日本はまだまだですが、米国はすっかり夏休みの雰囲気となりました。まもなくやってくるthe Fourth of July(Independence Day: 7月4日)付近は、子供たちのサマーキャンプや野球などのスポーツ物が一時お休みとなるので、休暇をとる親も多く、会社はひっそりとしてしまうことでしょう。

さて、たった今触れた"the Fourth of July"と"Independence Day"の2つの表現をじっくりと眺めてみてください。1つ目はtheで始まりますが、2つ目にはtheがありません。なぜでしょうか? 本連載第51回でこの話題をとりあげましたが、説明しきれなかった部分が多々あったので、今回はtheの使い方についてもう一度話をしましょう。

まずは「なぜarticles(冠詞)を使うのか」から始めましょう。Articlesは形容詞同様、名詞に情報を追加するために使います。そして、この追加される情報によって、読み手や聞き手を混乱させないようにすることが目的のひとつです。ネイティブスピーカ向けの文法の解説書には「articlesはnouns(名詞)を形容するadjective(形容詞)のうちのひとつ」という位置付けになっているものもあります。私が日本で勉強してきた英語は、冠詞は冠詞であって形容詞ではなかったので、当初、この分類には違和感を持ちましたが、たしかにarticlesの用法を考慮すると、形容詞のひとつ、というのはうなずけます。冠詞の中でも特にtheの使用方法は形容詞的です。

今度は、"なぜそこでtheを使うのか"を考えてみましょう。ここで、もう一度、第51回で紹介したPurdue大学のOWL、The Use and Non-use of Articlesの"Definition of articles, 2. Definite Article: the"のセクションを眺めてみてください。このセクションの後半はproper nouns(固有名詞)でのtheの使い方の話で、ルールを覚えるしかないところなので、疑問はないと思いますが、前半の「generic nouns(一般的な名詞)にtheを付ける/付けない」がわかりにくいところではないでしょうか。そして、もう1カ所、"Further Uses of Articles, 2. First vs. Subsequent Mention, 3. General vs. Specific"も、おそらく理解しにくいところでないかと思いますので、今回はここを中心に見ていきましょう。

Generic nounsにtheを付けるケースで一番よく使うのは、一度、話題にあげた「あれ」に再度、触れるときに使用する用法です。これを"USA TODAY"の記事「"Geek girl" helps keep Mozilla safe in scary times」で見つけてみましょう。第2パラグラフに"The programmers generally work for free, ..."という文がありますが、文頭のtheは直前の文章で触れた"thousands of programmers worldwide"のprogrammersとこの文章のprogrammersが同じである、つまり、「あれ」であることを読者にわかってもらうために使っています。そして第3パラグラフの3つめの文章では、"The bad guys are highly motivated …"とtheを使っていますが、これは2つ前の文章にある"Organized cybercrime gangs"を"bad guys"と言い直しており、先ほど触れた「あれ」であることを明確にするためにtheを付けています。

このように、先ほど触れた「あれ」を意味するためにtheを使う例では、まず最初にa/anか単なる複数形で触れて、その次からtheを使うようにします。最初からtheを使っては話がわからなくなります。何の脈略もなしにいきなり「あれは……」や「あのプログラマたちは…」「あの悪いやつらは…」と話題をふられても、「"あれ"って何?」と思いますよね。実際の文章では"Geek girl"の記事の2つめの例のように、まったく同じ名詞を使って触れていないことが多いので、何のtheなのかわかりにくいことがあるかもしれませんが、意味を理解すれば、そこでなぜtheが出てくるのかもわかるのではないでしょうか。

ただし、いきなりtheを使われても「"あれ"って何?」にならないケースもあります。その場にいる誰もが知っていると想定される場合です。たとえば、"Recently, a tragic massacre happened in the popular town.(最近、悲劇的な虐殺がよく知られている町で起きた)"といった場合に、現時点で、日本人なら"the popular town"で秋葉原を思い浮かべると想定できるでしょう。ただ、この使い方は混乱を招くことがあるので、たとえば、"the town famous for electronic toys"のように付加情報を追加してtownを明確に限定したほうがいいかもしれません。特に、読み手や聞き手が日本人ではない場合は、theを付けただけで終わりにしないほうが無難でしょう。

さらに、難しいtheの使い方としては "Further Uses of Articles, 3. General vs. Specific"で解説されているものがあります。これは名詞がcountableなgeneric nounsである場合のみとなりますが、「~というものは例外なく」のような意味を名詞に追加したいときに使う方法です。ここに掲載されている例文の1つめ"A tiger is a dangerous animal."は「例外はあるけれど、一般に虎というものは危険な動物です」の意になり、2つめの"The tiger is a dangerous animal."は「例外なく、虎というものは危険な動物です」となります。

いくつかtheの使い方を説明しましたが、読者の皆様が使う英語は文法の試験を受けているのではないので、難しい用法までも使いこなせるようになる必要はないでしょう。ただ、generic nounsでいきなりtheを使わないこと、また、今回は詳しく触れていませんが、proper nounsでのtheの使い方、ordinal number(first, second, third, …)や世の中で一意に決まるもの(the sun, the earthなど)に常に付けることだけはできるようになりたいものです。文章の読み手や聞き手が混乱しないように、です。ちなみに、冒頭の"the Fourth of July"はordinalであると同時に、ofを含むproper nounなのでtheが必要です。"Independence Day"はofを含まないproper nounですからtheは付けません。

日本人にはなんとも理解しがたいarticlesの話をしましたが、いかがだったでしょうか。ネイティブスピーカ向けの文法書には「口に出して言ってみて、sounds awkwardだったら間違い」のような説明もあるくらいなので、"正しい"というよりは"自然である"ほうが重要なのではないかと思います。文法を勉強して正しいことにこだわるよりも、ネイティブスピーカの手を借りて自然なarticlesの使い方に慣れるほうがいいのかもしれません。