「アナ・ウィンター(米国版ヴォーグ誌編集長)が次の駐英(もしくは駐仏)大使になるかも」という話が米国時間12月5日付のBloomberg記事で報じられていた。久しぶりにかなりビックリしたこの話について、取り急ぎ、簡単に紹介してみたい。


ウィンターと言えば「世界のファッション業界で、もっとも大きな影響力をもつ」とされる人物のひとり。映画『プラダを着た悪魔』でメリル・ストリープが演じた役柄も、ウィンターをヒントに考えられたとされており、またBloomberg TV(経済専門ニュース・チャネル)の「Game Changers」というシリーズ番組で、スティーブ・ジョブズ(アップル共同創業者/前CEO)、マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック創業者/CEO)、ウォーレン・バフェット(バークシャー・ハザウェイCEO、「伝説の投資家」)、マジック・ジョンソン(元NBA、LAレイカーズのスーパースター、現役引退後は実業家として活躍)、ジェイ・Zらと並んでウィンターが採り上げられていることからも、ビジネス・リーダーとしてのその存在の大きさをうかがい知ることができる。


今回の大使候補の話については、オバマ大統領の再選キャンペーンに際して、ウィンターが選挙資金集めで大いに貢献した、というのが主な理由のようで、その点では明らかに「論功行賞」といえる。Bloombergによると、米政権ではキャリア外交官のほかに、そうした形で民間人を大使に起用するというのもとくに目新しいことではなく、過去にはNFLピッツバーグ・スティーラーズのオーナーがアイルランド大使に任命されていたこともあったし、今回の候補の中にもウィンターのほか、オバマ陣営で「金庫番」を務めていた人物、それにウィンターと同様に50万ドル以上を資金を集めて貢献したとされるファンドマネージャーの名前も含まれているという。

6月に女優のサラ・ジェシカ・パーカーと共同で、オバマ大統領の選挙資金集めのパーティをニューヨークで開いていたウィンターは、それとは別に8月にも映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン——ミラマックス(Miramax)の共同創業者で、『恋におちたシェイクスピア』ではアカデミー作品賞を受賞――の邸宅で同様のパーティを開いていたという。なお、パーカーのアパートメントで開かれた前者のパーティの参加費が「おひとりさま4万ドル」、いっぽう後者のパーティも「おひとりさま3万5800ドル」だったという点からも、ウィンターの営業力の凄腕ぶりのなんとなく伝わってくる。

もうひとつ、ウィンターは彼女しかできないような方法で、オバマ陣営に大いに貢献していた。それは「オバマ・グッズ」の企画販売というもの。候補者の名前や顔が入ったバッジやステッカー、Tシャツなどをつくってカンパを募る、というのは米国の選挙では昔から目にするもの。だがオバマ陣営は今回の選挙にあたり、ウィンターの助言を受けて、有名デザイナーや芸能人がデザインした比較的高額な衣料品やグッズを販売、しかもその御披露目のためにファッション・ショーまで行っていたという。


この企画に参加した人々のリストが下記のページでも確認できるが、ダイアン・フォン・ファステンバーグ(夫のバリー・ディラーは有名な民主党支持者)、トリー・バーチ、マーク・ジェイコブス、ナルシソ・ロドリゲス、アレキサンダー・ワンといったそうそうたるデザイナーの名前が並んでいるのはやはりウィンターの功績でもあり、また一部でファッションリーダーとして知られるミシェル夫人のおかげでもあるのだろうか……、さらに、近年は「The House of Deréon」というアパレルビジネスも手がけるビヨンセが母親のティナ・ノウルズとデザインしたというTシャツが並んでいるのも目を惹く。

store.barackobama.com/designers

なお、オバマ選対本部の責任者によると、ウィンターの発案で実施されたこの「オバマ・グッズ販売」は累計4,000万ドルほどの売上になったというから、全体のだいたい4%ほどになる。

Barack Obama, Fashion Magnate - Businessweek

いまのところ、ウィンター本人は「(大使就任には)興味がない」とコメントしているそうだが、候補に英国大使が挙がっている理由は本人が英国生まれであるため。フランス大使は言うまでもないだろう。やはりファッションとのつながりだそうだ。