Yahoo!の今後を決めるかもしれないM&A

マリッサ・メイヤー新CEOのもとでまき直しを図る米Yahoo!が、スタンプト(Stamped)というモバイル系SNSを買収した(米国時間25日に発表)。

Mayer Buys Bieber-Backed Stamped - Wired

このニュースのなかに、スタンプトの支援者(資金提供者)として「ジャスティン・ビーバー、ライアン・シークレストエレン・デジェネレス」といった名前が並んでいるのを目にして、ちょっとニヤッとしてしまった。そのほかベンチャーキャピタル(VC:法人)では、Google Ventures、それにBain Capitalなどもスタンプトに出資しているという。

スタンプト自体は、サービス開始からまだ1年半ほどの比較的小さなサービス——スマートフォンの普及にあわせて雨後のタケノコのように登場してきたアプリベースのSNSサービス——のひとつのはずで、FacebookがInstagramを買収したときのようなインパクトはむろんない。また「ハリウッドのスターが支援するテクノロジー系ベンチャー企業が見事売却に成功」というのもすでに先例があって、先々週には「ジャスティン・ティンバーレイクらが支援するパーティクル(Particle)という会社がAppleに買われた」という話も出ていた(16日発表)。

Apple snaps up celebrity-backed Web app firm Particle - CNET

それでも、このスタンプト買収のニュースは、米Yahoo!の今後の方向性を知る上で比較的重要な手がかりという価値があるようにも思える。長年業績が低迷している同社では、今年GoogleからヘッドハンティングしたマイヤーCEOのもとで新たな進路を模索中。具体的には、米Yahoo!がもともと強いコンテンツに比重を置くのか、それとも技術開発に力点を置いたサービス分野で差別化するのか、という点が曖昧で、それを「はっきりする必要がある」という声が以前から上がっていたからである(極端な例では「ニューヨークに本社を移して、メディア企業として看板を掛け替えたほうがいい」というような指摘も目にした覚えがある)。そういう米Yahoo!にとって、「技術(開発)+ハリウッド+モバイル」という三要素がそろったスタンプトというのは「絶妙の選択」とも考えられる。

IT長者たちが引き起こす不動産バブル

ところで。「ハリウッドに接近するシリコンバレー(の大手企業)」という動きはこのYahoo!の例だけにかぎらない。すでにGoogleもFacebookも「しっかりと橋頭堡を築いている」というボリュームのある特集記事が、先月はじめにWall Street Journal(WSJ)に掲載されていた。

Tech Titans Hit the Beach - WSJ

この記事の主眼は不動産情報(週末版の目玉のひとつ)なので、その内容も「テクノロジー業界のお金持ちがつぎつぎとロサンゼルス(LA)周辺で豪華な邸宅やマンションを購入」「GoogleのYoutube部門やFacebookがロサンゼルスに拠点を構えたせいで、大勢の社員が移ってきて、不動産物件の価格や賃貸の家賃が大幅上昇」といったもの(次の動画のとおり)。ちなみに「Googleの拠点は500人規模」などという説明もある。

もうひとつ、この記事でとくに興味深かったのは、LA周辺に投資目的などで物件を購入しているテクノロジー業界の大富豪の例をまとめた地図だ。

Tech Titans Hit the Beach - Interactive Graphics - WSJ

世界長者番付6位、総資産額約2.8兆円のラリー・エリソン

この地図のなかには、ジェフ・ベゾス(Amazon)、イーロン・ムスク(テスラ・モータース、スペースX、元Paypal)、ビーター・ティール(元Paypal、Facebook出資者兼社外取締役)、レイ・レイン(HP社外取締役、名門VCクライナー・パーキンスのパートナー、元オラクルCOO)、それにビル・ゲイツと2人でMicrosoftを創業したポール・アレンの名前などもみられる。そうして、Oracleの創業者であり、過去の「豪快なお買い物」の数々でも知られるラリー・エリソンはこの周辺だけですでに27件も豪邸を所有しているとか(おそらく、そのすべてが100万ドル以上のものだと思う)

さて。ラリー・エリソンといえば、数年前に京都の東山にある「何有荘」(かゆうそう)という豪壮な日本庭園付きのお屋敷を買ったり、今年夏にはハワイのラナイ島をまるごとひとつ買ったりと、桁違いの「買い物」で知られている人物。また比較的若い頃からのヨット好きとしても知られ、Oracle BMW Racingのスポンサーとしてアメリカズ・カップを制したりもしている。世界でも1桁台の大富豪——Bloomberg Billionaire Indexをみると「推定資産368億ドルの第8位」と出ている——だから、どれほど高額なお買い物をしてもあまり驚きはないかもしれない。けれど、そんなエリソンがこれまでなぜだか手に入れてこなかったものがある……それがプロスポーツ・チーム(米4大スポーツのチーム)だ。

ラリー・エリソンがいよいよスポーツチームオーナーに?

10月のはじめに、そんなエリソンがNBAの「ロサンゼルス・レイカーズ(LAL)を買うかも知れない」という可能性が浮上して一部で注目を集めていた。

Exclusive: Ellison eyes fellow billionaire's AEG empire - sources - Reuters

より正確には、LALなど複数のスポーツチームや世界各地の競技施設(LALの本拠地ステープルズ・センターなども)を所有、またコーチェラをはじめとするエンターテイメントの興業などを手がけるアンシュッツ・エンターテイメント・グループ(Anschutz Entertainment Group:AEG)が売りに出されるという話の続きで、この「AEG獲得に興味があるか」という打診を受けた候補のひとりにエリソンが入っている、ということらしい。ただし、AEGの代金が最低でも100億ドルということで、さすがのエリソンもほかの投資家といっしょに動かざるを得なそうだ。

サンフランシスコの対岸オークランドを本拠地とするNBAのゴールデン・ステート・ウォーリアーズ(GSW)が2010年に売りに出たときには、エリソンらも獲得に動いたが、結果的には別のグループに獲物をさらわれた。なお、この時の売値は4億5000万ドルで、買ったのはジョー・ラコブというクライナー・パーキンスのパートナーと映画プロデューサー/マンダレイ・エンターテイメント創業者のピーター・グーバー(今年はじめには、PEファンドのグッゲンハイム・パートナーズなどと一緒に、MLBのロサンゼルス・ドジャースを獲得したグループの一員でもある)。

また、昨年メンフィス・グリズリーズ——ジャスティン・ティンバーレイクがマイノリティ・オーナーになったNBAのチーム——が売りに出た際にも、エリソンは購入を検討したとされるが、この時は結局手を挙げずに終わったという。

ただし、この案件に関するエリソンの本当の狙いは、AEGが打ち出しているNFLチーム誘致計画とのこと(ロサンゼルスは、大都市圏にもかかわらず、NFLチームが空白の状態)。また、AEG売却をめぐっては、エリソンのほかに、やはりグッゲンハイム・パートナーズやベイン・キャピタルなどにも打診がいっているようだ……なんだか、同じメンツで延々と「モノポリー」(ボードゲーム)をやっているような感じがする。

なお、テクノロジー業界で築いた富でプロスポーツチームを買ったというでパッと思いつくのは、前述のポール・アレン(マイクロソフト:NFLのシアトル・シーホークスとNBAポートランド・トレイルブレイザーズの2つを長年所有)、それにNBAダラス・マーベリスクのマーク・キューバンといったところ。

キューバンについては「選手よりも有名なオーナー」という形でも知られているが、自分の経営するHDNetを通じてハリウッドとも縁が深い人物。今年はじめには、ライアン・シークレスト、AEG、それにハリウッド最大手のタレント・エージェンシー、クリエイティブ・アーツ・エージェンシー(CAA)と組んで、AXSという新しいテレビチャネルを立ち上げるという話も出ていた。

Ryan Seacrest Launching TV Network With Mark Cuban, AEG, CAA - Hollywood Reporter

そのいっぽうで、今年夏にはABCの「Shark Tank」という番組の収録を優先し、マーベリスクでトレード獲得を狙っていたポイント・ガードで五輪米国代表選手のデロン・ウィリアムズとのミーティングに出ず、それが災いしてウィリアムズをブルックリン・ネッツにさらわれる、というシャレにならない話もあった。

Mark Cuban no-show swayed Deron Williams - Fox Sports

追記1

もうすぐ米大統領選挙が投票になるが、前回記事のビヨンセに続いて、今回はジェイ・Zによるオバマ支持の動画をちょっと紹介。Youtubeの公式チャネルBarackObama.comで公開されているビデオ。ジェイ・Zというより、「成功した実業家のショーン・カーター」として喋っている、との感じも。

[ Our Voice - Obama For America TV Ad]

なお、この公式チャネルには同性愛者の結婚(ゲイ・マリエージ)を認めるオバマ&バイデン組を支持するジェーン・リンチ(テレビドラマ「グリー」のスー先生)やビリー・ジーン・キング(元女子テニス世界王者)などが出演するビデオ、それに女優のナタリー・ポートマン、歌手のアリシア・キーズ("Empire State of Mind")、マーク・アンソニー(ジェニファー・ロペス元夫)、数年前にカミングアウトしたリッキー・マーティン、女優のエヴァ・ロンゴリア(「デスパレートな妻たち」のギャビー)、今シーズンは「グリー」にも出演しているサラ・ジェシカ・パーカーなどのオバマ支持を訴えるビデオも公開されている。

ちなみに、今回の選挙では終盤になっても苦戦が伝えられるオバマ大統領だが、このロンゴリア、マーティン、それに民主党全国大会で国家を斉唱したマーク・アンソニーなどの「ラテン系パワー」でフロリダ州を押さえられれば勝利にさらに一歩近づけるのではないか、と勝手に予想している次第である。

追記2

米国時間11月1日に、ニューヨークのバークレイズ・センターで、ブルックリン・ネッツの今シーズン開幕試合(相手はクロスタウン・ライバルのニューヨーク・ニックス)があるが、プロスポーツの試合にも付きものの国歌斉唱を誰がやるかが気になって仕方がない。

(これは、2011年にマイアミで行われたNBAファイナル、ヒートvsマーベリックス線の時のもの。マーク・アンソニー本人も「会心の出来映え」といった感じがする)

「今回はどう考えても、ビヨンセしかいないだろう」とファンとしては切に希望しているが、その場合にジェイ・Zはどうなるのか……2009年のMLBワールドシリーズの時のように、自らも登場してくれるのかどうか。

(口パクでなかなかたいへんそうである)