みなさんこんにちは。エンジニアの「シェアして高め合う文化」のすばらしさをもっと広く知ってほしい、そんな想いから始めた連載も今回で3回目。前回は、シェア文化の一例としてteratail(テラテイル:エンジニア特化型Q&Aサイト)に投稿された、「なぜここまで丁寧に答えてくれるの…??」と思わず声を出したくなるような「名回答」をいくつか紹介させて頂いた。

そして今回は、その「なぜ!?」に焦点を置いてみようと思う。

なぜエンジニアは、自身が膨大な時間をかけて手に入れた知識をこんなにも惜しむことなく公開するのか?どんなときに、どんなモチベーションで、何を考えて知識やノウハウを共有しているのか?

本記事からは、teratailにてよく回答をしてくれているユーザー3人にお話を伺い、その「なぜ!?」のバックグラウンドにあるものを探ってみる。今回は、エンジニアとして15年以上のキャリアを持ち、現在teratail全体ランキング3位に君臨するargius氏に話を聞いてみた。

【argius氏】
teratail初期の頃から現在(2016/03/15)に至るまで、889件もの回答を残している。その守備範囲は非常に幅広く、Java(1位/1628)、Perl(1位/221)、C言語(10位/671)、Ruby(13位/993)、C++(7位/521)と、さまざまな技術でランキング上位に君臨している。


どんなシチュエーションで、どんな質問に回答しているの?

argius氏のteratailユーザーページ

-- よろしくお願いします。最初に、普段どんなお仕事をされているかを教えてください。

フリーランスです。業務は、社内システムの開発が主ですね。少人数で多機能をつくる感じだったので、上流工程から幅広くやりました。手掛ける仕事は、JavaやCなどが多かったです。

-- なるほど。JavaもCもかなりの上位ランカーですよね! では、普段どんな風にteratailを使っているのですか?

基本的に普段からブラウザのタブを開きっぱなしなので、帰ってPCを開いたらそのままteratailも開いてる、みたいな感じですね。twitterや注目しているブログなんかと同じ感覚です。つい最近までいた現場では、忙しい時と落ち着いてるときの差がそれなりにあって、空き時間ができたりしてたので、業務の合間の一息ついたときや休憩時間にも回答していました。

-- タブを開きっぱなしで使ってもらえるのは嬉しいです! 息抜きついでに回答しているというユーザーは確かに結構多く聞きます。argiusさんはどんな質問に回答するんですか?

前まではとにかく答えられそうなものをひたすら答えたりしてたんですが、最近は質問によっては回答するのをちょっと待ったりします。

-- なぜ、回答を待つんですか?

単純に最近は自分の得意分野以外の答えられない質問が増えてきたとも感じますし、回答ユーザーも増えてきたので。PHPとかJavaScriptだったら自分よりもっと詳しく答えてくれそうな人もたくさんいるので、その方々に譲ります。

でも、何日も回答されずに未回答で残っている質問があると、覗いてみて答えられそうなら答える、みたいなことをしています。むしろ最近は、その未回答を潰すことに専念したりも。API使って、自分が答えやすい質問を見つけられるアプリを作ったりもしました。昔、回答率が常にトップページに表示されていた時は、そこを100%にしたいなって思ってやってた時期もありました。

回答がつかない質問にこそ答えるモチベーションはどこからくるのか?

-- その、未回答のものを回答するモチベーションって気になります。それってどこからくるのですか?

単純に、1つも回答がないってことは、質問された方は、「放っておかれたの?」「無視されちゃったの?」と思ったりするかなというのがあるので、そこは何かしら自分で答えられるなら答えてあげようかな? と。

-- さらに深掘りしますが、その「答えてあげようかな?」という気持ちはどこから来るのですか?

ざっくり言うとQ&Aってそういうものなんじゃないですかね? ボランティア的な要素なんですかね? 質問するってことは困ってるんだろうなって。質問がこれだけいっぱいある中で、回答がゼロだと寂しいじゃないですか、相対的に。あと、モチベーションでいうともう1個あります。

これまで、自分が本とかネットとかでいろんな情報を教えてもらってきましたが、それを返せる場がないかなっというのはずっと思っていたんです。それもあってブログとかも細々とやってるんですが、teratailはその一環ってのもあります。

-- そういう「返したい!」というのは自然と生まれてくるものなのですか?

どうなんでしょう(笑)。社会に恩返しというと…ちょっと大きい言い方になっちゃうんですけど、そうやって教えてもらってきたものを何かしらの形で返したいという気持ちが、モチベーションとしてどこかしらにあるみたいです。それは別に同じ方向に返さなくてもいいと考えていて、例えばたくさん教わったものを自分で稼ぎに変えて、たくさん税金納めて返す、とかでもいいと思いますし。私の場合はプログラミングが好きなので、エンジニアのコミュニティに還元できればいいのかな、という思いです。一応ブログもやっていますが、teratailで回答してる方が、今のところ返せている気がするというか、実感がある、といったところですね

-- それはエンジニア特有ですよね? そうやって自分が懸命に勉強して得た知識をどんどん公開するという…このやたらシェアする文化は何なんですかね?(笑)

なんていうんですかね…?(笑)。多少なりとも自分が苦労して身に付けたこととはいっても、技術というのは自分で発明したわけではないですからね。単に情報共有できればいい、くらいの感覚なんじゃないかな。そして、情報共有してその情報が広まって定着すれば、自分にもメリットがあるかもしれない。

回答することから得られるものとは?

-- 共有することから生まれるメリットって例えばどんなものがありますか?

なんでしょう、当時はマイナーだったライブラリーとかフレームワークがあって、自分がきっかけで広まったりすれば、嬉しいですし、「こんな使い方見つけたよ!」っていうちょっとしたネタでも、反応があればうれしいな…とかですかね。

例えばこれまで書いたブログで1番ブックマークが付いたものがあって、「Javaのバージョン違いによる機能の使い方の変化」みたいなのを書いてみたんですけど、意外と反応があって、見てくれている人もいるんだなって嬉しかったですね。

-- なるほど。反応を見られるというのは大きいかもしれませんね。エンジニアって基本的にWeb上にいる時間が多いので、Web上で拡散する文化が強いですしね。ちなみに反応とかフィードバックがもらえるっていうのはteratailで回答する上でも大切になってくるのですか?

そうですね。やはり自分が回答して、それが的確な回答だったのかなということは気になりますし、それ自体がフィードバックなのかなと。自分が正しいと思って一応理解はして回答しているんですけど、それが100%正しいかというのは分からないじゃないですか。

実際に回答してみて、一応解決して質問者も納得してるということは、自分の考えや理解は正しかったんだなって、だんだん自分の理解の精度が上がっていく。そういった意味ではフィードバック自体が勉強になります。

-- 自分の知識を試すみたいなところがある?

それです。あとは自分自身の学習するきっかけにもなりますね。自分があまり得意でない技術や言語とかで答えられそうなものに回答したのがきっかけで勉強し始めたりも。たとえばGo言語の、前に木下さんが投稿した…

-- 僕がGo言語の質問を投稿してargiusさんに助けてもらったやつですね(笑)。あの時はありがとうございました。

そうです(笑)。実はGo言語は、ちょっとしかやってなくてバリバリ書けるほどじゃなかったんですけど、Go言語に特化した質問ではなかったし、答えてみたら、それがきっかけでまたGo言語触り始めたりとか。あと、ちょっと前にやって放置してたPythonも、最近たまたま何個か連続で答えられるのが出てきて、調べつつそれに回答してたらまたやろうかなってなってるので、そういうきっかけになるってところが、良い点ですね。

-- なるほど。フィードバックを通じて、すでに自身の中にある知識の理解度の精度を上げつつ、新たな技術に対して勉強する機会が生まれてくるのですね。ありがとうございました。

自分の知識をシェアする背景とは?

argius氏のインタビューをざっくりまとめてみると、こうだ。

シェアすることで、SNSの反応や、teratailでいうコメントやベストアンサーなどフィードバックを得ることができる。それにより自身の知識が本当に正しい物なのかどうかの精度を上げていくことができる。

ただ、その裏には、これまで本やネットを通じて情報を得てきたことに対して何かしらの形で社会に還元したいという想いと、純粋に困ってる人を助けたいという想いが根底にある。

個人的に印象的だったのは、後半の想いの部分が、ごくごく自然なものとしてargius氏に根付いていると感じた点である。これは確かに勉強会で会う他のエンジニアにも共通して感じている。

今回のインタビューを通じて、シェアすることへの背景の片鱗が見えたが、もう少し、他のユーザーへのインタビューを実施し、他にどんな背景が隠れているのか、探っていきたいと思う。次回は、teratailエキスパートユーザーにも認定されており、全体ランキングでも30位とトップランカーである七島氏(@jollyjoester)に話を伺う予定だ。ぜひお楽しみに。

執筆者紹介

木下雄策

1988年生まれ、福岡県出身。エンジニア特化型Q&Aサイトteratail(https://teratail.com)のDevRel(技術者向け広報)担当。2013年にレバレジーズに新卒で入社し、1年でトップ営業マンとなった後、現在のteratailチームにジョイン。年間30以上のエンジニア向けイベント/勉強会を開催している。好きなものはJavaScript(ただしド素人)とスノーボード。