予算問題作公開
第57回 "セクスティング"で失脚したウィーナー元議員、恥ずかしい偽名で返り咲き
第56回 全米ヒットチャート快走中! ロビン・シックの愛妻家ぶりに脱帽
第55回 ヒラリー・クリントンのビックリ講演料と元政治家のギャラ相場
第54回 ジョニー・デップがっかり…『ローン・レンジャー』に米メディアが大コケ予測
第53回 英米No.1カニエ・ウェストの新アルバム、驚愕の制作舞台裏
第52回 ブラピがヨーデルで捨て身のPRに挑んだゾンビ映画と興行収入の話
第51回 突き抜けっぷりが清々しいカニエ・ウェストのオレ様語録とジェイ・Zのたくましい商魂
第50回 「Hulu」争奪戦に名乗りを上げた米エンタメ業界の大物たちと今後の展望
第49回 マイケル・ダグラスとマット・デイモンがゲイカップルに…話題の問題作が間もなく封切り
第48回 Dr.ドレらが米大学に7000万ドル寄付、起業家育成に意欲
第47回 NBA現役選手の同性愛告白をめぐる反応と課題〈後編〉
第46回 NBA現役選手の同性愛告白をめぐる反応と課題〈前編〉
第45回 ニューヨークのバスケットボール狂騒曲と「背番号42」の重み
第44回 J・ティンバーレイクも教材に?ホワイトハウスで学ぶ音楽と国の歴史
第43回 TIME誌が選ぶ「世界最強のカップルたち」の意外性
第42回 ”ケネディ王朝のお姫様”が次期駐日大使の最有力候補に
第41回 奥様は元スーパーモデル…史上初の快挙遂げた弱小大学チームのヘッドコーチに全米が注目
第40回 ジミー・ファロン「昇格」の噂で激震走る米ショウビズ界とビッグ・アップル
第39回 ラップもお笑いもイケるジャスティン・ティンバーレイクの底力
第38回 米国震撼のサイバーテロと驚愕の全米DQNネーム事情
第37回 信じられない年俸額!米強豪大学フットボールチームのヘッドコーチたちのセレブぶり
第36回 ミシェル・オバマのノリの良さに見るアフロ・アメリカンの系譜
第35回 ”神様”に”王様”も集結、NBAオールスター戦ヒューストンの豪華すぎる週末
第34回 グラミー賞で「大人」をアピールした新生J・ティンバーレイク
第33回 ビヨンセの「口パク」騒動に決着か - 米国歌斉唱をめぐる今昔のドラマ
第32回 ビヨンセにゲイの詩人…就任式の人選に表れたオバマ大統領の周到な目配り
第31回 落ち目の女優とスタッフが集結! リンジー・ローハン主演『キャニオンズ』制作の舞台裏 - 後編
第30回 落ち目の女優とスタッフが集結! リンジー・ローハン主演『キャニオンズ』制作の舞台裏 - 前編
第29回 ウィル・アイ・アムが「大企業から引っ張りだこ」である理由
第28回 ビヨンセとペプシの「5000万ドル契約」に思わぬ難題
第27回 ドジャースとフォックスの計画にMLBが「もっと利益をよこせ」と物言い
第26回 思わずハマる、米国オモシロ最先鋒 ジミー・ファロンの「ダサかっこよさ」
第25回 ジョニー・デップの次回作は「シンギュラリティ」がテーマ?
第24回 米国の次期駐英大使候補に浮上したアナ・ウィンターの「選挙貢献度」
第23回 ビヨンセのセルフ監督ドキュメンタリーと加熱するNYバスケ事情
第22回 25年間で60億~70億ドル? プロスポーツ放映権料が高額になる理由とは
第21回 巨額のカネが動く放映権事業 - 米プロスポーツ中継をめぐる二都物語
第20回 オバマ再選にも寄与したサラ・ジェシカ・パーカーの影響力 - 米中政治と芸能の四方山話
第19回 オバマ大統領再選! 強力すぎる支持者による「最後のお願い」が決定打か
第18回 ハリケーン・サンディの被災者支援に結集した大物アーティストたちの共通項
第17回 有名人の「お買い物」でわかるIT、ショウビズ、政治の地図
第16回 オバマ大統領のホワイトハウスは「娯楽の殿堂」
第15回 坊主頭は成功への近道? キングメーカーとなったJ・カッツェンバーグ
第14回 ジェイ・Z、ビヨンセ、ブルックリン・ネッツにまつわる「4つの数字」
第13回 「アメリカン・アイドル」VS.「X ファクター」のヘッドフォン戦争勃発
第12回 ジャスティン・ティンバーレイクもNBAチームのオーナーに
第11回 ライアン・シークレスト、「メディア帝国」実現に向けて正念場に
第10回 同性愛告白であわや破産から15年…「トーク番組の新女王」になったエレン・デジェネレス
第9回 Google会長の豪邸にキム・カーダシアンの呪い
第8回 NBAの"聖域"もついに陥落か - 「広告塔」としてのスポーツチーム
第7回 ジェイ・Zの舌を巻く商才(後編) - ブルックリン・ネッツの全てを掌握した日
第6回 ジェイ・Zの舌を巻く商才(中編) - NBAをめぐる富豪たちのマネーゲーム
第5回 ビヨンセの夫、ジェイ・Zの舌を巻く商才(前編)
第4回 レディー・ガガ以上に荒稼ぎする"青年実業家"ライアン・シークレストの光と影
第3回 "審査員"ブリトニー・スピアーズの誕生とアメリカン・アイドルの凋落 - 米オーディション番組の今
第2回 ジョブズも予想できなかった? 「クール」になったシリコンバレーにハリウッドが秋波を送る日
第1回 アシュトン・カッチャーに代表されるセレブのサイドビジネス

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