滞在期間と英語力の上達は比例しない!?

2月3日はSuper Bowl Sunday 2008。夕方、スーパーへ買い物に行ったら、誰も彼もがSuper Bowl(すぅっぱぼぉぅろ)の話をしています。本当に、国民的な一大行事なのですが、米国生活が3年近くになった最近は、ようやくこの手の話題にも付いていけるようになりました。2006年は地元デトロイトで行われた行事だったのですが、1年も経っていなかったせいかまったく無関心でした……。

え、3年? じゃあ、英語はぺらぺらでしょ --- いえいえ、はっきり言っておきましょう。これは日本人のmyth(真実じゃないのにみんな信じていること)であり、fallacy(みんなが真実だと思いこんでいる誤った認識)です。英語がペラペラになるためには、米国に住んでいるだけではダメで、英語漬けの暮らしをしていないとだめなんです。「日本語で」のサービスがとにかく豊富に用意されてる米国では、住んでいるだけではとても英語ができるようにはなりません。今回は、米国がいかに英語上達には不適切な国であるかという話をしましょう。

"お客様"には親切に

米国に住んでいる日本人には、米企業で米国人に混じって仕事をしたり、カレッジの寮に入ったり、ホームステイをして英語を勉強している人たちがいる一方で、私のような駐在員とその家族、という人たちが相当数います。米国のすべての州を見回したら、おそらくこちらの方が圧倒的に多いのではないかと思うほどです。

身の回りで起こることすべてを英語でこなしている人は格段に英語が上達するようですが、駐在員の家族となるとそうはいきません。もともと英語が得意だったわけでもなく、米国に憧れていたわけでもなく、突然の赴任話に戸惑いながらも、ちょっと違う暮らしに魅力を感じてやってきた、あるいは家族だから付いてきたという人達です。英語への取り組みは積極的ではない場合が多く、できれば避けて通りたいと思っている人も中にはいます。

英語が話せない点は同じとはいっても、日本人駐在員やその家族と、米国での生活に希望をもってやってくる移民とでは、米国側にとっての存在異義がちょっと違います。日本人駐在員というのは日本企業の米国進出にともなってやってくる、つまり、その州の仕事を増やしてくれるし、税収増も期待させてくれる人たちです。おまけに収入は安定していて米国内で使ってくれるお金も多めなわけです。かくして、米国には「日本語で」のサービスが各種とりそろえられていくことに…。

まずは、日本語のミニコミ誌です。私が住んでいる"デトロイトメトロ"という地域は田舎ではありませんが、決して都会ではないところです。にもかかわらず、ちょっと思い浮かべるだけで、5誌はあります。このようなミニコミ誌は日本食を扱っているスーパーマーケットや日本料理店、日本人がよく訪れる中華料理店や韓国料理店に置いてあり、しかも無料なので、いつでも入手できます。シカゴやニューヨークが中心のものもありますが、広告を眺めると、レストラン、不動産、病院、歯科医院、日本食材店に電子辞書、日本語Windowsが動くパソコン……と、生活に必要な情報を「日本語で」入手できてしまいます。しかも、「日本語で」対応してくれるところが多数掲載されています。

たとえば病院です。日本語で病院を見つけられても、病院へいったら英語を話さないといけないのでは……いえいえ。日本人が大勢住んでいる地域には日本人医師&看護師も多いのです。我が家から車で10分程度で行ける医院は日本人患者が多いらしく、ドクターは米国人ですが片言の日本語を話してくれますし、日本人看護師がいます。診察のお願いや診療内容の説明などは「日本語で」で済んでしまいますし、待合室には日本の新聞や雑誌まで置いてあります。

さらに、大きな病院の場合、日本語の通訳者が数人常駐していて、お願いするとやってきてくれるサービスもあります。私がたまに行っている病院には日本人を専門に診てくれる部署があり、医師や看護師ばかりではなく、事務関係にまで日本人あるいは日本語が堪能なスタッフが大勢いて、まるで日本の病院のようです。以前、この部署で紹介されて耳の検査を受けにいったときは米国人スタッフしかいないところだったので、日本語の通訳付きでした。第35回で「病院に行くときは電子辞書をもっていきましょう」と書きましたが、この病院に関しては英語が話せなくても、電子辞書がなくても困らないのでした。

上達したければ、日本語をシャットアウトするしかないかも

それでは、全日制の日本人学校がなく、現地の公立校へ通う子供たちはどうでしょうか。家庭の主婦と違い、毎日、何時間も英語ばかり聞いている子供は、たしかに英語ができるようになるスピードは早いのですが、他の国から来た子供たちと比べると遅いのが現状です。言語そのものが違いすぎるという問題はありますが、エレメンタリースクール(小学校相当)やミドルスクール(中学校相当)にはバイリンガルの日本人チュータが常駐しているところが多いのも理由のひとつです。社会や理科といった英語が理解できないとどうすることもできない科目については「日本語で」教えてくれたり、試験問題を翻訳してくれたりします。日本の学校の個人面談にあたるParent-Teacher Conferenceのときにはお願いすると通訳もやってくれます。英語がまったくわからない状態でやってくる親や子供達にはとてもありがたい手助けですが、いつまでも頼りきっているとなかなか「英語で」できるようになりませんね。

これだけではありません。先日追突事故にあってしまって保険会社と話をしなければならなかったときのことです。電話をかけて、たどたどしい英語で話をはじめると「ファーストランゲージは何?」と聞いてきます。「日本語」と答えると、すぐに通訳を用意してくれて「日本語で」やりとりができてしまったのです。また、割高になることがありますが、旅行にいくときに米国内に支店がある日本の旅行代理店を利用して「日本語で」すべてを手配することも可能です。「日本語で」本が読みたければ、若干、配送料などが高くなりますが、Amazon.co.jpといったオンライン販売を利用することもできます。

そして、どこの家庭でも利用しているインターネットです。見に行くサイトはもちろん「日本語で」書いてあるところですね。この記事の読者のみなさまが関わっておられると思われるインターネット関連のテクノロジは、米国在住の日本人の英語力上達にはまったく貢献していないわけです。また、最近の高速化されたインターネットのおかげで日本のテレビ番組のほぼすべてをリアルタイムで見ることもできるんです。家の中にいると、いったいどこの国に住んでいるのかわかりません。

というように「日本語で」生活ができてしまうこの国にいたのでは、自分をいじめるくらいの強い思いで英語に触れる努力をしない限り、英語ができるようにならないのです。

ところで、2008年のミス・アメリカに選ばれたKirsten Haglundさんは、英語ができない日本人がたくさんいるこの界隈で育った方です。きっと、スーパーマーケットやレストランなどで日本語を喋りまくっている主婦たちを目にしてきたことでしょう。エレメンタリーからハイスクールまで、学校にも常に日本人が何人もいたはずですから、もしかすると日本人のお友達がいたかも…。