世界エンタメ経済学(76) 映画もサントラも大ヒット -『アナと雪の女王』のイディナ・メンゼル、不遇の下積み時代

第86回アカデミー賞授賞式で『Let It Go』を披露したイディナ・メンゼル
Michael Yada / (C)A.M.P.A.S.

今回は久しぶりに映画関連の話をひとつ。

日本でも春休みにあわせて劇場公開された『アナと雪の女王』（原題；『Frozen』）。このディズニー最新作の興行収入が全世界で10億ドルを突破、『Toy Story 3』の記録を抜いてアニメーション映画として歴代トップ（一般作品を含めても歴代暫定10位）に立った……そんなニュースが3月末に出ていた。またサウンドトラックの売れ行きも好調で、Billboardによるとすでにミリオンセラーを記録し、アデルの『21』以来の大ヒットになりそうだという。今年のアカデミー賞では作品が長編アニメーション部門で、また主題歌『Let It Go』が音楽部門でそれぞれ受賞していたから、どちらもほぼ順当なところいえるかも知れない。

そんな関係もあってか、先月は『Let It Go』を歌うブロードウェイ出身の女優イディナ・メンゼルに関する話題や映像を見聞きすることが多かった。一番多くの人の目に触れたのはおそらくアカデミー賞授賞式でのステージ（『Let It Go』を披露）だったかと思う。またその数日後にはジミー・ファロンの「Tonight Show」に出演し、ジミーやルーツの面々と『Let It Go』の「学校の音楽室バージョン」を歌ってもいた。

[Disney's Frozen "Let It Go" Sequence Performed by Idina Menzel]

何シーズンか前のテレビドラマ『グリー』にレイチェル（リア・ミシェル）のお母さん（かつライバル校のコーチ）役で出演し、ふたりで『I Dreamed A Dream』（『レ・ミゼラブル』の劇中歌『夢やぶれて』）を歌っていたことを記憶しているが、正直あの時には「よくもまあ、これほどよく似た顔つきの、しかも歌の上手な人たちを見つけてきたものだ」くらいにしか意識していなかった。またいまや大女優となったエイミー・アダムズの（ある意味で出世作の）『魔法にかけられて』にもメンゼルが出演していたというのを今回知ったが、どの役で出ていたのか心当たりが無い。（編註：パトリック・デンプシー演じるロバートの恋人ナンシー役を務めていた）

[I Dreamed A Dream from Glee]

そんなイディナ・メンゼルが、Billboard3月29日号の表紙を飾っている。

この記事によると、今年42歳になるメンゼルはなかなかの苦労人らしい。ブロードウェイでこそ『ウィキッド』に出演してトニー賞を受賞するなど輝かしい実績を残し、今では"Fanzels"と呼ばれる熱心なファンも付いているメンゼルだが、ハリウッドではなかなかチャンスをものにすることができず、何度も契約しては打ち切られて……といった経験を繰り返していたのだという。（1998年に出したデビューアルバムは1万8000枚、2002年に別のレコード会社から出した次のアルバムも8万枚しか売れなかったとか）。このあたりには、ブロードウェイ出身者に対するハリウッドの偏見みたいなものも大いに関係しているらしく、「世間では『ブロードウェイの俳優はハリウッドで活躍できない』と言われているのよ」というメンゼル本人のコメントも紹介されている。そうした中でメンゼルが歌った『Let It Go』は200万回もダウンロードされており、デミ・ロヴァートがカバーしたロック・バラード・バージョンの73万8000回よりもはるかに多い。メンゼルはそんな偏見を乗り越え、若い頃からの夢だった音楽アーティストとして成功する夢もついに実現した、といったところのようだ。

なお3月30日には、メンゼルが主役を演じる『If/Then』というミュージカルがブロードウェイでスタートしたという。こちらは、女性として人生を謳歌するか、それともキャリアウーマンとして生きるかで悩むバツイチ女性が主人公の話らしい。

[First Listen: Here I Go | If/Then Musical]

追記：ファレル、シーローに代わって「The Voice」の新しいコーチに。

昨年あたりから「大活躍と言えばこの人」的な存在感を示しているファレル・ウィリアムス。アカデミー賞でも「ハッピー」を披露し、その前にはNBA All Starにも出てきて何曲か歌っていたが、ついにシーロー・グリーンに代わり「The Voice」のコーチも引き受けることにしたらしい。「いったいどこにそんな時間があるんだろうか？」と不思議に思ってしまうが、実はやはり独特な時間管理の秘訣があるようだ。