NBAではいまプレイオフがたけなわ(原稿執筆時点では2回戦にあたるカンファレンス・セミファイナルのまっただ中)で、ファンとしては連日なんとも落ち着かない日々が続いている。そんななか、今シーズンのレギュラーシーズンのMVPにオクラホマシティ・サンダーのエース、ケヴィン・デュラントが選ばれたという発表が米国時間5月6日にあった。


[Kevin Durant's MVP Acceptance Speech]


デュラントにとっては初の受賞、しかもレブロン・ジェームズ(過去2シーズン続けてMVP獲得)を押さえての栄誉ということもあってか、受賞スピーチは上のビデオに出ている通り“涙ながらの”という表現がぴったりのものになっていた。晴れがましい席に招かれ、息子から感謝の言葉を捧げられた母親が涙ぐむ、あるいは大泣きするというのはさほど珍しいことでもないが、受賞した息子まで一緒にこれほどエモーショナルになるという場面はあまり目にした覚えがない。

「MVPがもらえると聞いて、まずはレブロンやデリック・ローズ(2011-12シーズンのMVP)の受賞スピーチをYouTbueでチェックし、彼らの喋ったことを少しアレンジした」とデュラントはESPNに種明かししているが、本番でいろいろと話しているうちに、きっと感極まってしまったのだろう。

女手ひとつで4人の子供を育てた母親のワンダ・プラットに向けて、デュラントは「私たち(親子)はこんな晴れ舞台に立つような人間ではなかった。(略)母さんのおかげで我々は(やればできると)信じることができた……(略)……母さんのおかげで、路頭に迷うこともなく、衣服や食料に困ることもなかった。母さんは、子どものために自分の食事を我慢して、空腹を抱えながら眠りについたこともあった。自分を犠牲にして私たちに尽くしてくれた。母さんこそほんとうのMVPだ」などと語っていた。

"We wasn't supposed to be here. You made us believe," Durant said. "You kept us off the streets. Put clothes on our backs, food on the table. When you didn't eat, you made sure we ate. You went to sleep hungry. You sacrificed for us. You're the real MVP."

それで思い出したのは、このデュラントもレブロンも、そしてローズも、そろってシングルマザーの子どもという偶然の一致。NBAでは近年「二世選手」が活躍する例も目立ち、またNBA選手になれる確率も恵まれた環境に育った子どものほうがはるかに高いという説もあるなかで、これはどうしたことだろうか。

少し古い話になるが、2013年2月にNew York Timesに掲載された記事によると、未婚の母親や未成年の母親の下に生まれたNBA黒人選手というのは、想像するほど多くはないらしい。同記事ではこの点について「1980年代に生まれたアフリカ系米国人のうち、母親が20歳以下の時に生まれた子どもの割合は約25%で、未婚の母親から生まれた子どもは60%。……(略)……未婚の母親や20歳以下の母親の下に生まれた黒人NBA選手の割合は平均的な男性よりも推定で約30%も少ない」などとある。

In the 1980s, when the majority of current N.B.A. players were born, about 25 percent of African-Americans were born to mothers under age 20; 60 percent were born to unwed mothers..... Putting all the information together, my best guess is that black N.B.A. players are about 30 percent less likely than the average black male to be born to an unmarried mother and a teenage mother.

最後の一文はかなり意味がわかりにくいが、要は「黒人男性全般に比べて、NBA入りした黒人選手のほうが、幼い母親あるいはシングルマザーの子供である確率が3割も低い(それだけ中流以上の家庭の子供である確率が高い)」ということだろう。少なくとも前後の文脈はそうなっており、またほかにも「貧困層の子どもは幼児期に栄養失調になる確率が高く、それが発育=体格に影響する」とか、「粘り強さや自制心、それにチームメートを信頼することなど、成功する上で重要な要素について、しっかりした家庭や学校で育った選手のほうが有利」などといった傍証も挙げられている。

さて。

Forbesによると、ケヴィン・デュラントの2013年(6月まで)の推定年収は約3180万ドルで、NBA選手では第4位。2011年のシーズン前にオクラホマシティ・サンダーと結んだ総額8900万ドル超の6年契約と、そして2007年にNBA入りした際にナイキと結んだ7年間で6000万ドルというエンドースメント契約が2本柱となっている。今シーズン終了後に更新を迎えるナイキとの契約については、KDブランドのバスケットボール・シューズの売上が昨年1億7500万ドル(前年比約4倍)に達したという話もある(トップはレブロンで年間売上約3億ドル)。今シーズンはMVPを取るほどの活躍ぶりをみせているので、こちらのほうもさらに増えていくことだろう。

2013年夏からデュラントの助っ人を買って出ているジェイ・Zのスポーツエージェント業「Rock Nation Sports」が、果たしてナイキにどの程度の金額をふっかけるのか。それも今年夏の注目点のひとつになりそうだ。

追記. ジェイ・Zとドレイクの「応援合戦」はジェイ・Zに軍配

今月頭までブルックリン・ネッツとトロント・ラプターズとのシリーズ(プレイオフ1st)が行われていた。最終第7戦までもつれ込んだこの対決、結局1点差でネッツが逃げ切りという劇的な幕切れになったが、これを受けてネッツの名誉応援団長的存在となったジェイ・Zが「約10カ月ぶりにツイートした」と話題になっていた。

トロント側ではラプターズのグローバル・アンバサダーを務めるラッパーのドレイクが、全試合でコートサイドに陣取っての応援ぶり。最終戦のあっけない幕切れに、天(コート上にあるスコアボード)を見上げて呆然とする姿を写した写真も出回っていた。

下掲のInstagramの画像はいずれもネッツのホームコート、バークレイズ・センターで写されたもの。ドレイクのほうは、ジェイ・Zに与えられた背番号4のユニフォームを合成されている。





またこの対戦では、トロントの名物市長ロブ・フォードとブルックリンの区長エリック・アダムズが「地元のチームが負けたら、相手に地元出身アーティストの音楽CDを送る」という賭けをした、という話も伝えられていた。

この賭けの話が持ち上がった背景には、ラプターズのGMを務めるマサイ・ウジリがシリーズ開幕当日に開かれたファンの決起集会で、「F* Brooklyn」と放送禁止用語を口にして、NBAから2万5000ドルの罰金を課されたという一件がある。この発言を耳にしたブルックリン区長はさっそく当日の晩に「ブルックリンのほうが品がいい。そのことはバーブラ・ストライサンドと(トロント出身の)ジャスティン・ビーバーを比べてみればすぐわかる。あるいは何かと話題の多い市長と一緒に時間を過ごしてみれば」などとコメント。さらに「(トロントは)コカインをやったことのある市長がいたり、(家宅捜索でコカインが押収された)ビーバーが生まれ育ったりしたところ……ラプターズのGMが下品なことを口にしたくらいでは驚かない」などと痛烈な皮肉を口にしていた。

ところが、である。肝心のロブ・フォードが5月はじめに公務の一時休養を宣言し、なんとアルコール中毒のリハビリ施設に入ってしまった。さらに、施設にいるはずのフォードの姿がいろんなところで目撃されたなどとする話も出ていて,もはや「CDの賭け」どころの話ではないようである。

[Rob Ford Heading to Rehab -- Monologue]
(ロブ・フォードのリハビリ施設入りをさっそくネタにするジミー・ファロン)

参照情報

Kevin Durant wins first MVP award - ESPN

For one day, KD gets away from it all - ESPN

A Generational Wealth of N.B.A. Talent - NYTimes

In the N.B.A., ZIP Code Matters - NYTimes

LeBron And Durant Have The NBA's Best-Selling Signature Sneakers - Forbes

NBA Playoffs: Kevin Durant By The Numbers - Forbes

Toronto Raptors vs. Brooklyn Nets: NBA playoff rivalry heats up - CTV News

The hunt for Rob Ford - Toronto Sun