久しぶりにNBA(米プロバスケットボール)の話題をひとつ。

ゴールデンステート・ウォリアーズ(GSW)というと、サンフランシスコの対岸、オークランドに本拠地がある関係から、いわゆるシリコンバレー(最近では株式公開したTwitterの本社があるサンフランシスコ周辺までを含めてそう呼ばれることも多い)と称される米テクノロジー業界となにかと縁のあるチーム。いわばシリコンバレーにとっての「おらが街のチーム」であり、2010年にはオラクル創業者のラリー・エリソンが買収に名乗りを上げていたことでも知られる。エリソンは結局チームの獲得に失敗したが、本拠地のネーミングライツはしっかり手に入れたようで、「オラクルアリーナ」と呼ばれている。また、「大のバスケットボール好き」で知られるアップルのエディ・キュー(ネット関連事業担当幹部)もシーズンチケット保持者でよく試合を観に来ているという。

そんなGSWに今シーズン加入したアンドレ・イグドラという選手が、先ごろ経済ニュースのBloomberg TVで採り上げられていた。



オールスターや米国代表チームに選ばれたこともあるイグドラは現在29歳。選手としては今まさに脂の乗りきった年頃で、とくにディフェンスの上手なプレーヤーとして知られている。GWSはここ何年か、もっぱらオフェンス(攻撃)力の高さで強豪チームにのし上がってきたところなので、シーズンオフにイグドラの獲得が決まった際には良い選手補強のひとつに挙げられてもいた。

この移籍に関して、シーズンオフにフリーエージェントとなっていたイグドラがGWSを選んだ理由のひとつが、「シリコンバレーに近かったから」というものらしい。そして、シリコンバレーに惹かれるわけが「優れたベンチャー・キャピタリスト(VC)とお近づきになれそうだから」というのが面白い。すでに十分な高給取りだから、自分が起業家として何らかの事業を始めるため、というこでは無論ない。

GWSといえば、筆頭オーナーのジョー・レイコブ(ビデオのなかにも少し顔を見せている)からして元シリコンバレーのVCだ。クライナー・パーキンス(KPCB)という老舗のVC会社でパートナーまで勤め、GWS買収の元手ともなった財を築いている。

また、ビデオのなかでも説明があるように、ベン・ホロウィッツ(いまシリコンバレーでもっとも勢いのあるVC会社、Andreessen Horowitzの共同創業・経営者)、チャマス・パリハピティヤ(元Facebook幹部。同社のストックオプション売却でつくった資産をもとに、Social+Capital Partnershipというベンチャーキャピタル会社を設立)、アンディ・ケスラー(Andy Kessler(Velocity Capital Managementというヘッジファンドの創業者、元物書き、証券アナリスト、チップ設計者)、ストラトン・スクラボス(VeriSignの元CEO)、ジョン・バーバンク(Passport Capitalというヘッジファンドの創業者)といった連中がよくコートサイドに陣取っているとなれば、イグドラにとってもお手本や相談相手には事欠かない、ということになろう。

また、2011-2012(年)シーズンにあったロックアウト(選手会によるストライキ)の間に、イグドラが大手投資銀行(証券会社)のメリルリンチでインターンとして働いていたというも面白い(ロックアウト中に選手がNBA以外のところで働くにしても、国外リーグへの出稼ぎなどがほとんど、といった印象がある)。誰もが顔もしくは名前を知っているようなスター選手が、なじみのない業種でインターンをしようと思ったその発想あるいは経緯も興味深いが、このアルバイトがきっかけでイグドラはVCの仕事に関心をもったのだそうだ。

プロスポーツのスター選手やハリウッドの有名人が、自分の資産の一部をベンチャー企業に投資するというは、昨今ではすっかり定着した感もある。また現役引退後に、映画館チェーンやファストフードのフランチャイズ、不動産開発などの事業で大成功したマジック・ジョンソン(元LAレイカーズ)、あるいは現役の時からトラック会社を立ち上げ、しっかり稼いでいたカール・マローン(元ユタ・ジャズ)のようなよく知られた例もある。しかしそれらと、他の人から預かったお金を新しい事業に投資し、何倍にも増やして返すというVCとは、仕事の中身に大きく異なる点もある。そう考えると、このイグドラという選手、かなりユニークな存在だ……とそんな結びのフレーズを考えていたところで、見落とせない「例外」がいるのを思い出した。

現在LAレイカーズのガードで、年間MVPをとったこともあるスティーブ・ナッシュはすでにベンチャーキャピタル会社を立ち上げて、いくつか投資もしている。Forbesの記事によると、ナッシュもやはりドイツ銀行で3カ月無給のインターンをしたことがあり、そのときに「広告代理店機能の持つVC会社をやったらおもしろそうだ」というアイデアを思いついたのだそうだ。ナッシュはもうそろそろ現役引退(来年で40歳)という年齢だが、引退後にはこのConsigliere Brand Capitalとそして自分の名前を冠した別の投資会社(Steve Nash Enterprisesという)の経営にもっと多くの時間を費やすつもり、などと書かれている。

情報参照元

Steve Nash Brings His NBA Skills To The Boardroom - Forbes