米プロスポーツ中継の放映権をめぐる大手メディア企業同士の戦いが過熱しているようだ。

NYヤンキースの放映権獲得に動くフォックス

ニューヨーク・ヤンキースと言えば、米MLBを代表するチームで、かつて松井秀喜選手が活躍、今シーズンにはイチロー選手がシアトルマリナーズから移籍、さらに元広島の黒田投手も先発ローテーション入りしてプレイオフ進出に貢献するなど、「日本でもいちばん馴染みのある大リーグのチーム」だと思う(ベーブ・ルースやジョー・ディマジオといった歴史に残る名選手の存在はいうまでもない)。

このヤンキース、営利企業としても相当な価値があるとされ、Forbesが毎年出している「世界のプロスポーツチーム評価額ランキング」でも、マンチェスター・ユナイテッド(サッカー、英プレミアリーグ)、ダラス・カウボーイズ(アメリカンフットボール、NFL)に続く第3位、その価値は推定17億ドルとなっている。

The World's Most Valuable Sports Teams - Forbes

さて。このヤンキースの試合、それにNBAブルックリン・ネッツの試合の、ローカル(地元)マーケットでの放映権を持つYES Networkという会社がある。10年くらい前にヤンキースが音頭をとってつくったケーブルテレビ向けの放送局(チャネル)だが、このYES Networkとヤンキースとの契約が2042年まで延長されそうだという話が米国時間20日Bloombergで報じられていた。

YES Network Said to Extend Yankees Rights Through 2042 - Bloomberg

両社はすでに2037年まで有効な契約を結んでいるが、新たな契約が成立すると2042年時点での放映権料(YESからヤンキースに支払われる金額)は年間約3億5000万ドルにもなるという。ちなみに現在の放映権料は年間8500万ドルほどで今後1年ごとにだいたい5%ずつ上昇していくらしい。

実はこの取引の背景には、もうひとつ別の、少なくとも一桁くらい規模の大きな取引の話が進んでいる。YES株式の約4割をもつ投資銀行のゴールドマンサックス、それにプライベートエクイティ(PE)ファンドのプロビデンス・エクイティという会社がこの持ち株を手放そうとしているとのことで、引き受け先として名乗りを上げているのが、ニューズコープ傘下のフォックス・スポーツ。テレビのフォックスチャネル(米国では全国をカバーする放送網、ルパート・マードックの命を受けたバリーディラーが80年代に立ち上げて成功させた)や映画配給会社20世紀フォックス、それに英国のタブロイド紙や、最近ではWall Street Journalなども傘下に収めるあのニューズ・コープのスポーツ部門だそうである。

News Corporation’s Bid for a Stake in YES Would Value Channel at $3 Billion - NYTimes

フォックスはすでにMLBのロサンゼルス・ドジャースの試合の放映権なども押さえており、今年春にドジャースが21億5000万ドルという記録的な金額で落札された際にも、その価値の大半がこのテレビ中継から見込まれる収入にあるとされていた。なお、この高値でドジャースを手に入れたオーナーグループには、グッゲンハイム・パートナーズというPEファンド、元LAレイカーズ(NBA)の花形スターでオリジナル・ドリームチーム(バルセロナ五輪に出場した米代表チーム)のキャプテンも務めたマジック・ジョンソン、それにゴールデンステート・ウォーリアーズの共同オーナーでもあるマンダレイ・エンターテイメント会長のピーター・グーバーなどが名を連ねている。

Magic Johnson’s $2.3 Billion Dodgers Bid Fueled by TV Potential - Bloomberg

フォックスは、YES株式の49%をだいたい15億ドル程度で買収することになるらしい。また今後3年間で最大80%まで持ち株を増やす可能性も浮上しているが、その際の評価額はの38億ドルにもなるという。なおフォックスの交渉相手は、かつてヤンキースの名物オーナーとして知られたジョージ・スタインブレーナー一族の持ち株会社でYES株式の34%を保有しているという。

ちなみに、いま日本のグリーの時価総額をみたところ、約3260億円=だいたい40億ドルとなっていたから、グリーとYESはほぼ同じくらいの価値がある、ということになる。

フォックスのお膝元で覇権拡大をねらうタイムワーナー

この話に関してもうひとつ目を惹いたのは、フォックスが以前権利を押さえていたロサンゼルス・レイカーズ(NBA)の放映権を、ライバルのタイムワーナー・ケーブル(TWC)に奪われていた、というところ。

レイカーズとTWCは2011年に共同で番組配信に乗り出すことに合意したが、この時の条件が20年契約で総額約30億ドル。また、今シーズンからサービスが始まったこの試合中継の受信料——正確にいうとSportsNetというチャネルの月額加入料金——は3ドル95セントで、ヤンキースの試合を流すYESの3ドルよりもさらに高いが、それでも衛星放送最大手のディレクTVをはじめ、主立ったケーブルテレビ会社(放送・通信会社)や電話会社が配信契約を交わすなど、上々の滑り出しとなっているようだ。

DirecTV reaches deal to carry Time Warner Cable's Lakers channel - LATimes

ニューヨークに本社があるタイムワーナー・ケーブルがフォックスのお膝元であるロサンゼルスに乗り込んでレイカーズの放映権をかっさらえば、今度はフォックスがニューヨークを代表する名門プロ野球チームの権利を獲得……と大手メディアグループ間の争いは過熱する一方のようで、両社の次の戦いは2013年(来年)末に契約期限がきれるLAドジャースの試合放映権。フォックスとTWCとの獲得合戦も予想され、一部ではすでに「総額40億ドル以上」といった金額も出ているようだ。

Fox, Dodgers in talks on multi-billion dollar TV deal-source - Reuters
Los Angeles Lakers Land DirecTV Deal, Time Warner Now Sets Sights on Dodgers - Forbes

追記

スポーツと言えば今年はロンドン五輪とパラリンピックがあった。日々の雑事に追いまくられているせいか、もうはるか昔のことのようにも思えてしまう。

さて、そのパラリンピックの閉会式で、我らがジェイ・Zが、リアーナ、そしてコールドプレイと競演していた。


Jay-Z, Rihanna and Coldplay - LIVE paralympics closing ceremony.

The Hollywodd Reporter(THR)によると、ジェイ・Zとコールドプレイは結構気の合うところがあって、今年の大晦日にもブルックリンのバークレイズ・センターで一緒に年越しライブをやる予定。また、コールドプレイのクリス・マーティン(ボーカル)夫妻——奥さんはご存じ「グリーのホリー先生」こと、グウィネス・パルトロウ——とジェイ・Z&ビヨンセ夫妻とは、プライベートでも仲が良く、過去に何回かいっしょにバケーションに出かけたほどの付き合いとか……4人がカラオケで遊んでいるところなど見てみたいものである。

Coldplay Returns to US for Final Show of the Year with Jay-Z in Brooklyn - THR